●5日はサントリーホールでシルヴァン・カンブルラン指揮読響。20世紀東欧プログラムがすばらしく魅力的。前半にヤナーチェクのバラード「ヴァイオリン弾きの子供」、生誕100年を記念してリゲティのピアノ協奏曲(ピエール=ロラン・エマール)、後半にヤナーチェクの序曲「嫉妬」、ルトスワフスキの「管弦楽のための協奏曲」。
●ヤナーチェクの両曲はどちらも初めて聴いたが、とてもおもしろい。「ヴァイオリン弾きの子供」は題材となった詩の内容が怖すぎて書けないのだが(ドヴォルザーク「真昼の魔女」を少し連想する)、独奏ヴァイオリン(特別客演コンサートマスターの日下紗矢子)が父親であるヴァイオリン弾き役を担う。ツルゲーネフを着想源としたショーソン「詩曲」などと同様、「魔のヴァイオリン」もののひとつ。ヤナーチェクのもう一曲、序曲「嫉妬」は本来はオペラ「イェヌーファ」の序曲として書かれた作品なのだとか。それで納得。「イェヌーファ」もとてつもなく恐ろしい話で(新国立劇場での上演を思い出す)、そこには「ヴァイオリン弾きの子供」と共通するあるテーマがある(それは作曲者ヤナーチェクの実人生にもつながってくるわけだが……)。それにしても、どうしてヤナーチェクはこんなに立派な序曲を書いておきながら、「イェヌーファ」の序曲に採用しなかったのだろう。結局「イェヌーファ」の冒頭部分の音楽はどうなってたんだっけ? 思い出せないので帰宅してから録音で確認してみたが、うんと簡潔な前奏曲が付いていた。序曲で完結したドラマを聴かせるよりも、早く本題に入ったほうが得策、ということなのだろうか。20世紀作品として当然の判断といえばそうなのだろうが、宙に浮いた序曲「嫉妬」がもったいない。
●リゲティのピアノ協奏曲ではピエール=ロラン・エマールが明快鮮烈なソロで作曲者記念の年を飾る。この曲、リズムや旋法に仕掛けがあって、錯綜した幾何学模様みたいなおもしろさがある。というか、わりと最近も聴いたっけ? サントリーホールのサマーフェスティバルかな。演奏後、客席は大いにわきあがり、エマールのアンコール。リゲティの「ムジカ・リチェルカータ」第7曲を演奏。さらに勢いがついて、第8曲も。お得。エマールのピアノは清冽ですっきりとキレイに洗われているが、音色表現も多彩で決して色落ちしない、さすがエマールの洗浄力(←このギャグ、何度目だ?)。
●最後のルトスワフスキ「管弦楽のための協奏曲」、今日のプログラムでこの曲だけは自分は苦手なのだが、雄弁な演奏で、客席は大喝采。カンブルランのソロ・カーテンコールに。やはりカンブルランと読響のコンビは楽しい。
December 6, 2023