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November 16, 2023

新国立劇場 ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」(新制作)

新国立劇場 ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」
●15日は新国立劇場へ。ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」(新制作)の初日。演出はピエール・オーディで、美術は現代アートの大家、アニッシュ・カプーア。赤と黒を基調とした抽象的な装置が用いられ、大きな特徴は上からぶら下がる逆さ火山。ときどき煙を吐く赤黒い活火山が登場人物たちの頭上にあり、下には溶岩やマグマがある。火山から噴出するのは怒りか、情熱か。装置をアートとして鑑賞するのか、物語を説明する実用的な機能とみなすのか、答えのない問いがあるが、作品のトーンにはよく合致している。
●題名役はロベルト・フロンターリ。貫禄の歌唱。プロローグから第1幕に25年の時の跳躍があるわけだが、本当に年をとったように変身している。対決するシモンとフィエスコ(リッカルド・ザネッラート)が最後に和解に至る場面は、ヴェルディのオーケストレーションの巧みさもあって、真に感動的。アメーリア役のイリーナ・ルングは聴きごたえあり。パオロにシモーネ・アルベルギーニ、ガブリエーレにルチアーノ・ガンチ。ピットは大野和士指揮東京フィル。ていねいで、無用な力みのない澄明なサウンド。
●で、毎回思うことではあるのだが、「シモン・ボッカネグラ」という作品、どう考えても台本がおかしい。話が詰めこみすぎで、大河ドラマのワンシーズン分のストーリーを一本のオペラにまとめたような無理がある。説明や描写が足りないまま大事が起きて感情移入が追い付かないし(プロローグでマリアはどうして死んだの?)、たまたま都合よく登場人物がそこにあらわれた的な展開が頻出する(神出鬼没のアメーリア)。が、音楽は最上級なんである。話はさっぱり共感できないけど、音楽は神の領域。天才の音楽がすべてを解決してしまう。まさに「オペラあるある」。だからこそ演出のための大きな余白があるともいえるけど。
●「呪い」「誘拐」「父と娘の愛」は「リゴレット」と共通するモチーフ。アメーリアもシモンもさっさと「内緒の話だけど、実は私たち親子なんですよー」って関係各所に伝達しておけば余計な誤解を招かずに済んだのだが、それではオペラにならないか。
●あらかじめ告知されていたように、入場時に手荷物検査があった。サッカー・ファンは手荷物検査に慣れ切っているので、劇場に入った瞬間からパブロフの犬並みの条件反射でカバンの入り口を開けてスタンバってしまうわけだが、この日は金属探知機のチェックもあったので、ポケットの中身をカバンに入れたりして空港みたいだった。2階に天皇陛下臨席。即位後、初めてのオペラ鑑賞だそう。前半だけじゃなく、最後までご鑑賞。感想を聴いてみたい。登場人物はだれに共感するのか、とか。