●21日はミューザ川崎へ。ふたたびキリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィル。プログラムはモーツァルトの交響曲第29番、ベルクのオーケストラのための3つの小品、ブラームスの交響曲第4番。今回の来日公演はこのAプロと、前日の「英雄の生涯」他のBプロの2種類。モーツァルト、ベルク、ブラームスという組合せは、ウィーンで活躍した作曲家たちを集めたプログラムということになるわけだが、たまたま会場で会ったベテラン評論家氏から、モーツァルトの交響曲第29番がカラヤン&ベルリン・フィルによる最後の来日公演の曲目だったことを知る。そういえば、ブラームスの交響曲第4番はラトル&ベルリン・フィルの最後の来日公演の曲目では。そんな節目の曲がペトレンコ&ベルリン・フィルの最初の来日公演でとりあげられたことになる。
●前日のBプロはオーケストラの機能性がものをいうプログラムだったけど、この日のAプロはベルクはともかく、モーツァルトとブラームスの作品にスペクタクル要素は皆無。その分、ペトレンコのキャラクターがよりあらわれていたかも。モーツァルトはくっきりと鮮やか。HIPな要素はないが清新。第2楽章の終結部でオーボエ(ジョナサン・ケリー、たぶん)が「鶴の一声」みたいに高々と奏でたのが忘れられない。ベルクはハンマーが使用されるという一点に留まらず、マーラーの音楽の延長上にあって、その先に「ヴォツェック」を感じさせる音楽。無調であっても漆黒のロマンティシズムが背景に漂っている。圧巻は後半のブラームス。第1楽章の終盤からの白熱は見事。第3楽章は切れ味鋭く、終楽章は怒涛の勢い。あのフルートのソロ(セバスチャン・ジャコー、たぶん)、寂寞としてしみじみするところだけど、勢い込んで吹く、みたいな独特の歌いまわしで強烈。大枠で奇を衒う部分はなく、まさしくベルリン・フィルのブラームスといった造形だけど、ペトレンコはダイナミクスやテンポ、フレージングなど細部に彫琢を凝らして磨き上げる。アンコールはなく、カーテンコールを早めに切り上げ、最後はペトレンコのソロカーテンコール。
●コンサートマスターは新しい人で、名前がなかなか覚えられないんだけど、同楽団初の女性コンサートマスター、ラトヴィア人のヴィネタ・サレイカ=フォルクナー。アルテミス弦楽四重奏団の元第1ヴァイオリン奏者。隣に同じくコンサートマスターのノア・ベンディックス=バルグリーが座っていた。前日のBプロではコンサートマスターが樫本大進、フルートにパユ、オーボエにマイヤー、クラリネットにフックスで、成熟したベルリン・フィルといった感じだったけど、この日のほうはフレッシュで現在進行形のベルリン・フィルという印象。ホルンは両日とも途中からドール。弦は対向配置。
November 22, 2023