●先頃休刊した月刊誌「レコード芸術」の連載を書籍化したのが「古楽夜話 古楽を楽しむための60のエピソード」(那須田務著/音楽之友社)。古くは12世紀のヒルデガルト・フォン・ビンゲンから、新しくは18世紀末のボッケリーニまで、作曲家たちと作品にまつわる60のエピソードが集められた古楽ガイドブック。ひとつのエピソードが3ページ構成で、長すぎず短すぎず、絶妙のバランス。読み物としても実用的なガイドとしてもよい。毎話、冒頭に史実をもとに創作した短い空想シーンが入っていて、これが導入として効いている。
●連載を書籍化するにあたって、各話が時系列に並べられており、最初はヒルデガルトで始まるわけだが、こういう本は前から読むより、読みたい場所から読み進めるのが吉。特に中世・ルネサンスにはなじみが薄いというクラシック音楽ファンの場合は、バロック期のどこかあたりからスタートするとか、なんなら本のおしまいから遡って読み進めるのもありだと思う。つまみ食いするように、気になるところを拾い読むのも楽しい。
●で、もとが「レコ芸」なので、各エピソードに必ずオススメCD欄が付くわけだが、一昔前であれば、これを見て聴きたくなった盤をCDショップを巡って探すのも、この種の本の楽しみの内だった。でも、もうそんな時代ではない。今だったら本を読んで「聴きたいな」と思った音源は、即座にその場で聴けるのが自然だろう。さすがにそのあたりは意識されていて、音楽之友社出版部が「古楽夜話」で紹介した全CDプレイリストを作って公開してくれている。だよねえ。ストリーミング配信時代はプレイリスト時代でもあるのだ。以下にそのリンクを張っておこう。10話ずつ、6つのプレイリストに分かれている。このプレイリスト自体がひとつのコンテンツっていう気がする。
古楽夜話 #1(第1夜~第10夜)
古楽夜話 #2(第11夜~第20夜)
古楽夜話 #3(第21夜~第30夜)
古楽夜話 #4(第31夜~第40夜)
古楽夜話 #5(第41夜~第50夜)
古楽夜話 #6(第51夜~第60夜)
●でもこのプレイリストって、書籍そのものにはぜんぜん案内されていないんすよね。ONTOMOの記事で知った次第。このへんが書籍の難しいところで、一般に本の寿命はIT系サービスの寿命より長いので、たとえば本にQRコードとかを載せても、3年もしたらリンクが切れてるかもしれないし、それどころか1年もしないうちに配信サービス自体がどこかに吸収されたり、終了しているかもしれないわけで、ダイナミックすぎて書籍との相性はよくない。雑誌とか広報誌なら迷いなく載せられるとは思うんだけど。
●ひとつだけプレイリストをここにも載せておこう。古楽夜話 #6(第51夜~第60夜)。