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2023年12月アーカイブ

December 28, 2023

「音楽入門」(伊福部昭著/角川ソフィア文庫)

ifukube_book.png●先日、ワタシが映画「ゴジラ-1.0」を観て伊福部の音楽が登場する場面に震撼したことをAmazonは知らないはずだが、おすすめの本として伊福部昭著「音楽入門」(角川ソフィア文庫)Kindle版を挙げてきた。1951年初出という歴史的名著が数百円で買えるのだから、勧められるがままに買っておく。Kindle版だと検索ができるのがいい。紙の本にはない機動性がある。
●書いた時代が時代なので、さすがに内容的に古びたところがあることは著者自身も再刊時に認めているが、今読んでも文章の明快さには唸らずにはいられない。冒頭のはしがきで、博物館に教師に引率されてやってきた学生たちが、展示品の解説や先生の説明を熱心にノートにメモしているが、だれも肝心の展示品そのものを見つめていない様子が紹介されている。そして、解説もとても大事なものだけど、対象物そのものから受ける印象や感動がもっとも大切なのだと諭し、この場面にふたつの危うさを読みとる。

 一つは、何かある作品に接した場合、作品そのものからくる直接的な感動とか、または、印象などよりも、その作品に関する第二義的な、いわば知識といわれるものの方をより重要だと考えることです。更にいえば、枝葉的な知識とか解説なしには、本当の鑑賞はあり得ないと考えることです。
 他の一つは、たとえ、自分がある作品から直接に強烈な印象なり感動を受けたとしましても、これを決して最終的な価値判断の尺度とすることはなく、より権威があると考えられる他人の意見、いわば定評に頼ろうとする態度です。

●これは刊行から70年以上経った今でもまったく同じことが言えると思った。というか、むしろ今のほうがSNSを通して「より権威があると考えられる他人の意見、いわば定評」が容易に目に入る分、厄介な問題なのかもしれない。
●あと、西洋音楽史を概観する部分があるんだけど、たとえばパレストリーナについて、以下のように記している。これを昭和26年、日本で初めてLPレコードが発売された年に書いたってこと?

 パレストリーナが在来あった、フランダースの音楽を革新したと考えるのは誤りです。もちろん、多少の新しい発見があるにはありましょうが、彼の最大の特長は、東洋でいわれる表現の停止(ちょうじ)という芸術観を発見したことにありました。いわば、アメリカ映画のような誇大な表現にみちていたフランダースの音楽手法を、日本の能のように、誇大な表現を控えた、いわば静止に近い動きにまで表現を節約した点にあるのです。
 音楽のこのような表現の節約は、一時代が過ぎてベートーヴェンの後期の室内楽およびセザール・フランク、ガブリエル・フォーレ等において再び発見されるものなのです。
 パレストリーナに見る表現の節約は、従来の表現を革新したものではなく、音楽上の手法を、ある制限によって狭めたのです。彼の確立した世界は、あらゆる意味で完璧なものではありましたが、この節約の影響は、次代の作家たちに一種の無気力と沈滞を与えることになるのです。

●年末年始に入るので、いつものように当欄は不定期更新モードで。

December 27, 2023

スマホのバッテリーを交換する

スマホの中身
●できることならIT機器は大切に長く使いたい……と思っていても、現実はそうはいかない。スマートフォンはどうがんばっても、バッテリーがへたるか、OSのバージョンが古くなってアプリがサポート外になったら買い替えるしかない。
●で、今使っている少し前の世代のGoogle Pixelも、だんだんバッテリーのもちが悪くなってきて、外出中にモバイルバッテリーの世話になることが増えてきた。そこで、あれこれ悩んだ末にバッテリー交換をすることに。ここでバッテリーを新品に交換したところで、Androidのバージョンを考えると遠からず買い替えになるのはわかっている。わかってはいるが、バッテリーが復活すれば当面の快適度はあがるはず。自分で交換するのは無理なので、「Google 正規サービスプロバイダ」を名乗るお店に持ち込んで、交換してもらった。交換というか、扱いとしては修理ということになる。少し待ち時間はあったものの、行ったその場で直してもらえて満足。
●で、目の前でスマホを分解して直してくれたんだけど、スマホって外側から見るとカッコよくて洗練されるけど、パカッとカバーを外すと中身はPCと同様、すっかりギークな電子工作の世界で、わ、バッテリーにつながる電源ケーブルってこんなに細いんだとか、こんなところにも埃がたまっちゃうのかーとか、ぜんぜんオシャレじゃなくて、なんだか好ましい感じがした。修理のお兄さんの手さばきはすこぶるイカしてた。

December 26, 2023

2023年 心に残る演奏会

佐藤俊介指揮東京交響楽団 2023
●いよいよ暮れも押し詰まってきたところで、今年一年の「心に残る演奏会」を選んでみた。聴いたその瞬間の感銘深さで選ぶとぜんぜん違うラインナップになるのだが、後からじわじわ来るような、なんらかの引っかかりを心に残した公演という意味で、5つ。

全国共同制作オペラ「田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)」&「道化師」 上田久美子演出、アッシャー・フィッシュ指揮読響(2月3日 東京芸術劇場)

佐藤俊介指揮東京交響楽団のシュポア、ベートーヴェン、メンデルスゾーン(3月18日 サントリーホール、写真)

パトリツィア・コパチンスカヤと大野和士指揮東京都交響楽団のリゲティ(3月28日 サントリーホール)

エリアス弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクル III ~ サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン(6月7日 サントリーホール ブルーローズ)

キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルのレーガー&シュトラウス(11月20日 サントリーホール)

●今年の音楽以外の大きな話題としては、対話型生成系AIの大躍進。世の中が劇的に変化すると確信させるものの、それが具体的にどういう形になるのかはわからないところが、インターネット黎明期によく似ている。

December 25, 2023

出口大地指揮東京フィルのベートーヴェン「第九」

●22日は東京オペラシティで出口大地指揮東フィルの「第九」。3公演ある「第九」の初日だが、チケットは全公演完売。客席には若者の姿も多数。「第九」一曲のみではなく、最初にベートーヴェンの「献堂式」序曲を演奏して、休憩を挟んで「第九」を演奏する方式。
●2021年ハチャトゥリアン国際コンクールで第1位を獲得した出口大地は、東フィル定期に大抜擢されるなど、めきめきと活躍の場を広げる若手。ドナルド・ラニクルズやパーヴォ・ベルグルンドと同様、左手に指揮棒を持つ異色の指揮者。このコンビは東フィル定期、サマーミューザでも聴いているので(「題名のない音楽会」にもなんども出演)、もう指揮姿に驚くことはないけど、やっぱり不思議な感じはする。「第九」は一言でいえば明快。そしてキレがある。明るくくっきりした見通しのよいサウンドで、ぐいぐいと前に進む。バランスがよく爽快な「第九」で、深遠ぶらず、ストレート。声楽陣はソプラノに光岡暁恵、アルトに中島郁子、テノールに清水徹太郎、バリトンに上江隼人、そして新国立劇場合唱団で万全。合唱団は約60名ほどの編成。
●そういえば最近、「第九」の合唱はだいたい新国立劇場合唱団だなと思ったら、今年は東フィルのほか、N響、読響、都響が新国立劇場合唱団だった。24日の午後はこの4団体の「第九」が重なる離れ技で、八面六臂というか四面八臂の活躍ぶり。

December 22, 2023

2024年 音楽家の記念年

アントン・ブルックナー
●12月恒例、来年に記念の年を迎える主な音楽家をリストアップ。例によって生年か没年で100年区切りに該当する人のみ。細かく刻むと膨大な人数が並んで無意味なリストになるので。今年はリゲティ生誕100年が盛り上がったけど、ラロの生誕200年はさっぱりだった。

[生誕100年]
ルイジ・ノーノ(作曲家)1924-1990
團伊玖磨(作曲家)1924-2001
ヘンリー・マンシーニ(作曲家)1924-1994
モーリス・ジャール(作曲家)1924-2009
ルドルフ・バルシャイ(指揮者、ヴィオラ奏者)1924-2010
ジョルジュ・プレートル(指揮者)1924-2017
ネヴィル・マリナー(指揮者)1924-2016
サンソン・フランソワ(ピアニスト)1924-1970
レオニード・コーガン(ヴァイオリニスト)1924-1982
ヤーノシュ・シュタルケル(チェリスト)1924-2013
カルロ・ベルゴンツィ(歌手)1924-2014
シャルル・アズナヴール(歌手、ソングライター)1924-2018
ローラン・プティ(舞踊家、振付家)1924-2011

[没後100年]
ジャコモ・プッチーニ(作曲家)1858-1924
ガブリエル・フォーレ(作曲家)1845-1924
フェルッチョ・ブゾーニ(作曲家)1866-1924
チャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォード(作曲家)1852-1924
テオドール・デュボワ(作曲家)1837-1924
ヴィクター・ハーバート(作曲家)1859-1924

[生誕200年]
アントン・ブルックナー(作曲家)1824-1896
ベドルジハ・スメタナ(作曲家)1824-1884
カール・ライネッケ(作曲家)1824-1910

[没後200年]
ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティ(作曲家)1755-1824

[没後300年]
近松門左衛門(浄瑠璃/歌舞伎作者)1653-1724

●例年に比べるとビッグネームが多い感じ。最大の注目はブルックナー生誕200年だろう。すでにもう始まっている感じすらある。同じ年に生まれたスメタナも有望かも。没後100年のプッチーニ、フォーレも強力。ただ、没後だと生誕の半分くらいのインパクトか。案外、ヘンリー・マンシーニ生誕100年はいけるかも?
●50年区切りも含めれば、生誕150年にシェーンベルク、アイヴズ、ホルストがいる。ただ、「150」という中途半端さはどうかな。
●あ、上に掲げたのはアニメ調で描いてもらったブルックナー。AI画伯 Leonardo.Ai さん作。意外とモテそう。

December 21, 2023

有人と無人 2023

スーパーマーケット
●SUICAにチャージしようと思って券売機に差し込んだところ、なんどやってもカードが戻ってくる。しょうがないので久しぶりに「みどりの窓口」に並んだ。自分の前にはほんの数人しかいなかったのだが、ずいぶんと待った。無理もない。ほとんどの用事がスマホと券売機で済むようになった今、わざわざ有人の窓口に並ぶ用件と言ったら相当に込み入った話ばかりだ。ひとりをさばくのに5分も10分もかかる。ようやく自分の番が来てSUICAを見せたら、ICが弱っている(?)的な話で、すぐに交換してもらえた。ID番号は変わってしまうが、残額や氏名はそのまま。
●スーパーに買い物に行ったら、レジがすべてセルフレジになっていた。有人のレジはひとつも見当たらない。セルフレジはたくさんあるので、レジに並ばなくてもよいのはありがたいこと。そう思って、買い物かごに入れた商品をひとつずつ取り出し、バーコードの場所を探して、読み取らせた。われながら、手際が悪い。これまでのレジ打ちの人たちがいかに熟練していたか、よくわかる。あの早業をまねようとは思わない。むしろ逆だ。後ろに行列はない。これまでにだれも見たことがないくらい、ゆっくりと優雅にバーコードを読み取らせようと心がけた。きみがアレグロなら、ぼくはレント。これより宇宙一エレガントなレジ打ちに挑戦する。ピッ。

December 20, 2023

ほのカルテット リサイタル 大阪国際室内楽コンクール2023弦楽四重奏部門第2位記念

●19日はサントリーホールのブルーローズ(小ホール)で、ほのカルテット。サントリーホール室内楽アカデミー第7期生、ほのカルテットが大阪国際室内楽コンクール2023で弦楽四重奏部門第2位を獲得したことを記念して開催された公演。メンバーは第1ヴァイオリンが岸本萌乃加(ほのか、なので「ほのカルテット」)、第2ヴァイオリンが林周雅、ヴィオラが長田健志、チェロが蟹江慶行。めちゃくちゃうまいメンバーがそろっているのだが、岸本は読響第1ヴァイオリン、林は「題名のない音楽会」の「題名プロ塾」でデビューしてジャンル無用で活躍中、長田は反田恭平率いるジャパン・ナショナル・オーケストラのメンバー、蟹江は東響のメンバーといった具合で、活動拠点はまちまち。なのだが、全員が東京芸大在学中の結成という間柄で、しかもチェロ以外の3人はみんな「佐渡裕とスーパーキッズ・オーケストラ」卒業生という関西勢。
●プログラムは前半にハイドンの弦楽四重奏曲第38番変ホ長調「冗談」とベートーヴェンの弦楽四重奏曲第12番変ホ長調、後半にメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第4番ホ短調(当初発表からベートーヴェンとメンデルスゾーンの曲順が入れ替わった)。ハイドンの「冗談」は曲のおしまいが「終わったと思わせて終わってない」という、交響曲第90番と同様のジョークが仕込まれている楽しい曲。サントリーホールのブルーローズのお客さんともなると、だれも騙されて拍手をしてくれないわけだが、それでも演出はしっかり利いていて効果抜群。この部分だけではなく、作品全体にあるユーモアの要素が伝わってくる。ベートーヴェンは練り上げられた表現で、切れ味鋭く鮮やか。思い切りのよい振幅の大きな表現で、聴きごたえ大。ほかの後期作品も聴きたくなる。メンデルスゾーンがおそらくこのカルテットの真骨頂。パッションが豊かでスリリング。曲順を変更した理由はいくつも考えられるけど、おしまいに置いたことで聴く側の意識がメンデルスゾーンにフォーカスすることはたしか。
●後半に入る前にがっつりとトークが入った。林周雅さん中心に4人でマイクを回すのだが、このトークがおそろしいほどうまくて、楽しいムードになる。客席の心をガッツリつかんでいた。でも、少し長すぎたか。アンコールもふるっていた。まずはエベーヌ弦楽四重奏団編曲による映画「パルプ・フィクション」より「Misirlou」。これがクレイジーでカッコいい。その後、さらに長田さんがマイクをもって話しながら、そのまま三木たかし(多井千洋編曲)「津軽海峡・冬景色」へ。トークが歌の「前口上」になっていたという昭和歌謡仕様の演出で爆笑。カモメの鳴き声まで入ってる。このノリには度肝を抜かれた。ハイドンのジョークで始まって、現代のジョークで終わったということか。全員のスケジュールを合わせるのが大変そうな団体だけど、これからの活動が楽しみ。

December 19, 2023

国立新美術館 「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」

国立新美術館 大巻伸嗣 Gravity and Grace
●国立新美術館で開催中の「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」を観た。大規模インスタレーションを中心とした展示で、なんの予備知識もなく足を運んだのだが、大変みごたえがあってすばらしい。入るとすぐにドーンと上のような物体が展示してあって目が釘付けに。題は「Gravity and Grace」(2023)。まばゆい。まるでモノリスに引き寄せられる猿人のような気分になる。
国立新美術館 大巻伸嗣 Liminal Air Time-Space 真空のゆらぎ
●こちらは「Liminal Air Time-Space 真空のゆらぎ」(2023)。真っ暗な部屋で目が慣れるまではなにがなんだかわからないのだが、薄い化学繊維の布が風を受けて時々刻々と形を変えている。まるで海の波のようでもあり、クラゲみたいな浮遊軟体動物のようでもある。この展示室ではダンサーによるパフォーマンスも行われていた(これは決まった日時のみのイベント)。ソラリスの海ってこんな感じなのかなーとか想像する。
国立新美術館 大巻伸嗣 Linear Fluctuation
●壁の両面にずらっと並べられた「Linear Fluctuation」(2019-21)の一部。水彩。一枚一枚眺めながらのんびり歩く。楽しい。
●で、これだけ充実した展示なのに、なぜか無料。すごすぎる。12月25日まで。国立新美術館は珍しく火曜日がお休みの美術館なのでご注意を。一度、気づかずに他になんの用もない乃木坂駅まで行ってしまい、すごすごと引き返した。

December 18, 2023

ファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団のマーラー「一千人の交響曲」

ファビオ・ルイージ NHK交響楽団 マーラー「一千人の交響曲」
●16日はNHKホールでファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団。N響第2000回定期を記念して、ファン投票で決まった曲目がこのマーラーの交響曲第8番「一千人の交響曲」。三択で対抗馬にフランツ・シュミットのオラトリオ「7つの封印の書」、シューマンのオラトリオ「楽園とペリ」があったわけだが、予想通りマーラーが過半数の票を獲得した次第。ちなみに第2000回定期が「一千人の交響曲」なら、第1000回定期はなんだったのかといえば、1986年、サヴァリッシュ指揮のメンデルスゾーンのオラトリオ「エリア」だった(第1000回だから「一千人の交響曲」というわけではなくて)。奇しくもサヴァリッシュはルイージのメンター。N響を通して師弟の縁が思わぬ形で結ばれた。
●演奏が始まる前の緊張感がすごかった。最初の一音が出る前、客席の集中度が異様に高まっていて、固唾をのんで待っている様子が伝わってくる。演奏は祝祭性をことさら強調したものではなく正攻法で、壮麗でありながらも端正。合唱は新国立劇場合唱団とNHK東京児童合唱団で最強の布陣。児童合唱に胸キュン。2階Rエリアに金管のバンダが配置されていて、突然の立体音響にびっくり。独唱陣はソプラノにジャクリン・ワーグナー、ヴァレンティーナ・ファルカシュ、三宅理恵、アルトにオレシア・ペトロヴァ、カトリオーナ・モリソン、テノールにミヒャエル・シャーデ、バリトンにルーク・ストリフ、バスにダーヴィッド・シュテフェンス。合唱団の前に立って歌った。最後のソプラノはオルガン席から。
●ぐいぐいと進む一気呵成の第1部に比べると、この曲、第2部は親しみづらいなと思う。第1部は4楽章制交響曲のアレグロ楽章みたいにして聴けるけど、第2部をアダージョ、スケルツォ、フィナーレとして飲み込もうと思っても、なんだかすっきりしない。で、テキストがゲーテの「ファウスト」第2部だっていっても、もうメインのストーリーは終わってて、エンディングの情景だけが描かれている。なんというか、試合はすでに決着がついてて、最後のヒーロー・インタビューでひとりずつ「今の心境は?」って尋ねているみたいな感じ。テキストへの共感がない自分がここで疎外感を味わうのはしょうがないんだけど、おしまいは音楽の高揚感だけで胸がいっぱいになる。
●そういえば、ピアノがこんなにはっきりと目立った演奏は記憶にないかも。この曲はオルガン、ピアノ、チェレスタ、ハルモニウム全部乗せという鍵盤楽器交響曲でもあった。

December 15, 2023

トッパンホール ランチタイムコンサート 大瀧拓哉(ピアノ)希望に向かって

大瀧拓哉 トッパンホール●15日の昼はトッパンホールへ。大瀧拓哉のピアノによるランチタイムコンサート。12時15分開演の無料公演、休憩なしの短いプログラムで「希望に向かって」と題されていた。大瀧拓哉は2016年オルレアン国際ピアノコンクール優勝者で、トーマス・ヘルらに師事。現代音楽を得意としつつ古典もレパートリーとしており、今回のプログラムもベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番ホ長調ではじまって、ベルクのピアノ・ソナタ、フレデリック・ジェフスキのノース・アメリカン・バラード第4番「ウィンズボロ綿工場のブルース」(1979)と続く意欲的なもの。「ラインチタイムコンサート」的なふわっとした雰囲気が一切ないシリアスなテイストなのだが、「希望に向かって」とあるようにポジティブなエネルギーに満ち、大きなストーリーを描き出す。
●ベートーヴェンの30番は深遠というよりはフレッシュ、ベルクはパッションとロマンが横溢して白熱。圧巻はやはりジェフスキ「ウィンズボロ綿工場のブルース」。この日の核心。機械的な律動とブルースの対比は、強大なマシーンに立ち向かう労働歌のごとし。おしまいのエルボーが熱い。最後に訪れる静けさは解放なのか。アンコールはバッハ~コルトーの「アリオーソ」。
●余談だけど、ジェフスキを聴いて、マシーン名曲の系譜に思いをはせる。ハイドンの「時計」、ベートーヴェンの交響曲第8番、ドリーブ「コッペリア」、ドヴォルザーク「新世界より」、オネゲル「パシフィック231」、アルカン「鉄道」、マルティヌー「サンダーボルトP-47」、アンタイル「バレエ・メカニック」、モロゾフ「鉄工場」、プロコフィエフ「鋼鉄の歩み」(あるいは「シンデレラ」の真夜中の場面)、ショスタコーヴィチの交響曲第5番(?)……。

December 14, 2023

甲府伝説はまだ続く──アジア・チャンピオンズ・リーグのグループリーグを1位で突破

●J2のクラブでありながらアジア・チャンピオンズ・リーグ(ACL)で奮闘するヴァンフォーレ甲府が、新たな伝説を作った。12日、アウェイでタイ王者のブリーラム・ユナイテッドと対戦して勝利。ブリーラム2対3甲府。同時開催のメルボルン・シティが引き分けたため、なんと甲府がグループ1位で決勝トーナメントに進出することに。すごすぎる。前にも書いたがJ2の甲府には予算がない。今回もエコノミークラスの団体券で移動したのだろうか。オーストラリア王者のメルボルン・シティ、中国リーグ3位の浙江FC、タイ王者のブリーラムを相手にして、J2ながら天皇杯優勝の甲府が1位で通過。シーズン中はリーグ戦とACLが並行していたので、選手のやりくりは大変だったと思う。篠田善之監督は偉大。
●こんな前例はないだろうと思ったけど、以前、サウジアラビアの2部リーグのクラブが決勝トーナメントに進出したことがあるらしい。
●さて、リーグ戦で優勝を逃したマリノスだが、ACLではホームで中国の山東泰山と対戦。2点差以上で勝たなければ敗退が決まるという厳しい状況だったが、3対0で勝利してグループリーグを1位で通過することになった。薄くなった選手層や怪我人の多さを考えれば予想外の健闘。同時にケヴィン・マスカット監督の退任も発表された。前任のポステコグルー監督同様、ヨーロッパでステップアップを目指すことになるのだろうか。後任は現在セルティックでコーチを務めるハリー・キューウェルになりそうという報道。豪州路線が続くことになるわけだけど、どうなのかな。キューウェルは選手時代の名声は最高だけど、監督としての実績は乏しい。はたして今のハイリスクな戦術を維持したまま結果を出せるかどうか。
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●明日の当欄更新は夜になる予定。

December 13, 2023

映画「ゴジラ-1.0」(山崎貴監督)

●自分の周囲ではとても話題になっている映画「ゴジラ-1.0」(山崎貴監督)。賛否両論なのだが、ゴジラの場面はよい、という点ではみんな一致している。で、自分もようやく映画館で観た。そうだなー。ひどい話だと思ったけど、ゴジラが出ている場面は100点満点。この凶悪さ、恐ろしさ。たいへんすばらしい。肝の場面で流れる伊福部昭の音楽も鳥肌もの。
●基本設定も秀逸。初代ゴジラより時代設定を前にしていて、まだ戦時中の時点で話が始まる。主人公は特攻隊の生き残り。つまり、ゴジラ映画では必須と思われていた自衛隊がまだ存在しない。なるほど、そう設定すれば日本軍とゴジラが戦えるのか。ただ、話がはじまるとすぐに終戦して、敗戦国となった日本がどうやってゴジラと立ち向かうのかという話になって、どういうわけか民間主導でゴジラと戦おうということになる。
●話はもう本当にわけがわからない。ご都合主義が大手を振るって歩いているし(パニックになった銀座でヒロインと主人公がばったり出会う場面に声が出そうになった)、登場人物は自分の心情を独り言として声に出して説明するし、すぐに叫んだり泣いたりするし、行動原理も思考回路も謎すぎてヒトの人生を送ってる感がなさすぎるし、「こういう展開になったらヤだな~」と思ったほうに展開していく。まあ、ディズニー以降の「スター・ウォーズ」もだいたいこんな感じだったから、今はしょうがないのかな……。
●でも、ゴジラが出ている場面は最高だ。地上のシーンも海のシーンもすばらしい。あと、ゴジラと戦うための「わだつみ作戦」、一見荒唐無稽に見えて実はSF的なロジックが通っていて、このアイディアはスマートだと思った。ゴジラに災害のメタファーを背負わせるのもいいんだけど、こういう空想的なサイエンスの要素があったほうが、がぜん盛り上がる。ゴジラが登場する前に深海魚が浮くシーンも伏線になってるし。あ、そう考えると本当によくできている。「オレの戦争を終わらせる」的な耐えがたい人間ドラマ以外はすべてにおいて大傑作なのでは。

December 12, 2023

流行語大賞とアジア大会の「ひき肉です」

●自由国民社による今年の「新語・流行語大賞」、大賞は「アレ(A.R.E.)」。38年ぶりに日本一になった阪神タイガースの岡田彰布監督が、あえて「優勝」という言葉を口にせずに「アレ」と呼び続けたことから生まれた言葉らしい(詳しいことは知らないけど、教えてくれなくてもいいっす)。野球は見てないけど、なんとなくわかる、そういうゲン担ぎ的な発想は。
●で、ノミネートされてたのに結局トップテン入りもしなかったのが「ひき肉です」。これは上位に来ると思ったんだけどなー。中学生YouTuberのちょんまげ小僧のメンバーのあいさつが「ミーム化」したというのが、いかにも今どき。大人も知るきっかけになったのは、サッカーのアジア大会準々決勝でのU-22ニッポン代表対U-24北朝鮮戦。北朝鮮の暴力的行為が物議を醸した問題の試合だが、PKを決めた松村優太(鹿島)が佐藤恵允(ブレーメン)といっしょにゴールパフォーマンスで「ひき肉です」をやってくれた。以下にその場面の映像(TBSの公式)を。ちゃんと頭出しをしておいた。中継のアナウンサーは反応してくれなかった模様。

●このゴールパフォーマンスに対して、ちょんまげ小僧のひき肉がメッセージを寄せているのがこちら。これが本家の「ひき肉です」なのかー。

December 11, 2023

務川慧悟 連続演奏会 最終夜

務川慧悟 連続演奏会
●8日は浜離宮朝日ホールで務川慧悟のピアノ・リサイタル。これが連続リサイタルの最終日。なんと、5日間連続のリサイタルなんすよ。それで客席はびっしり。すごすぎる。ロン=ティボーで第2位、エリーザベトで第3位のコンクール歴で実力は認められていても、ここまでの人気ぶりはそんなに伝わってないのでは。この5日間のためにAプロとBプロの2種類が用意されていて、各プロ2公演ずつ行った後、最終日は両プロからの選曲を中心としたプログラムを当日発表するという趣向。そして、最終日は休憩なしの90分予定。だったのだが、曲の合間にトークがたくさん入って、結局21時すぎに。
●当日発表のプログラムはバッハに始まって、バッハ~ブゾーニで終わった。バッハの「半音階的幻想曲とフーガ」、フランクの「プレリュード、コラールとフーガ」、ドビュッシーの前奏曲集より「亜麻色の髪の乙女」「酒の門」「ヒース」「カノープ」、ショパンのバラード第4番、「英雄ポロネーズ」、ブラームスの作品118の第5曲「ロマンス」、バッハ~ブゾーニの「シャコンヌ」。高い技巧と音色表現の多彩さ、パレットの豊富さが印象的で、作品ごとにふさわしいカラーを作り出す。フランクはオルガン的な荘厳さ、ショパンはパッションが豊か、ドビュッシーは繊細。しばしば深く沈み込むような内省的な表現が聞かれるのが魅力。ブゾーニのイマジネーションで再構築された巨大な「シャコンヌ」は豪壮。
●シリーズ最終日ということで務川さんなりに考えたリサイタルの形が試されていて、曲間では率直なトークが挟まれ、アンコールでは演奏中の撮影が許可される。「儀式化」されがちなふつうのソロ・リサイタルに比べると、ずいぶんアーティストとの距離が近く感じられる。いいところも難しいところもあると思うんだけど(難しいのはトイレ問題。でも若い人にはあまり関係ない)、従来と違うリサイタルの形はきっとあるはず。
●アンコールは2曲。まずシューマン「子どものためのアルバム」第30曲(無題)。スマホの電源を入れる時間まで取ってくれる親切仕様で、演奏中もみんなで客席から撮影。シャッター音があちこちから聞こえてくる。これはお土産のためのフォトセッションだと思えばいい。アンコールをもう一曲。ドビュッシーの「花火」。そこで気づく。舞台上でピアノが花火を打ち上げているが、客席ではわれわれがスマホでパシャ、ピコッ、ビロロロンなど、色とりどりの音の花火を打ち上げている。これはドビュッシーと電子シャッター音の共演なのだ。

December 8, 2023

ニッポン代表、元日のタイ代表戦、中継のなかったW杯予選シリア戦

●ニッポン代表の次の試合は元日、国立競技場でタイ代表戦。なるほどなー、と思った。かつては元日の国立競技場といえば天皇杯の決勝戦。正月に試合をするのはサッカー選手の栄誉だったわけだけど、各種大会のスケジュールの都合から天皇杯決勝が前倒しされるようになった。代わりに代表の親善試合を行うのは妙案。1月中旬から始まるアジア・カップ2024カタール大会に向けたテストとして最適。
●といっても、お正月は代表ウィークではないので、欧州から呼べる選手は限定される。ドイツやフランス、ベルギー、オランダはウィンターブレークがあるので呼べるけど、イングランドやスペイン、ポルトガルは試合があるので呼べず。そこで欧州組とJリーグ組がブレンドされたメンバーに(選手一覧)。FC東京の野澤大志ブランドン、シントトロイデンの伊藤涼太郎が初選出。ほかに名古屋の森下龍矢、藤井陽也、広島の川村拓夢らも。
●ところで11月21日に行われたワールドカップ・アジア2次予選のシリア代表vsニッポンだが、結局、試合を見ていない。放映権でもめて、W杯予選という重要な試合でありながら、テレビ中継もネット中継もなかった。サウジアラビアでの中立地開催になり、結果はシリア0対5ニッポン。ゴールは久保、上田、上田、菅原由勢、細谷。報道によれば、放映権を持つUAEの代理店が億単位の金額をふっかけてきたところ、日本のテレビ局はどこも手を挙げず、ようやく試合直前になって金額を下げてきたものの、もはや実務的に間に合わず中継が実現しなかったということらしい。当初、日本時間で真夜中の試合だったが、先方は試合開始時刻を繰り上げて日本時間で23:45キックオフに変更したのに、それでも放映権は売れなかった。それはそうだろう、開始時刻を早めたところで平日の深夜だし、なにより金額設定が無茶苦茶なのだから。結局、UAEの代理店は放映権を売れず、日本のファンは試合を見れなかった。Win-Winではなく、Lose-Loseの決着。
●まあ、結果が大勝だったから言えるのだが、これでよかったのだろう。大事な試合だからどんなに高くても買わざるを得ないとなったら、金額は青天井になる。相場を無視すると交渉が決裂するという前例ができたのはいいこと。でも、もしこれが最終予選だったら? 場合によっては、それでも「買わない」という選択がありうるかもしれない。じゃあ、これがワールドカップ本大会だったら? 1998年フランス大会の放映権は6億円だったが、22年カタール大会は350億円だったとか。放映権が高騰して買えなくなったときが、サッカー人気の凋落の始まりだろう。

December 7, 2023

デンタル・ショパン

歯ブラシ
●2021年のショパン・コンクールの頃だったと思う。定期的に通っている近所の歯医者さんのBGMが、オール・ショパンになった。コンクールをきっかけに、先生がショパンにハマったのだろうか。その後、なんど足を運んでもいつもショパンが静かに流れている。歯を削ったり抜いたりするとなったら、全身硬直するほど緊張度マックスに力むものであるが(ならない?)、そんなときにショパンが流れていると少しは気持ちが休まるとか、そういうことなのであろうか。
●これはだれの演奏なのかとか、先生のお気に入りのピアニストはだれかとか、毎回、あれこれ気になるのだが、普通、歯医者さんで雑談をする余裕はない。そもそもたいていの場面で口を大きく開けているわけで、しゃべったところでモガモガとかしか言えない。先日、歯のクリーニングをしてもらったときも、やはりショパンだった。バラード第4番など。
●今、恐れているのは、ショパンを聴くと条件反射的に歯医者の椅子に座っている気分になるのではないかということ。

December 6, 2023

シルヴァン・カンブルラン指揮読響のヤナーチェク、リゲティ、ルトスワフスキ

●5日はサントリーホールでシルヴァン・カンブルラン指揮読響。20世紀東欧プログラムがすばらしく魅力的。前半にヤナーチェクのバラード「ヴァイオリン弾きの子供」、生誕100年を記念してリゲティのピアノ協奏曲(ピエール=ロラン・エマール)、後半にヤナーチェクの序曲「嫉妬」、ルトスワフスキの「管弦楽のための協奏曲」。
●ヤナーチェクの両曲はどちらも初めて聴いたが、とてもおもしろい。「ヴァイオリン弾きの子供」は題材となった詩の内容が怖すぎて書けないのだが(ドヴォルザーク「真昼の魔女」を少し連想する)、独奏ヴァイオリン(特別客演コンサートマスターの日下紗矢子)が父親であるヴァイオリン弾き役を担う。ツルゲーネフを着想源としたショーソン「詩曲」などと同様、「魔のヴァイオリン」もののひとつ。ヤナーチェクのもう一曲、序曲「嫉妬」は本来はオペラ「イェヌーファ」の序曲として書かれた作品なのだとか。それで納得。「イェヌーファ」もとてつもなく恐ろしい話で(新国立劇場での上演を思い出す)、そこには「ヴァイオリン弾きの子供」と共通するあるテーマがある(それは作曲者ヤナーチェクの実人生にもつながってくるわけだが……)。それにしても、どうしてヤナーチェクはこんなに立派な序曲を書いておきながら、「イェヌーファ」の序曲に採用しなかったのだろう。結局「イェヌーファ」の冒頭部分の音楽はどうなってたんだっけ? 思い出せないので帰宅してから録音で確認してみたが、うんと簡潔な前奏曲が付いていた。序曲で完結したドラマを聴かせるよりも、早く本題に入ったほうが得策、ということなのだろうか。20世紀作品として当然の判断といえばそうなのだろうが、宙に浮いた序曲「嫉妬」がもったいない。
●リゲティのピアノ協奏曲ではピエール=ロラン・エマールが明快鮮烈なソロで作曲者記念の年を飾る。この曲、リズムや旋法に仕掛けがあって、錯綜した幾何学模様みたいなおもしろさがある。というか、わりと最近も聴いたっけ? サントリーホールのサマーフェスティバルかな。演奏後、客席は大いにわきあがり、エマールのアンコール。リゲティの「ムジカ・リチェルカータ」第7曲を演奏。さらに勢いがついて、第8曲も。お得。エマールのピアノは清冽ですっきりとキレイに洗われているが、音色表現も多彩で決して色落ちしない、さすがエマールの洗浄力(←このギャグ、何度目だ?)。
●最後のルトスワフスキ「管弦楽のための協奏曲」、今日のプログラムでこの曲だけは自分は苦手なのだが、雄弁な演奏で、客席は大喝采。カンブルランのソロ・カーテンコールに。やはりカンブルランと読響のコンビは楽しい。

December 5, 2023

東京ヴェルディ、16年ぶりのJ1昇格

●J1昇格プレーオフは結局、東京ヴェルディが勝ち抜いて16年ぶりのJ1昇格を果たした。プレーオフ決勝がヴェルディ対清水エスパルス戦で、ともにJリーグスタート時からの「オリジナル10」同士の対戦。国立競技場に5万3千人もの観客を集めたそう。その日、別の用事でたまたま千駄ヶ谷に出たら、駅から続々とサポーターたちが出てくるのが見えた。本来、順位はリーグ戦ですでに決まっているのだから、昇格プレーオフなど邪道だと思っていたが(リーグ戦の3位から6位で1枠を争う)、J2同士の対戦でこれだけ人を集めるとなったら、そうも言ってられない。
●これで来季J1に昇格するのは町田ゼルビア、ジュビロ磐田、東京ヴェルディの3チームに。なんと、東京都から2チームも上がることになった(町田が東京都なのか神奈川県なのかは議論のあるところではあるが)。つまりJ1にはFC東京、町田ゼルビア、東京ヴェルディと東京勢が一気に3チームになった。でも、東京といっても全部、多摩以西のチームばかりなんすよね。FC東京もヴェルディも同じ味スタだし。こうなってくると、国立競技場をホームとするチームがないことが、不自然なくらいの東京空洞化を招いている気もする。
●今のヴェルディの熱いサポーターたちを見ていると、東京におけるFC東京とヴェルディの立ち位置もすっかり変わったというか、ある意味、逆転したと感じる。東京におけるビッグクラブがFC東京で、ヴェルディは次々といい選手を育てるけどすぐに他クラブに取られてしまう育成型クラブ。そんな育成型クラブが結果も出して上に勝ちあがったところに夢がある。

December 4, 2023

ファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団のベルリオーズ

ファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団
●2日はNHKホールでファビオ・ルイージ指揮N響。C定期なので開演は19時30分と遅い。開演前の室内楽があるのだが、そちらは都合が合わず断念。プログラムは休憩なしでフンパーディンクのオペラ「ヘンゼルとグレーテル」前奏曲とベルリオーズの「幻想交響曲」。
●「幻想交響曲」、超名曲だけどなかなか実演では名演に巡り合えないな……と思っていたのだが、この日は会心の一撃。オーケストラからすごい音が出ていた。緻密さ、解像度の高さ、柔らかくきめの細かい弦楽器の音色。本当にワールドクラスの音で、ここまで細部まで彫琢された「幻想」を聴いてしまうと、並の演奏では満足できなくなってしまいそう。作品イメージからするとずいぶん端正な演奏だなとは思ったけど、第4楽章、第5楽章は熱のこもったスリリングな演奏に。客席はルイージにしては空席も目立ったのだが、終演後の喝采は盛大。
●今年もNHKホール前の通りで「青の洞窟」が開催中。青色LED開発の偉業に思いを馳せる季節がやってきた。
青の洞窟 2023

December 1, 2023

佐藤晴真 チェロ・リサイタル ベートーヴェン、シューマン、バッハ

●30日は紀尾井ホールで佐藤晴真チェロ・リサイタル。佐藤晴真は2019年ミュンヘン国際音楽コンクールの優勝者。これまでに協奏曲等でなんどか聴いているが、リサイタルに足を運んだのは初めて。ピアノは佐藤卓史。佐藤デュオだ。プログラムは前半がベートーヴェンのチェロ・ソナタ第3番イ長調、シューマンの幻想小曲集op73、後半がバッハのヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ第3番ト短調、ベートーヴェンのチェロ・ソナタ第5番ニ長調。直球ど真ん中のドイツ音楽プロ。理想的なサイズと音響のホールで、のびやかで温かみのあるチェロの音色を堪能。端正な造形と、みずみずしく自然な音楽の流れが魅力。前半のイ長調/イ短調プロもよかったが、後半がより印象に残った。バッハはモダンなスタイルで潤い豊か。最後のベートーヴェンのチェロ・ソナタ第5番は一段とスケールの大きな音楽になって、荘厳。終楽章のフーガが圧巻だった。ピアノ・ソナタや弦楽四重奏曲と同じようにベートーヴェン後期特有の玄妙な世界がチェリストにも用意されているという幸運。
●アンコールはシューマンの「献呈」。最後は開放的な気分で終わる。アンコール前のトークで、ピアニストを紹介する際に「同じ佐藤ですけど兄弟ではありません」と話して、客席に笑いが漏れた。それで思い出したんだけど、前にヴァイオリンの佐藤俊介と佐藤卓史のデュオがあったと思うんすよ。ほかにも佐藤姓の音楽家はいっぱいいるから、佐藤さんだけでオーケストラを組めないだろうか。指揮は佐藤正浩で。オーケストラの名前はサトウ・キネン・オーケストラ。

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