●2日、東劇のMETライブビューイングへ。ダニエル・カターンのオペラ「アマゾンのフロレンシア」(MET初演)を観る。今作は現代ラテンアメリカ・オペラ。メキシコの作曲家ダニエル・カターン(1949~2011)の作品で、言語はラテンアメリカのスペイン語(なんだそう)、舞台はアマゾン川を進む船上、主役のアイリーン・ペレスもメキシコ系、そして物語はガルシア・マルケスにインスパイアされたものだとか(後述するけど、そこはあまり気にしなくていい)。案内役はメキシコ出身のローランド・ヴィリャソン。陽気で超ハイテンションだ。演出はメアリー・ジマーマンで、舞台は鮮やかでカラフル、幻想的。指揮はヤニック・ネゼ=セガン。
●音楽は20世紀前半の書法を基調とするスタイルで、とりわけ色彩感豊かで壮麗なオーケストレーションはラヴェル「ダフニスとクロエ」をほうふつとさせる。主にラヴェル、いくぶんリヒャルト・シュトラウス、部分的にプッチーニなども思わせ、尖鋭なところはまったくない。オペラのような大掛かりな興行を成立させる現代オペラのあり方として、これがひとつの正解なのかも。事実、客席の反応はすこぶる熱狂的。「世界初演」需要を満たすのではなく、「再演」需要を満たすオペラというか。
●歌手陣では主役のソプラノ、アイリーン・ペレスが見事。甘くまろやかで温かみのある声。ネゼ=セガン指揮のオーケストラは精妙でさすが。
●で、物語はガルシア・マルケスからの着想で、その弟子が脚本を書いたという。最初、「コレラの時代の愛」(オペラ好きは必読。当欄での紹介記事はこちら)を原作にしたのかなと思ったのだが、一部モチーフが取り入れられているものの、筋はぜんぜん違っていて、特定の原作はない模様。主人公である謎めいた歌姫が20年ぶりに母国ブラジルのマナウスの歌劇場で歌うために、客船「エルドラド号」に乗ってアマゾン川を遡る。彼女の真の目的はかつてジャングルに消えた蝶ハンターの恋人と再会すること。この船でさまざまな人物と出会うが嵐に遭う。全2幕で、第1幕はリアリズム、第2幕は幻想譚。ワタシの理解では第2幕は彼岸の世界のできごとで、死者が復活したのではなく、全員があちら側に渡っている。ただ、ガルシア・マルケス的な要素(たとえば辛辣な諧謔味)はほとんど感じなかったので、先入観なしにラテンアメリカ的なおとぎ話として味わったほうが楽しめると思う。
February 6, 2024