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2023年10月アーカイブ

October 31, 2023

ヤマハスタジアムでJ2リーグ ジュビロ磐田vs東京ヴェルディの天王山

ヤマハスタジアム ジュビロ磐田vs東京ヴェルディ
●28日、ふと思い立って磐田のヤマハスタジアムへ遠征することに。この日のカードはJ2のジュビロ磐田対東京ヴェルディ。ともに黄金時代には代表選手をずらりとそろえ、憎たらしいほど強いチームだった名門。今季はともに好調で、J1昇格争いをくりひろげている。J2の優勝は町田に決まり、自動昇格枠はあとひとつ。これを2位の清水と、同勝点で並ぶ3位の磐田と4位のヴェルディで争っている。残すところあと3試合で磐田とヴェルディの直接対決が実現したとあって、場内は熱気ムンムン。
ヤマハスタジアム ジュビロ磐田vs東京ヴェルディ ゴール裏
●こちらが磐田のゴール裏。大一番とあって試合前から熱い。いまにも聞こえてきそうだ、「オー、ナカヤマ!」のチャントが。だが、中山隊長はもういない。10番の山田大記が攻撃の中心か。センターバックに元マリノスの伊藤槙人がいる。控えゴールキーパーにはやはり元マリノスの梶川裕嗣も。マリノスでの梶川は求められるプレイスタイルの違いもあってか、正ゴールキーパー争いに敗れてしまったが、セーブ力が高く、もっとも安心して見ていられるキーパーだった。
ヤマハスタジアム ジュビロ磐田vs東京ヴェルディ ゴール裏
●一方、ヴェルディのゴール裏がこちら。な、なんと、こちらもぎっしりと埋まっていたのだ! チャントの声量でもまったく負けていない。一時期、ホームでも閑古鳥が鳴いていたヴェルディのゴール裏が、今やこんなにもたくましく。浜松駅の新幹線乗り場には行きも帰りもヴェルディ・サポの姿をたくさん見かけた。今のサポは読売時代の栄光とは無関係にヴェルディを応援していると思うのだが、FC東京ではなく東京ヴェルディにハマるのはなぜなのか、聞いてみたい気がする。
●どちらも伝統的にボールを握りたいチーム同士の対戦だけに、パスをつなぐJ2らしからぬ戦いになった。タイトな前半はほとんど決定機が訪れず。しかし後半6分、磐田のコーナーキックを防いだヴェルディがカウンターアタック、林尚輝が決めて先制。後半24分、磐田はゴール前の美しいパスワークから上原力也がビューティフルゴール。結果は1対1。この日、先に試合がはじまった2位の清水が負けたので、どちらかが勝っていれば自動昇格圏の2位にあがれたのだが、痛み分けで順位はそのまま。両チームともにモヤモヤする結果に。
●ヤマハスタジアムは今となってはずいぶん古びたスタジアムではあるが、球技専用でスタンドの傾斜もきつく、見やすさは上々。バックスタンドのかなり後方に座っても、急角度でピッチを見下ろすのでピッチが近く感じる。以前はアクセスに難があったが、2020年に東海道本線の御厨駅が新設されて、駅から歩いて行けるようになった。徒歩20分は十分近い。なので、観戦環境は最高!と言いたいところだが、最大の弱点はほぼ屋根がないということ。だから、自分は雨天中止の心づもりで、前日に天気予報を確認してから、チケットを購入した。別に雨でもカッパを着て観戦すればいいのは百も承知だが、わざわざ遠征するとなれば快適度が重要なので。

October 30, 2023

セバスティアン・ヴァイグレ指揮読響のプロコフィエフ、ハチャトゥリアン、ストラヴィンスキー

●27日はサントリーホールでセバスティアン・ヴァイグレ指揮読響。前半がプロコフィエフの交響的協奏曲(チェロ:宮田大)、後半がハチャトゥリアンのバレエ音楽「ガイーヌ」から「ゴパック」「剣の舞」「アイシャの踊り」「バラの乙女の踊り」「子守歌」「レズギンカ」、ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」(1919年版)というプログラム。前半はシリアス、後半はスペクタクルといった趣。
●プロコフィエフの交響的協奏曲では宮田大のソロが聴きもの。渋い曲だと思っていたけど、これほど雄弁なソロを聴けるとは。鮮やかな技巧、豊麗な音色、陰影の深さ、オーケストラに埋没しない力強さに圧倒される。この曲、キメラ的な怪作というか、かなり風変わりな構成だと思うんだけど、第2楽章のほうが終楽章よりも「終わった」感がある。第2楽章にはどこに連れて行かれるかわからないところがあって、ずっと迷路をさまよっていて、最後にようやく外に脱出したかのように終わる。終楽章は一転して通俗的な主題があつかわれるのだが、終結部はどこか唐突で、本当はもっと先があったんじゃないかなとうっすら感じてしまう。ソリスト・アンコールは無伴奏でラフマニノフのヴォカリーズ。
●後半はぐっとリラックスして楽しめる曲で、「ガイーヌ」は爽快。「剣の舞」や「レズギンカ」など、ついつい土臭い爆演を期待しがちな曲だけど、ヴァイグレはストレートなアプローチで、力みがない。結果としてハチャトゥリアンのオーケストレーションの華麗さが際立っていたのでは。「火の鳥」も同様にていねいでバランスのとれた音色で、端正かつカラフル。いつも思うんだけど、「火の鳥」1919年版ってバレエのエッセンスを凝縮した完璧な組曲ではあるんだけど、少し尺が短いのでもう一曲欲しくなる。

October 27, 2023

鈴村真貴子 ピアノリサイタル プーランク没後60年によせて

●26日は王子ホールで鈴村真貴子ピアノリサイタル。プーランク没後60年によせて組まれたオール・プーランク・プログラム。鈴村はプーランク研究と演奏で東京藝術大学で博士号を取得したピアニスト。プログラムは前半が「3つの常動曲」「村人たち 子どものための小品集」「2つの間奏曲」「フランセーズ クロード・ジェルヴェーズ(16世紀)による」「夜想曲集」、後半が「ワルツ 絹の音楽より」「メランコリー」「ナゼルの夕べ」。プーランク作品をこれだけまとめて聴ける機会は貴重。プーランクのスペシャリストにとって自家薬籠中のレパートリーだろうが、音楽はみずみずしくフレッシュ。全編にわたり精彩に富む。この作曲家ならではの機知や諧謔、饒舌、倦怠などを存分に楽しむ。戯れているようだったりシリアスだったり、表情は多彩だけど、こうして聴くとむしろある種の一貫性を感じる。含羞、といえばいいのかな。
●「夜想曲集」の「幻の舞踏会」の気だるさがたまらない。「ナゼルの夕べ」は作曲者の友人たちの音の肖像であるという点で、エルガー「エニグマ変奏曲」を思わせる曲集。その友人たちの人物像を知らずに聴くしかないわけだけど、交響詩的な物語性も感じる。
●オール・プーランク・プログラム、前にも同じ場所、同じ奏者で聴いたはずだよな……と思って確かめてみたら、あれはプーランク没後50周年記念だったのか! 10年って短いような、長いような。


October 26, 2023

AIが考える名作オペラ

●流行に乗って描かせてみた、AIが考える名作オペラ。まずはこちら。
AIが考える名作オペラ ばらの騎士
●リヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」。盾の中央に薔薇の模様をあしらった美意識高めの騎士。かなり強そう。オックス男爵など秒で倒せそうなオクタヴィアン。殺気が漂う。

AIが考える名作オペラ セビリアの理髪師
●ロッシーニの「セビリアの理髪師」。右手にカミソリを持ったフィガロ。ムダにムンムンとした色気を漂わせる。どういう趣旨の床屋なのか。

AIが考える名作オペラ 蝶々夫人
●これは一目瞭然、プッチーニの「蝶々夫人」。派手なファッションで人生を謳歌してそうな若妻。周囲にはいつも蝶がひらひらと舞っていたという。

AIが考える名作オペラ さまよえるオランダ人
●ぱっと見、わからない。でも、よく見たらわかるかもしれない。ワーグナーの「さまよえるオランダ人」。さまよっているというか、どう見てもハイキング。オランダの「歩こう会」。チューリップも咲いている。

AIが考える名作オペラ ムツェンスク郡のマクベス夫人
●かなり上級編。いくら絵を見てもわからないと思うが、これはショスタコーヴィチ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」。なぜアジア。なぜ機織りの老婆なのか。物騒な事件が起きそうにないのだが。
●使用AIはBing Image Creator(中身はDALL-E 3)。シンプルにオペラのタイトルだけを入力して描いてもらった。絶賛進化中。

October 25, 2023

マリノスvs北海道コンサドーレ札幌 J1リーグ第30節 ディフェンダーがいない!

マリノス対札幌戦をDAZNで観戦。マリノスはディフェンダーがいない。ただでさえ選手層が薄いところに(昨季比)、ディフェンダーが次々と怪我で戦列を離れてしまい、ついにセンターバックが實藤ひとりしかいなくなってしまった。今季リーグ戦1試合のみ出場のベテランだ。センターバックひとりでどうやってサッカーをするのか。
●で、どうしたかというと、ボランチの喜田がセンターバックに入ってラインコントロールをしたという……。左サイドバックに永戸、右サイドバックに松原が入ったが、これでもうディフェンダーを全員使い切ってしまい、ベンチにはゼロ。が、ケヴィン・マスカット監督は後半途中から永戸を下げて、代わりに攻撃的なミッドフィルダーの吉尾海夏を入れ、さらに實藤を下げて若いミッドフィルダーの榊原彗悟を投入した。えっ、センターバックゼロになるけど、それ、どういう布陣になるの? と思ったら、なんと、ディフェンスラインは左から榊原、松原、喜田、吉尾の布陣に。わ、ついにゼロ・センターバックが実現! 松原がセンターに入り、ミッドフィルダーの榊原と吉尾がサイドバックを務めるという急造ディフェンスラインで、もうなにがなんだか。でもすごくないすか。吉尾海夏、守備で活躍してたし。なんでできるの。
●で、試合結果だけを見るとマリノス 4-1 札幌で、「ああ、お互い攻撃的に戦うと、そうなるよね」と思われがちだが、違うんである。後半39分に杉本の当たりそこね気味のボレーがゴールになるまでは1対0の展開で、五分の展開。アディショナルタイムに入ってから、マリノスが2点、札幌が1点を奪ったのだ。試合全体を見れば拮抗した戦いで、DAZNの中継によればゴール期待値は札幌のほうがずっと高かった模様。ボール支配率、パス成功率、シュート数も互角。ありきたりの言い方をすると「決定力の差」が結果になったということになるが、札幌の予算でこれだけのチームを作ってくるペトロヴィッチ監督に敬意を抱かずにはいられない。

October 24, 2023

レイフ・オヴェ・アンスネス ピアノリサイタル

●23日は東京オペラシティでレイフ・オヴェ・アンスネスのピアノ・リサイタル。久々にアンスネスのピアノを満喫。プログラムが最高にすばらしい。前半にシューベルトのピアノ・ソナタ第14番イ短調、ドヴォルザークの「詩的な音画」より5曲、後半にベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」とブラームスの「7つの幻想曲」作品116。前後半ともにソナタ+小品集のセットになっている。小品集+ソナタではなく、逆なのがおもしろいところ。凝縮されたソナタの世界から自在にファンタジーが羽ばたく小品集へと開けてゆく開放感が吉。
●前半のドヴォルザーク「詩的な音画」はこの日の発見。こんなに魅力的な曲集だったとは。ドヴォルザークのピアノ曲は盲点だった。アンスネスはソニークラシカルに「詩的な音画」全曲を録音しているけど未聴だったので。全13曲から「夜の道」「たわむれ」「セレナード」「バッカナール」「スヴァター・ホラにて」の5曲を抜粋。5曲でシンメトリックな構成になっているのだと思う。最後の「スヴァター・ホラにて」、高音のきらきらとしたアルペジオは滝かなにかが流れ落ちているのかと思ったら、鐘なんだとか。別名「聖なる山にて」、つまり教会なので巡礼のコラールに鐘が組み合わされた曲だと解説で知って納得。
●ベートーヴェン「悲愴」は細部までコントロールされ、強奏時でも清澄さを失わない。ブラームス「7つの幻想曲」は第4曲のインテルメッツォが最高だと思う。気だるく寡黙というか。終曲のカプリッチョはシューマン風味。アンコールは3曲。ドヴォルザーク「詩的な音画」から「春の歌」、ショパンのマズルカ作品33-2と作品17-4。
●休憩時のCD売り場には長蛇の列。購入者には終演後にサイン会があった模様。まだまだCDの再生環境は健在ということなのか、それともCDを買っても聴くときはSpotifyやApple Musicなのか、どっちなんでしょうね。


October 23, 2023

高関健指揮NHK交響楽団のニールセン&シベリウス

高関健指揮NHK交響楽団
●20日はNHKホールで高関健指揮N響。本来はブロムシュテットが指揮する公演だったが、来日にドクターストップがかかったということで、代役に高関健。プログラムに変更はなく(よかった)、ニールセンのアラジン組曲から「祝祭行進曲」「ヒンドゥーの踊り」「イスファハンの市場」「黒人の踊り」、シベリウスの交響曲第2番。Cプロなので休憩はなし。19時30分開演だが、18時45分から楽員による「開演前の室内楽」(約15分)が開かれるので、これを聴こうと思ったら普段の公演と同じような時間に来場することになる。
●で、今回の「開演前の室内楽」は本編に合わせてニールセン。なんと、弦楽四重奏曲第4番より第1楽章。この曲、カール・ニールセン弦楽四重奏団のCDは持っていたが、生で聴くのは初めて。第1楽章だけでも貴重な機会でありがたい。青木調、俣野賢仁のヴァイオリン、坂口弦太郎のヴィオラ、山内俊輔のチェロ。演奏前に長めのトークが入って(4人全員が話す)演奏に入った。同じ作曲家の交響曲に近いテイスト。シリアスでモダン、ときどきエスニック。会場が大きいのでさすがに大方の客席からは音が遠かったとは思うが、聴きごたえのある演奏で、全曲聴きたくなる。
●本編のニールセン「アラジン組曲」もなかなか聴けない曲。交響曲におけるニールセンとはまた違ったノリの愉快な曲。空想的オリエンタル趣味というか。とくに「イスファハンの市場」がおもしろい。オーケストラが4つのグループに分けられ、それぞれが異なるテンポで動き、市場の賑わいと混沌を伝える。後半のシベリウスの交響曲第2番では、いつものN響に比べると管楽器強めのバランスで、とくに終楽章の金管は強烈。会場は大喝采。首席ホルンの女性はどなただったんでしょう……と書こうと思ったら、名フィル首席の安土真弓さんだとXで知る。

October 20, 2023

Jリーグ、いよいよ「秋春制」(=夏春制)へ

雪のスタジアム
●こういったニュースが出るということは事実上すでに決定しているのだろうが、ついにJリーグが「秋春制」移行に向けて動き出した(→スポニチ Jリーグ秋春制移行 26~27シーズン8月第1週開幕へ 12月理事会で正式決定)。報道によれば26年8月第1週の開幕に向けて調整中だとか。前にも書いたけど、慣習的に「秋春制」と呼んでいるものの、実際の開幕は8月なのでこれは「夏春制」なのだ。夏休みで集客を見込める8月をオフにする手はないわけで、シーズンが移行しても夏の試合はなくならない(7月の試合がなくなるだけ)。8月はもちろん、今や9月だって夏になりつつある。日本で夏に試合をしないのは無理だろう。
●問題は冬だ。シーズン移行に「ほぼすべてのクラブが同意している」と報道されているのだが、少なくとも新潟は8月の時点ではっきりと反対を表明していた(Jリーグの“秋春制移行”に雪国のクラブとして「反対」表明 冬季のアウェー戦増など課題山積)。現状、Jリーグはシーズン移行に伴って、冬にウィンターブレークを作るとしている。これがどこに入るかが大問題で、前掲の記事にある図を見ると、12月初旬から2月初旬までの2か月のように見える。これは意外と長い期間で、もし本当にそうなるなら一年間にシーズンオフが2回あるようなもの。でも、そんなスケジュール、可能なんだろうか。かなり平日のリーグ戦を増やさないと無理なのでは。となると、カップ戦やACLはどうなるのか。謎すぎる謎。
●もしウィンターブレークが2か月あるとすれば、スタジアムの寒さ問題はある程度、解決される(2月の試合はあきらめると思うけど)。新潟が反対するのはよくわかる。日本海側の冬は寒いだけではなく、ずっと雨か雪なのだ。この時期、降雪地帯のチームは常にアウェイを転戦するようなスケジュールが組まれるのだろうか。このあたりの具体的なスケジュールが見えるまでは、北陸や東北のクラブのサポは落ち着かないと思う。

October 19, 2023

ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団のドビュッシー&ヤナーチェク

ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団
●15日はサントリーホールでジョナサン・ノット指揮東京交響楽団。前半がドビュッシー(ノット編)の交響的組曲「ペレアスとメリザンド」、後半がヤナーチェクの「グラゴル・ミサ」(初稿、ポール・ウィングフィールドによるユニヴァーサル版)。ともに名高い傑作だが、決して聴く機会の多いとはいえない二作を一度に聴けるありがたいプログラム。ドビュッシーとヤナーチェクという同時代人ながら対照的な作風の作曲家による組合せの妙も感じる。
●前半はドビュッシーの交響的組曲「ペレアスとメリザンド」。このオペラを声楽なしの管弦楽曲にする試みはこれまでもいくつかあったが、ノットは自ら組曲を編んだ。もともとの物語、登場人物の感情の動きを尊重して、十分な尺のある組曲に。本来のオペラの凝縮バージョン。声楽抜き、つまり登場人物がいないので、あらかじめどの曲がどんな場面かを把握しておかないと、物語の流れがわからなくなる。目のつまった濃密かつ柔らかな東響のサウンドを堪能。
●後半、ヤナーチェクの「グラゴル・ミサ」は破格のミサ曲。自分がこの曲から連想するのはベートーヴェンのミサ・ソレムニス。その荒ぶるモラヴィア版みたいなイメージ。巨大で、野心的で、敬虔さよりも人間的なヒロイズムを感じさせるという点で。この曲には複数の版があるが、今回用いられたのは初稿と呼ばれるもので、冒頭とおしまいにイントラーダが置かれる。ノットと東響による演奏は力強いが、土臭さはかなり控えめで、モダンなテイスト。2階にクラリネットのバンダが陣取っていて、びっくり。東響コーラスは暗譜。独唱陣はソプラノにカテジナ・クネジコヴァ、メゾソプラノにステファニー・イラーニ、テノールにマグヌス・ヴィギリウス、バスにヤン・マルティニーク。テノールが印象に残る。おしまいのイントラーダの前にオルガン・ソロ(大木麻理)が入るが、これがハイテンションで最強のカッコよさ。

October 18, 2023

ニッポンvsチュニジア代表 親善試合 キリンチャレンジカップ2023

●ニッポン代表、親善試合の2戦目は対チュニジア戦。テレビで観戦。神戸のノエスタでの開催でチケットは完売。予想通り、森保監督はカナダ戦からメンバーを大きく変えてきた。GK:鈴木彩艶-DF:菅原由勢、板倉(→谷口)、冨安、中山雄太(→町田浩樹)-MF:守田、遠藤航-伊東(→南野)、久保、旗手(→浅野)-FW:古橋(→上田)。キーパーの鈴木彩艶(ざいおん)はマンチェスターユナイテッドからオファーが来たが、これを断って、浦和からベルギーのシント=トロイデンにローン移籍した選手。つまりシント=トロイデンには鈴木彩艶とシュミット・ダニエル(今回呼ばれず)のふたりのニッポン代表ゴールキーパーが所属していることになる。なんだか不思議。
●チュニジアは大型チーム。トップにガンバ大阪のジェバリがいるのだが、この日、出場した選手で唯一のJリーガーがジェバリ。こちらにJリーガーがひとりもおらず、対戦相手にいるという驚きの時代が到来。チュニジアは5バックによる堅守のチーム。ほとんどの時間帯でニッポンが攻める展開。パスワークが巧みで、一対一にも強く、見ごたえのある攻撃が続いたがなかなかゴールが決まらず、前半43分にようやくこぼれ球に反応した古橋が決めて先制。後半24分には久保が左からドリブルで仕掛け、中央にマイナス方向のグラウンダーのクロスを入れると、走り込んだ伊東が右足できれいに合わせて2点目。簡単なシュートではないが、伊東は本当にうまくなった(柏時代と比べて)。久保は絶好調。2対0で完勝。チュニジアは後半アディショナルタイムになって、ようやくこの日初めてのシュートを打った(ポストに当たったので惜しいシュートではあった)。
●今の代表が史上最強だと思う。技術が高いなと感じることが多いんだけど、足元だけの技術ではなく、フィジカルの強さに支えられたうまさという感じ。それと一対一の局面で守備が強い。ボールを奪いに行くときの迫力が完全に欧州基準になっている。しかも選手層が厚い。逆に今これだけチームが好調だと、この後、調子を落とさないようにするのが大変かも。

October 17, 2023

カーチュン・ウォンの日本フィル首席指揮者就任披露演奏会

カーチュン・ウォン指揮日本フィル
●13日はサントリーホールでカーチュン・ウォン指揮日本フィル。これがカーチュンの首席指揮者就任披露演奏会。プログラムはマーラーの交響曲第3番、一曲のみ。カーチュンの十八番。かつてマーラーはシベリウスとの対話で「交響曲とは森羅万象を内包した世界のようでなくてはならない」と語ったというが、その言葉にいちばんぴったりと当てはまる作品が交響曲第3番だと思う。なにもかもがそこにあり、地上から天上までも包み込むような巨大な交響曲。カーチュンのマーラーは第1楽章からじっくりとした歩みではじまり、随所に趣向を凝らして巨大な作品の細部まで彫琢する。第4楽章のメゾ・ソプラノは山下牧子。深みのある声が、大自然から人間の世界へといざなう。第5楽章の「ビムバム」は東京少年少女合唱隊。問答無用の純粋さ。終楽章は彫りの深い表現で大きなクライマックスへ。左右中央に分散して配置されたシンバルはまさかの7名。これは視覚的な効果が大きかったか。
●客席の反応は熱烈。新時代の到来を告げる記念碑的なマーラーに惜しみない喝采が寄せられ、最後はカーチュンのソロ・カーテンコールに。翌日も同じプログラムだったが完売で当日券なしの盛況ぶり。カーチュンへの期待度の高さは半端ではない。

October 16, 2023

ニッポンvsカナダ代表 親善試合

●今週は代表ウィーク。13日(金)夜にニッポンvsカナダ代表の親善試合。会場は新潟。最近の快進撃を反映して、平日夜だがチケットは完売。演奏会と重なってしまったので、いつもならテレビ中継を録画するところだが、今回はABEMAの無料見逃し配信で観戦。便利になったというか、今の感覚だと「テレビはわざわざ録画しないと後から観れない」のが不便に思えてくる。
●今回、森保監督は三笘、堂安、鎌田を呼ばなかった。これは納得。それぞれ疲労だったり、チーム内の立ち位置の問題などあるのだろう。ほとんどのメンバーが欧州でプレイする現在、代表ウィークのたびに主力全員が欧州と日本を移動するのは厳しいかもしれない。となれば、絶好調の久保が鎌田の代わりに先発するかと思いきや、ベンチ。次戦のために温存なのか。GK:大迫敬介-DF:毎熊、冨安(→谷口)、町田浩樹、中山雄太-MF:遠藤航(→伊藤敦樹)、田中碧(→川辺駿)、南野(→橋岡大樹)-FW:伊東、中村敬斗(→旗手)、浅野(→古橋)。
●試合は一方的なニッポンのペース。カナダはバイエルン・ミュンヘンのアルフォンソ・デイビスをはじめ、さまざまなルーツを持つタレント集団なのだが、ニッポンの前線からの精力的なプレスがうまくハマって、どんどんボールを刈れる。ニッポンのダイナミックな選手の動きについていけず、後手に回るシーンが多い。前半2分に相手クリアボールを拾った田中碧が思い切り蹴り込んで、早くも先制。その後オウンゴール、中村敬斗、後半にふたたび田中碧と大量4得点。終了間際に一失点したが4-1の完勝。ニッポンはここのところ毎試合、大量得点をとっている。フィジカルで負けておらず、スピードがあり、なにより技術がある。精度が高いので簡単にはボールを失わない。特に印象的だったのは浅野。3点目は中村敬斗のゴールだが、浅野の献身的なプレスが生んだゴール。しかもボールを奪った後、浅野はスピードだけではなくフィジカルの強靭さを生かしてゴールに向かう。トップのポジションにはほかに古橋、上田、さらに今回呼ばれていない前田がいるが、全員タイプが違う。
●南野は所属チームでの好調を反映して久々の復帰。が、強度はもうひとつか。絶対的な存在である三笘の代わりに入った中村敬斗は大活躍。思い切りのよさが魅力。ぜんぜん行ける。ずっとテストが続いている感じの両サイドバックは、左に中山雄太、右に毎熊。毎熊は前回も悪くなかったが、今回さらによくなっている。攻撃力が魅力だが、守備も強い。左の中山も頼りになる。今のニッポンは三笘と伊東という攻撃の核が両ウィングにあるので、サイドバックには守備の強さが優先されるのかも。ちなみにこの日の両翼は中村敬斗と伊東だったが、これはふたりの所属チームであるスタッド・ランスの両翼そのまんま。なんだかスゴい。
●ほとんどの時間帯でニッポンがゲームを支配していた印象だが、ボール支配率はニッポンが43%、カナダが57%。これが現代サッカーだ。

October 13, 2023

ドイツ・グラモフォンの「ステージプラス」でヴィキングル・オラフソン

●先日のネルソンス指揮サイトウ・キネン・オーケストラに続いて、ドイツ・グラモフォンの定額制映像&音楽配信サービス「ステージプラス」を見てみる。前にも書いたように「最新アーカイブ映像」には過去の巨匠たちの映像も多くて、むしろ最新ライブがかすんでしまいそうなくらいなのだが、目をひいたのはヴィキングル・オラフソンをソリストに招いたラファエル・パヤーレ指揮モントリオール交響楽団の公演。えっ、ラファエル・パヤーレって、2022年からモントリオール交響楽団の音楽監督に就任してたんだ。知ってた? パヤーレはベネズエラのエル・システマ育ちの指揮者で、以前、N響に客演した際にオール・ショスタコーヴィチ・プログラムを聴いたことがある。この公演でもメインはショスタコーヴィチで、交響曲第10番。前半にリストの交響詩「レ・プレリュード」、オラフソンのソロによるラヴェルのピアノ協奏曲というプログラム。
●ひとまず前半だけ視聴。オラフソンのラヴェルを楽しむ。透明感があり、小気味よく明快。とてもリリカルだが、湿度は低め。盛大なブラボーとスタンディングオベーション。以前、ライブで聴いたときはあまり大ホール向きの人ではないかもと感じた記憶があるのだが、こうして配信で聴くとそんな感じはしない。オシャレ感のある人なので気どった雰囲気の人かなと思いきや、アンコールを弾く際のトークが妙に明るい感じでギャップがある。アンコールはバッハ~ストラダルのオルガン・ソナタ第4番BWV528より第2楽章。
●そういえばオラフソンの新譜はバッハのゴルトベルク変奏曲だったなと思い、続いてこれをステージプラスで聴こうと思ったら、なぜか音源がない。あれれと思いSpotifyを見たら、こちらには音源があった。本家ドイツ・グラモフォンのサービスだから、いの一番で載るのかと思ったら、そういうわけでもないのか。

October 12, 2023

「言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか」(今井むつみ、秋田喜美著/中公新書)

●話題の新書、「言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか」(今井むつみ、秋田喜美著/中公新書)を読んだ。言語学の本で、決して平易な本ではないと思うのだが、15万部を突破したというのだから驚き。帯の惹句は「なぜヒトだけが言語を持つのか」。
●過半のページがオノマトペについて割かれていて、なるほど、おもしろい。オノマトペそのものが言語的であり、子どもが言語を習得する際にオノマトペがどんな役割を果たしているか、そしてオノマトペと一般語との関係性などが述べられる。特に印象的だったのは、オノマトペは異なる言語の話者にもある程度は類推可能であって、特定の音が特定の概念と結びつきやすいという話。たとえば、丸っこい形とギザギザした形を見せて、どちらが「マルマ」でどちらが「タケテ」でしょうかという問いを発すると、多くの言語の話者が丸っこいほうを「マルマ」、ギザギザのほうを「タケテ」と判断する。「そりゃあ、丸いほうがマルマなのは当然でしょ?」と思うかもしれないが、これはドイツの心理学者の研究で、すでにドイツ人が丸っこいほうに「マルマ」という架空の言葉を用意している時点で、音と意味の関係性がうっすら見えている。
●多くの言語で「い」の音が「小ささ」と結びつくという話や、主食を表す言葉に「パ」「バ」「マ」「ファ」で始まるものが多いという話も興味深い。食事を表す赤ちゃん言葉が、日本語で「まんま」、トルコ語で「ママ」、スペイン語で「パパ」というのも、これに関連していそうで、言葉を習得する前に必須の概念にはこういった音が使われる傾向があるらしい。赤ちゃんでも使える音、ということなのか。
●圧巻は終わりのほうで出てくる「アブダクション推論」(結果から遡って前提を推測する)を巡る、人間の赤ちゃんとチンパンジーの比較実験。ヒトは複雑な言語を持つが、チンパンジーはそうではない。それはこの推論能力の違いからくるのではないかという実験で、明快な結果が出るのだが、ただ例外的に実験に参加したチンパンジーで一体のみが、この推論能力を身につけていたって言うんすよね。本書の話題からは外れるんだけど、それってまさに「猿の惑星」じゃん!と思った。こういう賢いチンパンジーだけが生き残りやすい環境があったら、賢いチンパンジー同士で繁殖するようになり、やがて言葉を話すサルへと進化して……みたいな。

October 11, 2023

N響2023年10月定期公演Aプロ中止、東響は来シーズンラインナップを発表

●N響がヘルベルト・ブロムシュテットの体調不良により今週末の10月定期公演Aプログラムを中止にすると発表。ブルックナーの交響曲第5番が予定されており、とても期待していた公演だけに残念だが、96歳という年齢を考えれば無理は禁物だろう。マエストロの快復を願う。代役を立てるのではなく、公演が中止になるのは珍しい。同じくブロムシュテットの出演が予定されている次週以降のCプロ、Bプロについてはこれから改めて発表があるそう。
東京交響楽団が2024/25シーズンのラインナップを発表。ジョナサン・ノット音楽監督の11シーズン目。もうそんなになるとは。ノットは7プログラムで登場。マーラー「大地の歌」、ブルックナーの交響曲第7番など。5月にベルリオーズ「イタリアのハロルド」、酒井健治のヴィオラ協奏曲「ヒストリア」、イベールの「寄港地」を組合わせたプログラムがあるのだが、「イタリアのハロルド」のソリストは東響首席ヴィオラ奏者の青木篤子、酒井健治作品のソリストはサオ・スーレズ・ラリヴィエール。ひとつの公演にふたりのヴィオラのソリストがいるプログラムを初めて見た気がする。12月にアヴァ・バハリの独奏でシェーンベルクのヴァイオリン協奏曲。そういえば2024年はシェーンベルクの生誕150年だった。
●9月の客演指揮者に台湾出身のトンチエ・ツァンの名がある。ソリストには先日Gramophone Awards 2023でも話題にしたヴィオラ奏者、ティモシー・リダウトが招かれ、ウォルトンのヴィオラ協奏曲を演奏する。なんだかヴィオラ成分高め。

October 9, 2023

Gramophone Classical Music Awards 2023 発表

●英グラモフォン誌のGramophone Classical Music Awards 2023が発表されている。リンク先は販売サイトのPresto Music(こちらのほうがグラモフォン誌のサイトより一覧性にすぐれているので)。レコーディング・オブ・ザ・イヤーに輝いたのは、オーケストラ部門の受賞作でもあるファビオ・ルイージ指揮デンマーク国立交響楽団によるニールセンの交響曲第4番「不滅」&第5番(ドイツグラモフォン)。同コンビによるニールセンの交響曲全集もリリース。N響首席指揮者でもあるルイージだが、デンマーク国立交響楽団では2017年から首席指揮者を務めている。レコーディング・オブ・ザ・イヤーはわりとメジャー感のあるセレクトになった。
●各部門賞で目立ったところでは、室内楽部門がエベーヌ四重奏団とアントワン・タメスティ(ヴィオラ)によるモーツァルトの弦楽五重奏曲第3番&第4番(ERATO)。これは納得。ピアノ部門ではクリスティアン・ツィメルマンによるシマノフスキのピアノ作品集(ドイツグラモフォン)が受賞。メジャーレーベルはこの3点かな。いや、メジャーレーベルとマイナーレーベルを区別する意味はもうないか。
●協奏曲部門はティモシー・リダウトのヴィオラ、マーティン・ブラビンズ指揮BBC交響楽団によるエルガーのヴィオラ協奏曲(チェロ協奏曲からの編曲)が受賞(Harmonia Mundi)。この録音は自分も気になっていた。世の中、どんどんすぐれたヴィオラ奏者が出てきているけど、ヴィオラ協奏曲の名曲が足りていないといつも感じていたんすよね。本来のチェロに対してヴィオラはいかにも軽いけど、こうして受賞したということはリダウトのソロに説得力を感じた人が多かったということか。
●現代曲部門はフィンランドのロッタ・ヴェンナコスキという人の作品集 Sigla, Flounce, Sedecim。ぜんぜんなじみのない人なので、少し聴いてみる。カラフルなオーケストレーションで、かなり聴きやすい作風。このアルバムもほかのアルバムもそうだが、Pretso MusicのサイトではCD、MP3、FLAC、ハイレゾFLAC(一部)で販売されている。もちろん、ふつうにSpotifyやApple Musicで聴くこともできる。このロッタ・ヴェンナコスキという人のアルバムを下にSpotifyで貼り付けておこう。なんだか再生数が少なすぎる気がするので。

●10日の当ページ更新はお休みするので、代わりに本日に。

October 6, 2023

東京国立近代美術館 所蔵作品展「MOMATコレクション」

東京国立近代美術館では本日から棟方志功展が始まっているのだが、それに先んじて所蔵作品展「MOMATコレクション」を見てきた。空いていて快適。来場者の半分以上は外国人旅行者だったかも。
●コロナ禍をきっかけに、ここの所蔵作品展にはひんぱんに足を運ぶようになったのだが、なにせコレクションが膨大なようで、どんどん展示物も変わり、まったく飽きない。もちろん、好きな作品をくりかえし眺めるのも吉。そして、新収蔵作品も増えている。たとえば、こちら。

風間サチコ「セメント・モリ」
●風間サチコ「セメント・モリ」(2020)。すごくないすか、コンクリートの材料であるセメント、その材料である石灰岩、石灰岩の採掘に従事する労働者といった要素が重ねられて、「メメント・モリ」ならぬ「セメント・モリ」。

牛腸茂雄 SELF AND OTHERS
●牛腸茂雄の写真、SELF AND OTHERSから26点がまとめて展示されている一角がある。ハッとしたのはこの一枚。えっ、これ、双子(?)の女の子が並んでいるだけなのに、なんだか怖い……。1977年の作品。キューブリック監督の映画「シャイニング」はいつだっけと思って確認したら、1980年。牛腸茂雄のほうが先なので「シャイニング」とは無関係だ。それにしても。

太田喜二郎の「桑つみ」
●こちらは太田喜二郎の「桑つみ」(1916)。「労働」を題材とした絵画にはなぜか無条件で惹かれてしまう。印象主義風の明るい点描によって描かれる日本の田舎の光景。この作品は2018年に修復されて、色彩の鮮やかさが回復されたのだとか。なるほど、屋外で太陽の光が当たっているのだから明るく鮮やかな絵であるはず。
●素朴な疑問なんだけど、アートというのはいつアートでなくなるんすかね。日々新たな作品が生まれているということは、どこかで日々捨てられる作品もあるということなのか、それともアートは一方的に増え続けるものなのか。音楽は日々作られても、楽譜は本質的にデジタル情報だから収納場所の問題はないし、曲が演奏されなくなれば自動的に消えてゆく。でも、実体のあるアートはだれかが廃棄しない限り、存在しつづける。どこかで「この作品はもう芸術的価値を失ったね」という瞬間がやってくるのだろうか。

October 5, 2023

新国立劇場 プッチーニ「修道女アンジェリカ」&ラヴェル「子どもと魔法」(新制作)

新国立劇場 プッチーニ「修道女アンジェリカ」&ラヴェル「子どもと魔法」
●4日は新国立劇場へ。23/24シーズンのオープニングを飾るのはプッチーニの「修道女アンジェリカ」とラヴェルの「子どもと魔法」のダブルビル。ともに新制作。ピットに入るのは沼尻竜典指揮東京フィル、演出は粟國淳。両作の組合せには妙味がある。共通するテーマは「母と息子」。作品のカラーはまったく対照的で、前者は救いのない悲劇、後者は機知に富みコミカル。だが、泣けるオペラは圧倒的に後者なのだ。
●実のところプッチーニの「三部作」で、「ジャンニ・スキッキ」と「外套」は常に歓迎できる作品だけど、「修道女アンジェリカ」はどうしたって好きになれない。それはしかたがない。オペラは本質的に愛と死を描く芸能なので、ある程度の悲劇は「様式」として許容するしかないけれど、子どもが命を失う話は(たとえその場面が直接描写されていないにしても)受け入れがたい。現代的価値観ではなんの罪も犯していないアンジェリカが修道院に入れられ、叔母から財産放棄を迫られたあげく、引き離された息子がもうこの世にいないと知らされる。この悲報を告げる叔母の冷酷さと来たら。だいたいその子の父親はどこに行ったの。アンジェリカは修道院という宗教システムの犠牲者だろう。先日紹介したナオミ・オルダーマンの「パワー」みたいに、アンジェリカが電撃能力を身につけて、嫌なヤツらを全員皆殺しにする話になればいいのに……(あの小説にも修道院が出てくる)。プッチーニの音楽は真に感動的でオーケストレーションも冴えている。アンジェリカ役のキアーラ・イゾットンのドラマティックな歌唱も見事。でもなあ。
●と、思ったところで、救いは後半のラヴェル「子どもと魔法」だ。このオペラの主人公である少年はアンジェリカの息子と同じくらいの年頃では。そう、あのイヤな叔母はアンジェリカに財産放棄を迫るためにああ言ったが、実は息子は生きていて、別のママのもとでやんちゃに暮らしているのだ(と、勝手に解釈する)。「子どもと魔法」の舞台はカラフルで楽しさいっぱい。アニメーションも巧みに活用しつつ、歌手たちとダンサーたちが男の子の世界を生き生きと表現する。ネコやトンボ、リス、カエルなどの動物たちもさることながら、椅子や柱時計といった無機物が登場人物として出てくるのが最高だ。どの場面もおかしいが、傑作なのは「算数」が少年に襲いかかる場面。でたらめな数式や問題文をくりだすナンセンスさにルイス・キャロル味あり。少年役のクロエ・ブリオはこの役にぴったりで理想の配役。柱時計の河野鉄平、絵本のお姫様役の三宅理恵、ママ役の齊藤純子ら、充実のキャスト。オーケストラも精緻な響きでラヴェルにふさわしい味わい。
●「子どもと魔法」で描かれる少年の世界は男子がみんな通る道なんだけど、それは大人の時間軸でほんの一瞬のことにすぎない。だから尊い。そこが泣ける。ラヴェルの音楽とコレットの台本はその尊い瞬間にフォーカスしている。
●両作ともママはいるけど、パパがいない。前世紀のオペラだからしょうがないのか。ママをパパに読み替える演出はどうだろう(ないか……)。
●プッチーニの「修道女アンジェリカ」に「蝶々夫人」の残り香があるように、ラヴェルの「子どもと魔法」には「ダフニスとクロエ」の残り香が漂っていると思う。

October 4, 2023

山東泰山vsマリノス AFCチャンピオンズリーグ グループステージ

●いやー、もうマリノスはよれよれになりながら全力を尽くしている。週末、首位神戸との天王山では完敗。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)でも初戦のインチョン(仁川)戦に負けた。Jリーグ、ACL、ルヴァンカップと試合数が多く、過密日程が続くのだが、めっきり選手層が薄くなってしまったので戦力を保てないのだ。だが、これはわかっていたこと。マリノスというチームは投資を回収する局面に入っている。一頃、マリノスはほぼすぺてのポジションにレギュラークラスの選手を複数そろえて、分厚い選手層でリーグを制覇した。そこまでは投資。その後、売れる選手をどんどん売り、代わりにそこまで高額ではない選手たちを補充した。選手層は薄い。武器はこれまでに積み上げてきた「マリノスのサッカー」という看板だ。
●で、昨晩はACLのアウェイ山東泰山戦。DAZNで観戦。場内の雰囲気は完全アウェイ、UAEの審判もすっかりその空気に飲まれている様子。マリノスは神戸戦から中三日、中国まで移動しての試合。できれば完全ターンオーバーで選手を入れ替えたいが、そこまでの選手層はなく、エウベルや山根陸、松原健、角田涼太朗らが連戦に臨む。キーパーは一森純。ターンオーバー勢はトップの植中朝日、中盤のナム・テヒ、吉尾海夏、水沼宏太、ディフェンスの加藤聖、上島拓巳。果敢に立ち向かった。
●山東泰山のサッカーはまったくJリーグでは見かけないタイプ。前線に長身のフェライニがいる。あの元ベルギー代表のフェライニだ。かつてと比べればフィジカルはだいぶ緩んだようだが、強さ、高さは健在。これにやはり強くて巧いブラジル人選手たちが加わり、攻撃はすべて助っ人勢におまかせ。前線の選手はあまり守備をしないし、運動量も乏しい。したがって、マリノスはリーグ戦と異なり、プレスに苦しまずにビルドアップができる。びっくりするほど中盤にスペースがある。が、相手は前線めがけてボールを入れれば個の力でなんとかなってしまうわけで、まったく油断ができない。37分、エウベルがワンツーで抜け出して中央に入れたボールに水沼が合わせて先制ゴール。その後はお互いに決定機がいくつもあったが、ギリギリのところでゴールにならず。最後はマリノスがひたすら耐えて、1点を守り切った。がまんの試合。山東泰山 0対1 マリノス。ハイライト映像はこちら
●厳しいスケジュール、不安定な主審の笛、異様な場内の雰囲気。それでも勝利したマリノスは立派というほかない。植中朝日、一見、線が細そうだが、気持ちは強そう。松原健の魂のフットボールも熱い。ナム・テヒはまだまだマリノスの戦術にフィットしていないが、これからが本領発揮だ。上島、角田もよく守った。エウベルはやはり頼りになる。水沼宏太はヒーローだった。

October 3, 2023

渋谷スクランブル交差点~日本の物語の舞台~

渋谷スクランブル交差点

 渋谷スクランブル交差点は、日本の文化や社会の変化を目の当たりにできる場所だ。この場所は、映画やドラマの舞台にもなっている。映画『ロスト・イン・トランスレーション』では、主人公たちが交差点を歩くシーンが印象的だ。彼らは、日本に来ても心の中に空虚感を抱えている。交差点は、彼らの孤独や違和感を象徴しているのだろうか。この場所は、時代の流れや世相をも映し出す。2019年のラグビーワールドカップでは、日本代表の快進撃に沸いたファンが交差点に集まった。2020年の新型コロナウイルスの感染拡大では、交差点は人がほとんどいなくなった。渋谷スクランブル交差点は、日本の物語だ。この場所を見ることで、過去や現在、未来を感じることができる。

渋谷スクランブル交差点

●上記の見出し、イラスト、本文はすべてAIに書いてもらったもの。無料のツールのみ使っている。渋谷の街の線画にはMicrosoft EdgeのBing Image Creatorを用いた。中身はOpenAIのDALL-E 3。最近DALL-E 2からバージョンアップされ、さらに強力になった、らしい。こちらのリクエストはシンプルで、monochrome line art, shibuya。
●この線画に比べると文章はいまひとつ。使用ツールはMicrosoft Bing AIで、中身はGPT-4。ChatGPTだとGPT-4は有料版だが、Bing AIだと無料で使える。ただし、Bing AIは検索エンジンとつながっているので、同じ質問に対してもChatGPTとは異なる答えを返す。今回のリクエストは「あなたはエッセイストです。渋谷のスクランブル交差点を題材に、約400字のエッセイを書いてください」。しかし、これに一発で上記の文章が返ってきたわけではない。Bing AIはまだまだ日本語が拙いので、なんどもしつこくダメ出しして直してもらった。たとえば、文体を「です・ます」から「だ・である」に変えてもらったり、同じ言葉が頻出するのを直してもらったり。400字という指定も正しく理解していないようで、うんと長い原稿を出しておきながら400字と言い張ったりする(推測だが、英語的なカウントで400ワードの原稿を作ってるのでは)。おそらくAIは英語ならずっと上手く書ける。日本語の学習データが英語と比べると桁違いに少ないのだろう。
●この文章は遠めに見ると一見それらしいが、内容がない。AIのやっていることは人間の真似なのだが、実のところ人間のやっていることも人間の真似で、真似をくりかえすうちに上達して、あるところから真似事を超える。AIも同じだろう。

October 2, 2023

「ナイフをひねれば」(アンソニー・ホロヴィッツ著/山田蘭訳/創元推理文庫)

●アンソニー・ホロヴィッツの新作は毎回欠かさず読んでいるが、今回の「ナイフをひねれば」(創元推理文庫)も秀逸。よく毎回ネタが尽きないなと感心するばかり。今作は「ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ」第4弾で、著者であるアンソニー・ホロヴィッツ自身が本人役で登場し、探偵ホーソーンとコンビを組む。ホロヴィッツ作品は純然たるエンタテインメントなんだけど、常にメタフィクション、メタミステリ的な趣向があって、著者が本人役として出てくるのもその一環。探偵のホーソーンはホームズばりの鋭い観察眼と推理力の持ち主だが、傍若無人でケチでイヤなヤツ、でも本当は友情に篤い男なのかも、という役柄。作家自身が主人公なので出版業界の裏側が透けて見えるのも本シリーズの楽しみだが、今回は演劇の世界が舞台になっていて、そこも新鮮。実際に著者は過去に演劇の脚本も書いているのだ。
●演劇界で悪名高い劇評家が、主人公が脚本を書いた演劇をけちょんけちょんにこき下ろしたら何者かに殺された、というのが事件の発端。演劇の人たちが新聞の劇評を気にしているのは、初日の翌日にもう各紙に評が載って、評判が集客に直結するから。記事が出た後にも公演が続くからみんな評を気にするという大前提があるんすよね。あと、新作を上演するにあたって、まず地方の劇場でなんどか上演して手ごたえを得てから、ロンドンで上演するという流れも「へえー」と思った。
●で、その劇評家殺人事件の容疑者として、なんと、主人公である著者自身が逮捕されるんすよ! いやいや、一人称小説なんだし、主人公が犯人のわけないじゃん……と思って読んでると、捜査が進むにつれて、主人公が犯人であるという状況証拠が積みあがっていく。おかしすぎる。タッチの軽やかさ、主人公のフツーの人っぽさも共感のポイント。

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