●この小説、めちゃくちゃおもしろいんすよ。「君のクイズ」(小川哲著/朝日新聞出版)。生放送のクイズ番組でクイズプレーヤーである主人公はライバルと決勝戦を戦うが、まだ問題が一文字も読まれていないのにライバルがボタンを押して正答し、優勝する。なぜそんなことが可能だったのか。クイズ小説であり、上質のミステリーでもあって、読みだしたら止められない。長くないので一気に読めるのも吉。小気味よく、読後感もいい。
●で、これは話の本筋には影響しないエピソードなので紹介しちゃうけど、クイズの回答としてトルストイの「アンナ・カレーニナ」が出てくる場面がある。有名な書き出し(幸福な家庭はみな~)を出して、作品名を答えさせるといういかにもクイズらしい問題。主人公はそこから思いを巡らせ、中学生時代に考えた古い物語を呼び起こす。あるところにカレー屋のインド人がいたが、店に客が入らず困っていた。そこで伝説のスパイスを探す旅に出かけた。インド人は命がけでようやく伝説のスパイスを手に入れた。そしてこのスパイスを用いて新たなカレーを作る。一口食べて、インド人は言葉を失う。ぜんぜんおいしくない。「あんなカレーに……(命をかけるなんて)な」。
●それで思い出したのだが、以前ワタシが人から聞いた「アンナ・カレーニナ」の話は少し違う。美貌のアンナは政府高官の妻だったが、ある若い将校と出会い、熱愛する。アンナはすべてを捨てて、将校のもとに走る。しかしやがて将校と気持ちがすれ違うようになり、ほかの女に愛情が移ったのではないかと疑う。どうやらこの男は最初に自分が見込んだほどの男ではなかったようだ。絶望したアンナはつぶやく。「あんな彼になあ……」
-------------
●世間は夏休みなので、今週は当ブログも不定期更新で。
August 15, 2023