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December 28, 2023

「音楽入門」(伊福部昭著/角川ソフィア文庫)

ifukube_book.png●先日、ワタシが映画「ゴジラ-1.0」を観て伊福部の音楽が登場する場面に震撼したことをAmazonは知らないはずだが、おすすめの本として伊福部昭著「音楽入門」(角川ソフィア文庫)Kindle版を挙げてきた。1951年初出という歴史的名著が数百円で買えるのだから、勧められるがままに買っておく。Kindle版だと検索ができるのがいい。紙の本にはない機動性がある。
●書いた時代が時代なので、さすがに内容的に古びたところがあることは著者自身も再刊時に認めているが、今読んでも文章の明快さには唸らずにはいられない。冒頭のはしがきで、博物館に教師に引率されてやってきた学生たちが、展示品の解説や先生の説明を熱心にノートにメモしているが、だれも肝心の展示品そのものを見つめていない様子が紹介されている。そして、解説もとても大事なものだけど、対象物そのものから受ける印象や感動がもっとも大切なのだと諭し、この場面にふたつの危うさを読みとる。

 一つは、何かある作品に接した場合、作品そのものからくる直接的な感動とか、または、印象などよりも、その作品に関する第二義的な、いわば知識といわれるものの方をより重要だと考えることです。更にいえば、枝葉的な知識とか解説なしには、本当の鑑賞はあり得ないと考えることです。
 他の一つは、たとえ、自分がある作品から直接に強烈な印象なり感動を受けたとしましても、これを決して最終的な価値判断の尺度とすることはなく、より権威があると考えられる他人の意見、いわば定評に頼ろうとする態度です。

●これは刊行から70年以上経った今でもまったく同じことが言えると思った。というか、むしろ今のほうがSNSを通して「より権威があると考えられる他人の意見、いわば定評」が容易に目に入る分、厄介な問題なのかもしれない。
●あと、西洋音楽史を概観する部分があるんだけど、たとえばパレストリーナについて、以下のように記している。これを昭和26年、日本で初めてLPレコードが発売された年に書いたってこと?

 パレストリーナが在来あった、フランダースの音楽を革新したと考えるのは誤りです。もちろん、多少の新しい発見があるにはありましょうが、彼の最大の特長は、東洋でいわれる表現の停止(ちょうじ)という芸術観を発見したことにありました。いわば、アメリカ映画のような誇大な表現にみちていたフランダースの音楽手法を、日本の能のように、誇大な表現を控えた、いわば静止に近い動きにまで表現を節約した点にあるのです。
 音楽のこのような表現の節約は、一時代が過ぎてベートーヴェンの後期の室内楽およびセザール・フランク、ガブリエル・フォーレ等において再び発見されるものなのです。
 パレストリーナに見る表現の節約は、従来の表現を革新したものではなく、音楽上の手法を、ある制限によって狭めたのです。彼の確立した世界は、あらゆる意味で完璧なものではありましたが、この節約の影響は、次代の作家たちに一種の無気力と沈滞を与えることになるのです。

●年末年始に入るので、いつものように当欄は不定期更新モードで。