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October 2, 2023

「ナイフをひねれば」(アンソニー・ホロヴィッツ著/山田蘭訳/創元推理文庫)

●アンソニー・ホロヴィッツの新作は毎回欠かさず読んでいるが、今回の「ナイフをひねれば」(創元推理文庫)も秀逸。よく毎回ネタが尽きないなと感心するばかり。今作は「ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ」第4弾で、著者であるアンソニー・ホロヴィッツ自身が本人役で登場し、探偵ホーソーンとコンビを組む。ホロヴィッツ作品は純然たるエンタテインメントなんだけど、常にメタフィクション、メタミステリ的な趣向があって、著者が本人役として出てくるのもその一環。探偵のホーソーンはホームズばりの鋭い観察眼と推理力の持ち主だが、傍若無人でケチでイヤなヤツ、でも本当は友情に篤い男なのかも、という役柄。作家自身が主人公なので出版業界の裏側が透けて見えるのも本シリーズの楽しみだが、今回は演劇の世界が舞台になっていて、そこも新鮮。実際に著者は過去に演劇の脚本も書いているのだ。
●演劇界で悪名高い劇評家が、主人公が脚本を書いた演劇をけちょんけちょんにこき下ろしたら何者かに殺された、というのが事件の発端。演劇の人たちが新聞の劇評を気にしているのは、初日の翌日にもう各紙に評が載って、評判が集客に直結するから。記事が出た後にも公演が続くからみんな評を気にするという大前提があるんすよね。あと、新作を上演するにあたって、まず地方の劇場でなんどか上演して手ごたえを得てから、ロンドンで上演するという流れも「へえー」と思った。
●で、その劇評家殺人事件の容疑者として、なんと、主人公である著者自身が逮捕されるんすよ! いやいや、一人称小説なんだし、主人公が犯人のわけないじゃん……と思って読んでると、捜査が進むにつれて、主人公が犯人であるという状況証拠が積みあがっていく。おかしすぎる。タッチの軽やかさ、主人公のフツーの人っぽさも共感のポイント。