●しばらく前に刊行されてベストセラーとなったスポーツ・ノンフィクション、「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」(鈴木忠平著/文藝春秋)を読んだ。なるほど、これは傑作。野球をまったく見なくなって久しい自分だが、それでも文句なしにおもしろいと思った。中日ドラゴンズで8年間にわたって監督を務め、日本シリーズに5度も進出、日本一にも輝いたという、実績からいえば名監督のはずの落合博満。それなのに「嫌われた監督」。落合時代の中日のキープレーヤーたちに焦点を当てながら、異端の名将の実像に迫る。この本の魅力は落合博満という謎めいた人物像にあるのかと思って読み進めていたが(それも真実なのだが)、それ以上に一見異端と思える落合采配から野球競技の奥深さが伝わってくるところにおもしろさがあるのだと気づく。
●野球の世界には「スポーツ新聞ジャーナリズム」みたいなものが根付いているなというのも痛感した。文体も取材手法も。サッカー本ではあまり見かけないタイプの世界観が描かれていて、そこも新鮮。
●あと、野球は個人競技だなというのも感じる。いや、もちろん団体競技なんだけど、個人成績がはっきり出るので、選手間の序列が容易に可視化される。サッカーだと監督の戦術にフィットするかとか、選手間のケミストリーだとかで選手の序列は変動するけど、野球は投手も野手も個人成績が圧倒的にものを言うなと思った。
January 5, 2024