●「利口な女狐の物語」といえばヤナーチェクの傑作オペラだが、ルドルフ・チェスノフリーデク著の原作もかなりおもしろい。八月舎より刊行されている「利口な女狐の物語」(ルドルフ・チェスノフリーデク著/関根日出男訳)には、スタニスラフ・ロレクによるオリジナル挿画もたっぷりと掲載されている。驚くのはこの挿画が物語のために描かれたのではなく、物語とは無関係に先にロレクが絵を描いて、後からチェスノフリーデクが物語を書いたということ。新聞連載として発表された。
●オペラの第1幕で、森番に捕まった女狐ビストロウシュカがおんどりにディスられる場面がある。オペラでも十分によいが、原作のこの場面はさらにパンチが効いている。森に逃げようとした女狐ビストロウシュカは捕まえられて、おとなしくなる。あわれな女狐を見て、おんどりが鶏の総会を招集して、めんどりたちに諭す。
「どうだ、見たか、人間様の公正さを。人間がいなけりゃこの世はどうなる。狐嬢は俺たちを追っかけてたが、今じゃ手も足も出ない、鎖に繋がれて。というのも卵は産まないし、巣の中にじっとしてないからだ。さあ、働け、卵を産め、俺が手伝ってやる、人間様に気に入られるようにな」
森番のかみさんは雄鶏の道理をわきまえた演説に大いに満足し、雌鶏たちに新しい餌をまきに出てきた。人間社会とはこんなものだ。ヒヨコだって無駄に地面をつついているわけじゃない。口があってしゃべる術を心得ている者は、いつもまともに食いつなげるのだ。
これ、最高じゃないだろうか? 働いていると、組織の中でこういうおんどりみたいな人を見かけないだろうか。いや、それどころか、あるとき自分自身がおんどりみたいになっている瞬間に気づいて、自己嫌悪に陥ることすらあるのでは。みんなが痛いところを突かれるから、読者は大笑いできる。
●この原作があまりにおもしろかったので、ONTOMOの連載「おとぎの国のクラシック」第11話で「利口な女狐の物語」をとりあげた。ご笑覧ください。