●9日はサントリーホールで「内田光子 with マーラー・チェンバー・オーケストラ」。先日、川崎公演でAプロを聴いたが、この日はBプロ。モーツァルトのピアノ協奏曲第17番ト長調、ヴィトマンの「室内オーケストラのためのコラール四重奏曲」、モーツァルトのピアノ協奏曲第22番変ホ長調。Aプロと相似形のようなプログラムで、モーツァルトは内田光子の弾き振り、ヴィトマン作品は指揮者を置かずにコンサートマスターのリードで演奏。全6公演の全国ツアーの最終日で、客席はぎっしり。
●Aプロでも感じたが、モーツァルトでのオーケストラは軽快というよりは重厚。ピアノ協奏曲第17番、冒頭こそ囁くように始まるが、最初の強奏でズズンと湧きあがるような音が出てくる。ヴィトマンの「コラール四重奏曲」はもともと弦楽四重奏のために書かれた作品を室内オーケストラ用に拡大した作品。フルート、オーボエ、クラリネットの管楽器が2階席に散開して配置され、ところどころで立体的な音響空間が作られる。「コラール」と名付けられてはいるが、旋律は明滅するかのように断片的に分解され、特殊奏法をふんだんに用いた波打つような音の歩みのなかで間歇的に姿をあらわす。これを指揮者なしで演奏できてしまうことに驚く。新味はどうかな。
●圧巻は後半のピアノ協奏曲第22番。Aプロの第25番とBプロの第22番、ともにモーツァルトの全ピアノ協奏曲のなかでもっとも祝祭性の感じられる作品だと思っていたけど、それは作品の一面でしかないことを思い知る。この第22番は寂しげで、儚い。25番を聴いても22番を聴いても、これらは最後の27番へと至るプロセスをまっすぐに進んでいるのだと感じる。深淵を覗くような第2楽章もさることながら、晴れやかなはずのフィナーレがたまらなく寂しい。中間部で管楽アンサンブルが始まって、そこにピアノと弦楽器が各1プルトのみで加わって室内楽編成になるところなんて、ぞくぞくする。最後は曲が終わるのが惜しくてたまらない気分になった。アンコールはモーツァルトのピアノ・ソナタ第10番ハ長調の第2楽章。曲が終わったあと、完璧な沈黙がしばらく続いて、その後、盛大な喝采。拍手がまったく止まず、ソロ・カーテンコールが2回。今季最大級の熱狂的なスタンディングオベーションを見た。
November 10, 2023