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February 2, 2024

芸劇リサイタル・シリーズ「VS」Vol.8 亀井聖矢×イム・ユンチャン

東京芸術劇場 VS 亀井聖矢 イム・ユンチャン
●1日は東京芸術劇場で芸劇リサイタル・シリーズ「VS」Vol.8 亀井聖矢×イム・ユンチャン。日韓若手スター・ピアニストの共演とあって、チケットは完売。開演前からムワムワとした期待感が漂っている。以前、ユンチャンを聴いたときもそうだったけど、客席のあちこちから韓国語が聞こえてくる。
●プログラムは前半が亀井のソロでショパンのモーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」の「お手をどうぞ」の主題による変奏曲、ユンチャンのソロでショパンのエチュード・セレクション(3つの新しいエチュードより第1番ヘ短調、Op.25より第1番変イ長調「エオリアンハープ」、第5番ホ短調、第6番嬰ト短調、Op.10より第10番変イ長調、第9番ヘ短調、Op.25より第11番イ短調「木枯らし」)、2台ピアノでラヴェルの「ラ・ヴァルス」、後半がともに2台ピアノでミヨーの「スカラムーシュ」とサン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」。もともとは最後がラフマニノフの2台ピアノのための組曲第2番だったのが、なぜか「動物の謝肉祭」に変更になった。この曲は1stユンチャン、あとは1st亀井。
●ふたりとも颯爽としていて、とてもカッコいい。そして風貌が似ている。衣装まで被り気味。が、芸風はだいぶ違う。亀井は華麗なピアニズムが魅力。洗練され、磨き上げられたエレガンス。ユンチャンは内にふつふつとしたパッションがあって、作品にぐっと一歩踏み込む感じ。前半、ショパンの「木枯らし」はもう突風か嵐かという勢い。「ラ・ヴァルス」が圧巻。ふたりのキャラクターがぶつかり合って、華麗さとグロテスクさがほどよくバランス。後半「スカラムーシュ」は爽快。おしまいが「動物の謝肉祭」で、ずいぶん軽いプログラムになってしまったが、デザートたっぷりのコースメニューと思えばいいのかも。いろんなやりようのある曲だとは思うけど、若さにふさわしくまっすぐ。アンコールにチャイコフスキー「くるみ割り人形」より「花のワルツ」。甘く華やいだ気分で幕を閉じた。
●前半、2台目のピアノを入れる舞台転換の間、亀井がマイクを持ってトーク。まず韓国語で挨拶と感謝の言葉を述べて、それから日本語トークに入るというホスピタリティを発揮。そこで一昨年のヴァン・クライバーン・コンクールでユンチャンといっしょになった話を披露してくれて、優勝したユンチャンとまちがえられて「コングラチュレーション」となんども言われたのだとか。気の毒だけど、少しおかしい。当時のほうが今よりさらに髪型が似ていたので、無理もない話。
●2台ピアノ、亀井が電子楽譜、ユンチャンが紙の楽譜だったんだけど、ふたりの譜めくり男子が影のように寄り添っていた。電子楽譜の譜めくりといっても画面を「シュッ!」とするのではなく、手元のスイッチを操作しているだけなので(たぶん)、微動だにしない。あの気配の殺し方はすごいと思った。世の中には1分としてじっとしていられない人もいるのに。