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2024年6月アーカイブ

June 28, 2024

東京都現代美術館 サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」/津田道子「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」

東京都現代美術館でTokyo Contemporary Art Award 2022-2024 受賞記念展、サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」/津田道子「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」(~7月7日)を見る。これは中堅アーティストを対象とした現代美術の賞「Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)」の受賞記念展で、今回の受賞者はサエボーグと津田道子の二組。なんと、入場無料だ(が、行けばついでに有料展示も見たくなるとは思うが)。
東京都現代美術館 サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」

東京都現代美術館 サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」

東京都現代美術館 サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」 ハエ

東京都現代美術館 サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」 犬

東京都現代美術館 サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」 犬

●インパクトのあるのはサエボーグの「I WAS MADE FOR LOVING YOU」。入ってみるとファンシーなようでいてはなはだ禍々しい空間が広がっていて、巨大ウンコに巨大ハエがたかっていたりするのだが、奥の空間に丸いステージのようなものが設置されている。ちょうど入ったときは休憩時間だったのでステージしかなかったのだが、しばらくしてからもう一度行くと、そこに犬がいた。犬のラテックス製ボディスーツを着用して、そこで犬らしきふるまいをする。この犬の表情がどうにも悲しげで、しかも微妙に怖い。なにをするかわからんなと思い遠巻きで見ていたのだが、外国人観光客らしき女性が犬をよしよしと撫でだした。ラテックス犬はずっと犬としてふるまっている。うーむ、撫でたいけど、勇気が出ない。ここは客層的に大丈夫だと思うけど、ヘンなお客が無茶をしないかとハラハラする自分。
●もうひとつの津田道子「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」もおもしろかった。家庭内の同じ場面を撮った映像を、役者を入れ替えて多数のバリエーションで再現した作品が秀逸。
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●EURO2024は決勝トーナメント進出の16チームが出そろった。F組の第3戦、すでに1位勝ち抜けが決まっているポルトガルは、なんと、39歳のクリスチャーノ・ロナウド以外、フィールドプレーヤー全員を変更するターンオーバー。そこで39歳のクリスチャーノだけを出し続ける意図はなんなんだろうか。試合はジョージア相手に完敗。ジョージアは3位通過を決めてお祭り騒ぎ。番狂わせといえるのはB組のクロアチアの敗退くらいか。ここからが本番だ。

June 27, 2024

EURO2024 グループリーグ第3節 オランダ対オーストリア、イングランド対スロヴェニア

●発売当日にちゃんとガルシア・マルケス「百年の孤独」文庫版が届いた。最近、amazonは迷走気味だと思ってたけど、こういうところはすごい。
●だが、マコンドの町も気になるが、今ドイツでEURO2024が佳境に入っているのだ。11人と11人の男たちが走り回ってくりひろげるマジックリアリズムはグループリーグを終えつつある。ここで昨日の2試合を軽く振り返っておこう。
オーストリア●まずD組のオランダ対オーストリア。ここは同じ組にフランスとポーランドが入っている。1位と2位をフランスとオランダで争うものと思っていた人が大半だろうが、なんと1位通過はオーストリアだった。音楽分野では最強国だが、サッカーでは弱小国……というのは昔の話。この試合、序盤からずっとオーストリアがボールを保持して、オランダが受けて立つ展開。オーストリアがゴールを決めると、オランダが追い付き、するとまたオーストリアが引き離すという展開が続いて、オランダ 2-3 オーストリア。個の力ではオランダが勝っていたと思うが、この国は組織的な守備力が足りない。もっと連動してプレスをかければ、オーストリアはビルドアップで苦労したはず。もっとも、負けたオランダも決勝トーナメントに進出はできる。両チームとも190cm前後の大型選手がごろごろいるなかで、オーストリアのロマーノ・シュミット168cmが攻撃のキーマンとして大活躍。
スロヴェニア●C組のイングランド対スロヴェニアは、同時開催のデンマーク対セルビアとともに0対0で終わった。これは退屈を絵に描いたような試合で、なにか大きなミスかラッキーがないかぎり、点が入らないという展開がずっと続いて0対0。それもそのはずで、両者とも引分けなら決勝トーナメントに進めるのだ。イングランドは1位通過だが、終わった瞬間、喜びを爆発させたのはスロヴェニアの選手たち。もう一方のデンマーク対セルビアでどちらかが勝てばスロヴェニアは3位、引分けなら2位または3位になる。2位ならもちろん通過だが、仮に3位だったとしても、その場合、スロヴェニアは3引分けで勝点3。すべて引分けなので必然的に得失点差はゼロ。各組の3位は6チーム中4チームが決勝トーナメントに進めるわけだが、すでに試合が終わっているA組の3位はハンガリーが勝点3で得失点差は-3、B組の3位はクロアチアで勝点2でどちらもスロヴェニアを下回るので、スロヴェニアは3位でOKという状況だったのだ。奇妙なことに、WOWOWの中継ではアナウンサーも解説者もそのことに言及せず、なぜスロヴェニアの選手たちが喜んでいるか、明快に説明しなかった。しかも、ここにはさらに複雑な背景も絡んでいて、同組のデンマークとスロヴェニアとが同じ勝点、同じ得失点差、同じ得点、当該チーム同士は引分けという状況なのに、なぜ2位がデンマークで、3位がスロヴェニアになったのか、という謎がある。これはフェアプレーポイントの差だったようだ。選手に出されたイエローカード数まで同じだったが、スロヴェニアのベンチに1枚カードが出たため、その差で決まったらしい(報道には別の説明もあって混乱しているが、上記解釈はロイターの報道による)。それにしてもレギュレーションがややこしい。ここまでやたらと煩雑な話が長々と続いているので、もうそろそろだれも読んでいないと思うが、これほど話が複雑になるのは、どこかに問題があるのではないかという気がするし、なにより24チームから16チームを選ぶために(=8チームを落とすために)36試合もすることの不合理を感じずにはいられない。と文句をいいながらも、楽しんでしまうわけだがっ!

June 26, 2024

「ピュウ」(キャサリン・レイシー著/井上里訳/岩波書店)

●昨年刊行されていた本なのだが今ごろ読んだ、「ピュウ」(キャサリン・レイシー著/岩波書店)。アメリカの南部の小さな町の教会で、信徒席に眠るよそ者が発見される。この人物は外見からは男子のようにも女子のようにも見える。そして、白人のようにも黒人のようにも見える。言葉はほとんどしゃべらない。名前がわからないので、住人たちは「ピュウ」(信徒席)と名付け、コミュニティに受け入れようとするのだが……。
●といった展開なのだが、特筆すべきはこの物語が「ピュウ」の一人称で語られていること。よそからやってきた謎めいた人物を本人の視点で書いているのだ。これは秀逸。ピュウはなにも語らない。すると、相手が勝手に自分の物語をしゃべりだす。みんな戸惑いながらも、勝手にピュウのなかに自分の見たいものを見ている。
●この南部の町には年に一度の独特の祭りがあって、それがコミュニティの結束を保っている。すばらしい祭りだという人が多いが、嫌悪する人もいる。わわ、それってシャーリイ・ジャクスンの名作短篇「くじ」じゃないの。もちろん、 「くじ」のようなイヤ~な後味は残さないのではあるが。
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●EURO2024は第3節の中盤。クロアチア対イタリアが劇的だった。クロアチアは決勝トーナメント進出のために勝利が必要。イタリアは引分けでもOK。後半、クロアチアはモドリッチがPKに失敗するが、その直後にモドリッチがゴールを決めて先制。イタリアは反撃に迫力を欠き、このままクロアチアの2位、イタリアの3位が決まるところだったが後半53分、長いアディショナルタイムのラストプレーでイタリアのザッカーニがデル・ピエロばりの美しいゴールを決めて笛。歓喜のイタリアは1位通過。クロアチアは3位。38歳の英雄モドリッチは代表から引退するのだろうか。

June 25, 2024

チョン・ミョンフン指揮東京フィルの「トゥランガリーラ交響曲」

●24日はサントリーホールでチョン・ミョンフン指揮東京フィル。東フィルはこの6月に第1000回の定期演奏会を迎えて、この日が第1001回。プログラムはメシアンの「トゥランガリーラ交響曲」(トゥーランガリラ交響曲)のみ、休憩なし。遅刻すると大変なので(電車はいつ止まるかわからない)、かなり早めに到着。チケットは完売だった模様。ピアノに務川慧悟、オンド・マルトノに原田節で万全の布陣。ピアノを協奏曲と同じように中央に配置、鍵盤楽器はみんな最前列に並べる方式。おかげでピアノがよく聞こえる。大音量にマスクされるような場面でも、「こんなに弾いてたんだ」的な発見あり。演奏は壮麗鮮烈。ここぞという場面での凄まじい大音響にはたじろぐほど。「トゥランガリーラ交響曲」を聴いたのは久々だけど、いろんな要素が渾然一体となって生み出す豊かさ、過剰さに圧倒される。「春の祭典」に思いを馳せる。楽器配置から協奏曲的な性格も。オンド・マルトノの音色に慈しみを感じる。
●終曲の前だったかな、マエストロが指揮台上で屈伸運動みたいな動作をしていた。
●チョン・ミョンフンには若い頃にオペラ・バスティーユ管弦楽団を指揮して、作曲者お墨付きの「トゥーランガリラ交響曲」をDGに録音している。そういう意味では切り札的なレパートリー。ウチにもCDがある。今この録音を聴き直して確かめようとは思わないけど、たぶん、この日の音楽はもっと重厚で、巨大。
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●決して文庫化されることがないと言われ続けてきた歴史的名作、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」がいよいよ明日、新潮文庫から発売されるようだ。再読するにあたりこれ以上の好機はないと思い、もう2か月も前にamazonで予約注文したのだが、心のどこかで実際には発売されないのではないかという疑いを抱いていた気がする。発売前に重版も決まったとか。

June 24, 2024

セバスティアン・ヴァイグレ指揮読響と角野隼斗&フランチェスコ・トリスターノ

●22日は東京芸術劇場でセバスティアン・ヴァイグレ指揮読響。ソリストに角野隼斗とフランチェスコ・トリスターノが登場するとあってチケットは完売。当日券の販売もなかったが、「キャンセル待ち整理券」が配布されたという人気ぶり。客席の雰囲気もいつもとほんの少し違う。
●ソリストは華やかだがプログラム全体は案外と渋い。前半にワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死、ブライス・デスナーの2台のピアノのための協奏曲(日本初演)、後半はウェーバーの「オイリアンテ」序曲とヒンデミットの「ウェーバーの主題による交響的変容」。ブライス・デスナーがキラキラしてるけど、それ以外はウェーバー、ワーグナー、ヒンデミットと連なる剛健なドイツ音楽の系譜で、ヒンデミット作品が本来バレエ音楽として構想されたことを考えれば、オペラ&バレエ音楽の系譜でもある。
●とはいえ、最大の聴きものはやはりブライス・デスナーの協奏曲。現代音楽の作曲家でもあり、ロック・バンド「ザ・ナショナル」のギタリストでもある音楽家、と聞けば角野隼斗とフランチェスコ・トリスターノほどふさわしい奏者もいない(世界初演はラベック姉妹)。3楽章の急緩急のフォーマットで書かれ、反復的なリズムとカラフルなオーケストレーションをベースとした躍動感あふれる音楽で、大きく見ればポストミニマル風なのだが、手あかにまみれた感はなく、フレッシュで輝かしい。端的にいえばカッコいい。ふたりのソロがキレッキレとあれば、なおさら。曲が終わって、ドッと会場がわくかと思いきや、微妙に一瞬間があったのが少しおもしろかった(最初のワーグナーが終わった後にたっぷり沈黙があったことが微妙に影響してた説)。アンコールにリチャード・ロドニー・ベネットの4つの小品組曲から第4曲フィナーレというジャズ風の曲。
●「トリスタンとイゾルデ」の前奏曲と愛の死は、さすがのヴァイグレで、官能性は控えめで、悠然とした大きな流れを作り出す。ヒンデミット作品はダサカッコよさの極致。たしかに曲名通りウェーバーの主題を題材にしてはいるのだが、もとの主題がどれひとつ有名ではないという……。第1楽章と第4楽章はクセになりそう。聴いていて、あれ、この曲ってバルトークの「管弦楽のための協奏曲」とどっちが先なんだろう、と思った。どちらかが影響を受けているのでは。が、違ったんである。両曲とも1943年の作曲なので、影響を受けようがない。
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●EURO2024は第3節に入った。開催国ドイツ対スイス、両者引分けでも決勝トーナメントに進出できるので、すでに2勝のドイツは選手を入れ替えると思いきや、ターンオーバーなし。若き知将ナーゲルスマンなりの分析があったのだとは思うが意外。あわやという展開ながら、無事に1位通過を決めた。

June 21, 2024

阪哲朗指揮山形交響楽団、辻彩奈、上野通明 さくらんぼコンサート2024東京公演

阪哲朗指揮山形交響楽団、辻彩奈、上野通明
●20日は東京オペラシティで阪哲朗指揮山形交響楽団。プログラムはモーツァルト「魔笛」序曲、「戴冠式ミサ」、ニキシュの「ネッスラーのオペラ『ゼッキンゲンのトランペット吹き』のモチーフによるファンタジー」、ブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲(辻彩奈、上野通明)。なんと、「戴冠式ミサ」のために山響アマデウスコアが帯同。しかもソプラノ老田裕子、アルト在原泉、テノール鏡貴之、バリトン井上雅人の独唱陣に、ブラームスで辻彩奈と上野通明も出演するというソリスト計6名の豪華仕様。すごすぎる。おまけに恒例の山形のさくらんぼプレゼント(10人にひとり当選する)もあって、大盤振る舞い。会場内では好評の山形物産展も開催される。開演前のトークではマエストロも法被を着て登場。祭だ。
●前半、モーツァルトでは金管楽器とティンパニにピリオド楽器を使用。全体の造形はHIPというよりは20世紀モダン寄りだが、これはこれで音色面で効果的。合唱団は規模が大きめで、厚みがあり力強い。ニキシュ作品は山響が日本初演した曲なのだとか。こういった作品を持っているのは強み。ネッスラーのオペラのメロディをつなげたファンタジーということなので、ネッスラーの曲を大指揮者ニキシュが時を超えて阪哲朗に託したといった趣。白眉はブラームスの二重協奏曲。ふたりのソリストを指揮者の下手側に並べる配置で、これだと第1ヴァイオリンがずいぶん指揮者から遠くなってしまってどうなのかと思いきや、辻彩奈と上野通明の丁々発止のやりとりで一気に音楽が熱くなった。ともに強いパーソナリティをもったふたりだが、最初の上野のソロから音楽の内側にぐっと踏み込むような気迫のこもった表現で空気が一変、オーケストラもこれに応えてくれた。やはりこうでなくては。アンコールにヴァイオリンとチェロの二重奏で「魔笛」の「鳥刺し」。編曲者はどなたなんでしょう。「魔笛」ではじまり「魔笛」で終わった。
●山形物産展は大盛況。さくらんぼだけじゃなく、和菓子など、おいしそうなものがたくさん並んでいて、飛ぶように売れる。帰りにおみやげとして、でん六「味のこだわり」とシベールのラスクの小袋が全員にプレゼント。うまし。
でん六「味のこだわり」 シベールのラスク

June 20, 2024

鈴木優人指揮NHK交響楽団の新旧ウィーン音楽プログラム

鈴木優人 NHK交響楽団
●19日はサントリーホールで鈴木優人指揮N響。プログラムはウェーベルンのパッサカリア、シェーンベルクのヴァイオリン協奏曲(イザベル・ファウスト)、バッハ~ウェーベルンの「リチェルカータ」、シューベルトの交響曲第5番。新ウィーン楽派にシューベルトが組み合された。新旧のウィーン音楽、そしてモダンとロマンを対比させたコントラストの効いたプログラム。前半のほうが作品規模が大きく、後半になると小さくなる。ゲストコンサートマスターにマインツ州立管弦楽団で第1コンサートマスターを務める西村尚也。
●やはりプログラムの中核をなすのはシェーンベルクだろう。イザベル・ファウストの渾身のソロ。と言いつつも、この曲は正直なところ晦渋な曲ではある。たぶん、それは曲が無調だからとか十二音技法だからというだけの理由ではなく、作品固有の性格としてツンとしているというか、眉間にしわを寄せたようなところがあるのかなという気もする。第1楽章にはユーモアも感じるし、第3楽章には舞踊性や喜悦もあるのだが。場内は大喝采で、ソリスト・アンコールとしてニコラ・マッテイス(父)作曲のヴァイオリンのためのエア集第2巻から「パッサッジョ・ロット」。
●後半、バッハ~ウェーベルン「リチェルカータ」を聴くと、条件反射的にラジオの「現代の音楽」オープニングを思い出すが(古すぎ)、今や古典か。シューベルトがやや速めのテンポで始まると、ガラリと雰囲気もオーケストラの音色も変わった。開放的で大らかな音楽の喜び。でも終わってみると、胸のなかにじっと留まっているのはシェーンベルク。

June 19, 2024

練馬区立美術館 「三島喜美代―未来への記憶」展

練馬区立美術館 「三島喜美代―未来への記憶」
●練馬区立美術館の「三島喜美代―未来への記憶」展へ(7月7日まで)。初期油彩画から立体作品、大型インスタレーションなど約90点からなる展示。陶に印刷物を転写した「割れる印刷物」と呼ばれる一連の作品が目を奪う。ぱっと見、紙だったり金属だったりに見えるけど、実体は陶。レモンの段ボール箱、巨大な少年ジャンプや少年マガジンなど。
練馬区立美術館 「三島喜美代―未来への記憶」

練馬区立美術館 「三島喜美代―未来への記憶」

練馬区立美術館 「三島喜美代―未来への記憶」
●空き缶がぎっしり入った屑籠、昔はあちこちで見かけたけど今では考えられない。これが陶器なのかという驚きとともに、奇妙なノスタルジーを喚起する。

練馬区立美術館 「三島喜美代―未来への記憶」「20世紀の記憶」

●ハイライトは「20世紀の記憶」と題された大規模インスタレーション。部屋一面にレンガが敷き詰められていて、一見、瓦礫のよう。遠目にも迫力があるのだが、レンガに近づいてみるとひとつひとつに新聞記事が転写されている。これが20世紀の100年間から選ばれた記事で、どれを見ても大きな事件や歴史の転換点となるような出来事が記されている。記憶とはこういったランダムに並んだ断片の集積物のようなものなのか。床に敷き詰められたレンガ(中古の耐火レンガ)は1万個にも及ぶとか。

練馬区立美術館 「三島喜美代―未来への記憶」「20世紀の記憶」 アップ

June 18, 2024

EURO2024が始まった

●さて、ドイツではサッカーのEURO2024(ヨーロッパ選手権)が開幕した。4年に1度の大イベントだが、EURO2020はコロナ禍のため2021年に延期されたので、前回から3年しか経っていない。直前まで日本国内での放映が決まらず、今回は中継がないのかと思っていたら、急遽WOWOW、次いでABEMAが中継すると発表。ABEMAは全試合無料だ。つまり、放送ではWOWOWのみ、ネットでは有料のWOWOWと無料のABEMAが別個に配信している。ABEMAはオンデマンド配信もあり。だったら、WOWOWは要らないのでは? と思いたくなるが、とりあえずABEMAのオンデマンド配信を観てみたところ、画質はもうひとつ(たぶん、ライブ配信だともっといい)。WOWOWはどうなんでしょう。
●この大会、24チームがグループリーグを戦って、16チームが決勝トーナメントに進む。フランス大会より前のワールドカップと同じ方式。4チーム×6グループで戦うので、グループ3位でもだいたいは決勝トーナメントに進めてしまう。要は24チームから8チームを落とすために計36試合ものグループリーグを戦っているわけで、それってどうなのよ、とは思う。決勝トーナメントから観ればいいかも? いやいや、そんなこと言ってると、肝心なドラマを見逃すかもしれない。うーん、どっちだ。前回はあまり気乗りしないまま途中から見始めたら、めちゃくちゃおもしろかった。EUROって、圧倒的な祝祭感がある。日本は無関係なのに、つい引き寄せられてしまう。昨晩のオーストリア対フランスをハイライトで観て感じたけど、勝負の場である以上にお祭り。これがアジアカップだと、もっぱら殺伐としたアウェイ感ばかりを味わうことになりがち。
●で、WOWOWとABEMAが全試合を配信してくれるのはありがたいんだけど、日本語実況が付く試合は限られていて、WOWOWが計32試合、ABEMAが計15試合のみ。日本語のほうが確実に楽しめるので、WOWOWはやっぱり必要なのか。両者の放映予定と実況&解説者についてはQolyのこのページがよくまとまっている。

June 17, 2024

沖澤のどか指揮NHK交響楽団のフランス音楽プログラム

沖澤のどか指揮NHK交響楽団
●14日はNHKホールで沖澤のどか指揮N響。プログラムはイベールの「寄港地」、ラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲(デニス・コジュヒン)、ドビュッシーの「夜想曲」(東京混声合唱団)というフランス音楽プログラム。休憩なし。イベールの「寄港地」、つい最近聴いたノット&東響ではプログラムの最後に置かれていたけど、この日は最初の曲。冒頭からスモーキーなとても柔らかい音色。第2曲のエキゾチックなオーボエ・ソロも見事。ラストは鮮烈。それだけの音楽ではないにせよ、観光音楽としての楽しさがある。ラヴェルの「左手」は堂々たるたくましいソロ。ソリスト・アンコールにチャイコフスキーの「子供のアルバム」から「教会で」。ドビュッシー「夜想曲」が白眉。第2曲「祭」はスペクタクル。よく鳴るけど、響きのバランスが保たれて壮麗。第3曲「シレーヌ」は舞台下手側に陣取った女声合唱とともにしなやかで滑らか。求めるサウンドをN響からしっかりと引き出したという感。それにしても女声合唱の出番がこれだけとは、ぜいたく。
●この日は19時30分開演のC定期で、休憩なしのやや短めプログラムだったのだが、開演前の室内楽が18時45分からステージ上で演奏された。この日はなんと、ジョリヴェの「クリスマスのパストラール」。フルートの甲斐雅之、ファゴットの水谷上総、ハープの早川りさこが登場。こういった珍しい編成の曲を演奏できるのが、オーケストラによる室内楽の強み。田園的な爽快な曲調で始まるけど、第2曲は呪術的な妖しさがあってジョリヴェの本領発揮……と思ったら、どうやらこれは東方の三博士。満喫。しかし、この変則フォーマットは今回でおしまい。次シーズンからはC定期も普通の休憩ありプログラムになり、開演前の室内楽はなくなる。これまでにもいろんなオーケストラや音楽祭が試みているけど、19時よりも遅い開演というのはなかなか定着しづらいようだ。
●で、この「クリスマスのパストラール」は本来ならファゴットとハープのおふたりがN響の定年を迎える12月に演奏するつもりだったのだとか。が、もう来季は開演前の室内楽がないので、代わりに6月に繰り上げたとトークで話してくれた。どうして今、クリスマスなのか、その謎が解けた。
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●ドイツでEURO2024がすでに開幕。その話題はまた改めて。

June 14, 2024

バッハ・コレギウム・ジャパン コラールカンタータ300年プロジェクトII

●13日は調布市文化会館たづくり「くすのきホール」でバッハ・コレギウム・ジャパン。全10回にわたるコラールカンタータ300年プロジェクトの第2回。指揮は鈴木雅明、ソプラノに松井亜希、アルトに久保法之、テノールに櫻田亮、バスに加耒徹。プログラムはバッハのカンタータ第93番「愛するみ神にすべてを委ね」、カンタータ第94番「私はこの世になにを求めよう」、カンタータ第101番「私たちから取り去ってください、主よ、まことの神よ」、カンタータ第10番「わが魂は主を崇め」。当初発表されていた曲順は10番、93番、94番、101番だったのだが、上記のように変更。この4曲だとおしまいはいちばんドラマティックな101番が来そうなものだけど、10番で終わる形に変更したのはどうしてなんでしょ。
●どの曲も聴きごたえ大だけど、とくに印象に残るのは第101番。この曲って冒頭の合唱からただ事ではない雰囲気で、心がざわざわする。ダークサイドに一歩踏み込んでいるというか。第6曲のソプラノとアルトの二重唱がすごい。二重唱なのに歌手が定位置のまま始まって、しばらくフラウト・トラヴェルソとオーボエ・ダ・カッチャ(「ターユ」って言うの?)のためのコンチェルトみたいになる。これが絶妙の音色の組合せでゾクゾクする。で、曲の途中で歌手ふたりが歩いてきて前に立って二重唱を歌う。これが絶美。最後にまたトラヴェルソとオーボエが帰ってくる。器楽と声楽、一粒で二度おいしい。
●カンタータ第10番は第4曲のバスのアリアがおもしろい。「高き者は低くされ、低き者は挙げられる」って言うんだけど、なんだかユーモラスでかわいい。第5曲のアルトとテノールの二重唱とコラールでは、コルネット(ツィンク)の音色がインパクト抜群。警鐘を鳴らしているみたいだなと思った。
●会場がいつものオペラシティとちがって調布のくすのきホール。コンパクトな空間でかなりぜいたく。

June 13, 2024

「近衛秀麿の手形帖 マエストロの秘蔵コレクション」(近衛音楽研究所監修/アルテスパブリッシング)

●なんだかスゴい本が出た。「近衛秀麿の手形帖 マエストロの秘蔵コレクション」(近衛音楽研究所監修/アルテスパブリッシング)。いったいこれはどういう人が買うのだろうか。日本楽壇の父、近衞秀麿が戦前から最晩年にわたるまでに集めた大音楽家たちの手形コレクションが原寸大・オールカラーで収められている。交流のあった音楽家たちに手形帖を渡して、そこに手形とメッセージを残してもらったというのだが、そのラインナップが半端ではない。フルトヴェングラー、ストコフスキー、クレンペラー、コルトー、シャリアピン、エーリッヒ・クライバー、ストラヴィンスキーなどなど。
●手形っていうのは手の輪郭をペンでなぞったものなんだけど、みんな手がでかい。フルトヴェングラーもストコフスキーも大きい。クレンペラーとかピアティゴルスキーなんて、びっくりするほどでかい。シゲティも。いや、これはワタシの手が手が小さいから、そう思うのか。小さいのはオーマンディ。ワタシと変わらない。珍しいところでは、映画にもなった女性指揮者の草分け、アントニア・ブリコが入っている(映画「レディ・マエストロ」)。会ってたんだ、近衞秀麿。
●ストラヴィンスキーはどうかなと思ったら、左手の人差し指しか書いてくれてない。性格悪いぜ。

June 12, 2024

ニッポンvsシリア@ワールドカップ2026 アジア2次予選

ニッポン!●ワールドカップ2026のアジア2次予選最終戦はホームでのシリア戦。すでに最終予選進出を決めているニッポンにとってはさまざまなテストをするチャンス。予想通り、前節ミャンマー戦から先発を9人入れ替え、スタートの布陣は3バック。3-4-2-1というか3-2-4-1というか、ウィングバックが高いポジションをとる攻撃的な3バック。この2連戦で森保監督が掲げたテーマ。
●どちらかといえば、この日のチームがAチーム、ミャンマー戦がBチーム。エディオンピースウイング広島での開催で、森保監督にとっては広島への凱旋。キーパーは地元広島の大迫。3バックに冨安、板倉、町田が並び、ボランチに遠藤航と田中碧、ウィングバックは左に中村敬斗、右に堂安。両サイドとともフォワード調の選手を入れて、サイドバック型の選手がいない。これに2シャドーの形で南野と久保、ワントップに上田綺世。かなり攻撃的。攻めれば強いが、守勢に回れば脆そう。が、序盤から一方的にニッポンが攻め続けて、スペクタクルの連続。前半13分、中村のドリブルで左サイドを崩して、クロスに上田が頭で合わせて先制。さらに19分、堂安の個人技で2点目。22分に久保のスルーパスが相手の足に当たってオウンゴール。あっさりと3点のリードを奪って、試合は決まった感。前線の選手たちのパス回しがスムーズ、ドリブル突破も効果的。
●シリアの監督はアルゼンチン出身の往年の名匠クーペル。かつてインテルミラノやバレンシア、マジョルカ(大久保嘉人が在籍していた頃)で指揮を執っていたが、その後は各地を転々としていたようで、以前、ウズベキスタン代表監督としてニッポンと対戦したこともあった。今回のシリア代表の先発メンバー11人中、なんと6人がアルゼンチン出身の選手なのだとか。風貌も名前も中東らしくない選手が多数。多様なルーツを持った選手が集まるのは今やどこの国の代表でも普通のことだが、これは多様性というよりは、むしろアルゼンチン色という均一性に傾いている。
●後半、森保監督は3バックから慣れた4バックに変更。前の試合に続いての先発になった中村敬斗を下げて、伊藤洋輝を投入して、バックラインが冨安、板倉、町田、伊藤に。遠藤がアンカーに入って4-1-4-1。前半に比べるとボールが回らなくなったが、どうなのかな、こちらのほうが守備はできると思う。前半の3バックは強い相手に機能するのかどうか。その後、鎌田、相馬、川村拓夢、キーパーの谷晃生を投入。最近、森保監督にサイドバック扱いされている相馬だが、この日は左サイドのアタッカーとして躍動、運動量も豊富で攻守にわたって活躍。自らが得たPKを自分で決めて4点目。これはぜったいに自分で蹴るという決意を感じた。終盤に南野も決めて、ニッポン 5-0 シリア
●これでシリアは3位に沈み、代わってミャンマーに勝った北朝鮮が2位で最終予選進出。1試合、試合放棄しているのに2位とは。別のグループに目を向けると、中国とタイが勝点でも得失点差でも並んでいたが、当該チームの成績で中国が2位で最終予選進出。そもそも最終予選に進出する国が18か国もあるので、ここからが本番という気も。この予選形式、もう少し簡潔にならないものかとは思う。

June 11, 2024

原田慶太楼指揮NHK交響楽団、反田恭平のオール・スクリャービン・プロ

原田慶太楼指揮NHK交響楽団
●8日はNHKホールで原田慶太楼指揮N響。ソリストは反田恭平。オール・スクリャービン・プロ、しかも有名曲は一曲も含まれていないのに、あの巨大なNHKホールが完売(しかも2公演ある)。客席の雰囲気もいつもと少し違う。N響定期ではいつも男性トイレに長い列ができるのだが、珍しく女性側に長蛇の列。今、女性たちの間で熱いスクリャービン・ブームが!(違う)
●曲は「夢想」、ピアノ協奏曲嬰ヘ短調、交響曲第2番ハ短調。どれも若き日の作品で、神秘主義者スクリャービンとしての面妖さには至らず、ロマンティック。最初の「夢想」は5分足らずの簡潔な初期作。ピアノ協奏曲はまだショパンへの憧れが前面に出ているのだが、終楽章の爆発ぶりは圧倒的。反田恭平のピアノは輝かしく、パワフル。巨大空間に埋もれない。強烈なフィナーレの後、ソリスト・アンコールは一転して優しくグリーグの「トロルハウゲンの婚礼の日」。ほのぼの。休憩中に「スクリャービンに感激して涙が出た」と語っているお客さんの声が耳に入ってきた。反田さんはN響とは以前にターネイジのピアノ協奏曲も弾いてくれたし、昨年は兵庫のPACオケとブリテンのピアノ協奏曲を弾いてるし、スターになってもなかなか聴けない曲に取り組んでくれるのがありがたい。そういえば初めて反田さんの演奏を聴いたのは、まだ学生の頃のスクリャービンだった……。
●で、メインがなんとスクリャービンの交響曲第2番なのだが、この曲、めったに聴けなさそうでいて案外聴ける曲でもある。そういう意味では隠れた人気曲なのかも。N響だとパーヴォ・ヤルヴィ指揮でも聴いた記憶。そのときは切れ味の鋭さが印象に残ったけど、今回はねっとりとした情念の表出が聴きもの。前にも書いたかもだけど、この曲、途中で小鳥のさえずりがあって、その後で嵐があって、嵐の後に歓喜が訪れるのがベートーヴェン「田園」風。1901年の作曲だから、マーラーでいえば交響曲第5番の頃。

June 10, 2024

ヴォーチェ弦楽四重奏団 サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2024●7日はサントリーホールのブルーローズで、チェンバーミュージック・ガーデン。「カルテット with...」というシリーズ企画の一夜で、ヴォーチェ弦楽四重奏団とメゾ・ソプラノの波多野睦美が出演。弦楽四重奏+αの多彩なプログラムが魅力。前半がドビュッシーの弦楽四重奏曲、イヴ・バルメールの「風に舞う断片」日本初演、後半がドビュッシー(バルメール編曲)の「抒情的散文」より(ソプラノと弦楽四重奏用編曲)日本初演、ラヴェルの弦楽四重奏曲。ドビュッシーとラヴェルの名曲の間にフレッシュな作品がはさまれるという構成。
●ヴォーチェ弦楽四重奏団のメンバーはコンスタンス・ロンザッティ、セシル・ルーバン、ギヨーム・ベケール、アルチュール・ユエル。当初発表からチェロ奏者が変わり、さらにヴァイオリンのサラ・ダイヤンが体調不良のため元ディオティマ弦楽四重奏団のコンスタンス・ロンザッティが代役を務めた。全員譜面台にタブレットを置いて演奏。
●現代のフランスの作曲家、バルメールの「風に舞う断片」はまさに題名通りの風に舞うような曲で、とくにドビュッシー風ではないのだが、その遠い延長上にあっておかしくない曲。モダンではあるけど、聴きやすい。これが白眉だったかも。作曲者臨席。「抒情的散文」も洗練された味わい。ドビュッシーとラヴェルは鋭利でクリア、いくぶんビターテイスト。両曲ともすごい傑作だと改めて感じるけど、ふたりとも弦楽四重奏曲は一曲しか残していない。ベートーヴェンみたいに16曲とは言わないが、3曲ずつくらい書いてくれてもよかったのに。アンコールにふたたび「抒情的散文」より第4曲「夕べ」。

June 7, 2024

ミャンマーvsニッポン@ワールドカップ2026 アジア2次予選

ミャンマー●北朝鮮の不戦敗もあり、早々にワールドカップ最終予選進出を決めたニッポン。今回はアウェイのミャンマー戦。ミャンマーはこのグループでは最下位に沈んでいるが、アウェイでの対戦は未知数。森保監督はこの試合で戦術的なオプションとして攻撃的な3バックに挑戦。新しい選手、久々の選手も使った。今までの連戦パターンを考えると、たぶん11日のホームでのシリア戦がAチーム、こちらがBチーム相当なのかも。消化試合だけど日テレが中継してくれた。ありがたし。
●布陣は3-4-2-1というか、3-4-3というか。メンバーはGK:前川黛也、DF:橋岡大樹、谷口彰悟、伊藤洋輝-守田英正、旗手怜央(→川村拓夢)-鎌田大地(→前田大然)、堂安律(→鈴木唯人)-菅原由勢(→相馬勇紀)、中村敬斗-FW:小川航基。3バックにして、左右のウィングバックが左に中村、右に菅原という形で、かなり左のポジションがワイドで高め。というか、菅原が下がったらいつもの4バックとまったく変わらない。実際、前半はかなり攻撃が左サイドに偏る形に。
●ミャンマーは5バックで守りを厚くし、カウンターを狙う形だが、ほとんどカウンターも発動せず。ニッポンが攻め続けて、前半に中村、堂安、後半に小川、小川、中村とゴールを奪った。ミャンマー 0対5 ニッポン。こうして見ると小川が大活躍だが、前半はほとんどゲームに加われず、後半に相馬の完璧なクロスボールに頭で合わせてから、ようやく機能し始めた感。正直、フィットしてない。圧巻は中村敬斗で、左サイドが無双状態。恐るべきシュート精度。
●鎌田大地は所属チームのラツィオ(もう去ることになったが)で覚醒し、好調の様子。守田は相変わらず頼りになる。キーパー前川はようやく代表初先発。途中から入った選手では前田大然のスピードとバイタリティが驚異的。相馬勇紀は久々だが、ポルトガルの所属チームでは活躍しているらしい。今回は右のウィングバックで、以前にサイドバックでも使われたように、森保監督はユーティリティプレーヤーとみなして起用している。
●この日のミャンマーは蒸し暑かったみたい。前半35分くらいで、すでに体力を温存するようなボール回しが目立ってきて、ニッポンよりも先にミャンマーのほうが足が重くなっていた。後半のミャンマーはもういっぱいいっぱいだったのでは。プレスをかけられないので、ニッポンはずっと余裕を持ってボールを持っていられた。引いた相手を崩すというよりは、高温多湿のゲームのテストになっていたかも。

June 6, 2024

小菅優プロデュース「月に憑かれたピエロ」 サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2024●5日はサントリーホールのブルーローズで、小菅優プロデュース「月に憑かれたピエロ」。6月1日に開幕したサントリーホール チェンバーミュージック・ガーデンの一公演で、強力メンバーがそろった。メゾ・ソプラノにミヒャエラ・ゼリンガー、ピアノに小菅優、ヴァイオリン&ヴィオラに金川真弓、チェロにクラウディオ・ボルケス、フルート&ピッコロにジョスラン・オブラン、クラリネット&バス・クラリネットに吉田誠。
●目当てはもちろん後半のシェーンベルク「月に憑かれたピエロ」だが、前半もかなり楽しんだ。会場が真っ暗な状態で静かに出演者たちが登場し、どうしたのかなと思ったら、クラリネットが客席の間を歩きながら、ストラヴィンスキーのクラリネット独奏のための3つの小品より第1番を演奏。舞台に上がると、そのまま続けて、ストラヴィンスキーの「シェイクスピアの3つの歌」へ。独唱、フルート、クラリネット、ヴィオラのための作品。「ピエロ」と結びつきを感じる。続くラヴェルの「マダガスカル島民の歌」は、やはり編成が特殊で、独唱、フルート、チェロ、ピアノ。たぶん、録音でしか聴いたことがなかった曲かも。第2曲「アウア!」で島民が白人に向ける向ける怒りと不信が強烈。こんな曲だったのか。前半のおしまいは、ベルクの室内協奏曲第2楽章アダージョのヴァイオリン、クラリネット、ピアノのための編曲版。作曲者自身の編曲で、これもたぶん初めて。「ピエロ」とのつながり以上に、官能性の豊かさを堪能。
●後半、「月に憑かれたピエロ」はゼリンガー(ゼーリンガー)が衣装とメイクをピエロに寄せて登場。表情や身振りも含めて、まさに歌いながら演じるというピエロ感。すっかり手の内に入った作品を楽しんで歌っている様子。アンサンブルは緻密。洗練されており、「ピエロ」の妖しい世界を描きつつも、ほとんどさわやかといっていいほど。小ホールなので字幕はないのだが、各曲の対訳が配られていて、これが大いに役立った。めくりやすく読みやすく組まれていて、照明も暗すぎず、配慮を感じる。ありがたい。
●詩のなかで、ピエロのカサンドロいじめがひどい。ヴィオラを弾いていた弓で、カサンドロの禿げ頭を夢見心地で弾く(第3部 セレナード)。情景を頭に思い浮かべると、かなりおかしい。
月に憑かれたピエロ
●おまけ。AI画伯DreamStudioさん作、Pierrot in the Moonlight。

June 5, 2024

東京国立近代美術館 TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション

●東京国立近代美術館の「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」へ(~8/25)。パリ市立近代美術館、東京国立近代美術館、大阪中之島美術館という三都市の美術館のモダンアート・コレクションから、共通性のあるテーマを持った作品でトリオを組んで構成するという企画展。3分の1は自前のコレクションでできるわけで、パリが入ってるけど大阪も入っていてけっこうドメスティックなわけだが、過剰に混雑しないのはありがたし。来場者の半分以上は非アジア系。ワタシは東京でこの美術館がいちばん好きなんだけど、観光客が楽しめるタイプのミュージアムではないような気も。

松本竣介「並木道」

ユトリロ「モンマルトルの通り」

佐伯祐三「レストラン(オテル・デュ・マルシェ)」
●上の3枚は「都市の遊歩道」というテーマに添ったもの。上から、松本竣介「並木道」、ユトリロ「モンマルトルの通り」、佐伯祐三「レストラン(オテル・デュ・マルシェ)」が並ぶ。それぞれ東京、パリ、大阪のコレクション。

菅野聖子の「フーリエ変換(プロコフィエフ 束の間の幻影)」
●これは大阪中之島美術館のコレクションで菅野聖子の「フーリエ変換(プロコフィエフ 束の間の幻影)」。フーリエ変換やプロコフィエフの「束の間の幻影」がどう作品と関連しているのかはよくわからないのだが、レトロモダンなカッコよさ。プロコフィエフよりも、むしろ連想するのはBISレーベルのシュニトケのジャケ。

June 4, 2024

「スカウト目線の現代サッカー事情 イングランドで見た『ダイヤの原石』の探し方」(田丸雄己著/光文社新書)

●知らないことばかりでびっくりしたのが、「スカウト目線の現代サッカー事情 イングランドで見た『ダイヤの原石』の探し方」(田丸雄己著/光文社新書)。著者はイングランドとスコットランドでスカウトの仕事を経験している。スカウトというと、引退した選手が務める仕事という印象を持っていたが、そのバックボーンはさまざまで、著者にプロ選手経験はない。そして、スカウトという仕事の規模は想像をはるかに超えて大きい。プレミアリーグのクラブならどこでもアカデミーに50人近く、トップチームに20人くらいはスカウトがいるし、ビッグクラブならそれ以上だとか。プレミアだけでなく、2部や3部のクラブも大勢のスカウトを雇っていて、著者が一時期所属していた8部のクラブでさえ、ファーストチームに7人のスカウトがいたという(!)。ちなみにイングランドは4部までがプロ、5部以下はセミプロ・アマチュアという区分。育成年代から大人の試合まで、ありとあらゆる試合にスカウトがやってきて、レポートを書いているという感じ。
●すごいと思ったのはスカウトの仕事を巡る競争率。「プレミアリーグであれば、ボランティアスカウトと呼ばれる無給のスカウトでも一つのポジションに500人くらいの応募がある。パートタイムやフルタイムとなればそれ以上だ」。チームに所属していないフリーランスのスカウトもいる。大学にスカウト学部があったりするが、そこから仕事を得るのは容易ではなさそう。「イングランドではスカウトを目指す99%の人が、スカウトを始めて最初の数年(長いと10年以上)はお金をもらえるポジションにつくことができない」。なりたい人が多すぎると、無給のポジションができてしまうのはどこの世界も同じかもしれない。
●あと、インパクトのあった言葉は「Jリーグはすでにレッドオーシャン」。ええっ。
●ひとつおもしろいなと思ったのは、左サイドバック問題について。

筆者がイングランドに来た2019年からずっとタレントが枯渇しているポジションがある。左サイドバックだ。この4年間、ロンドン中のスタジアムやグラウンドで他のクラブのスカウトと話をしてきたが、左サイドバックはいつでもどのクラブでも追っていた印象だ。 "We are looking for a left-back...." がもはやスカウトの会話の枕詞かのような時期もあった。

な、なんと。このブログで何度か話題にしているように、ニッポン代表はオフト時代からずーーっと左サイドバックの選手層が薄くて苦労しているのだが、イングランドでもまったく同じ問題があったとは。右サイドバックは次々とタレントが出てくるけど、左サイドバックはいつも足りない。利き足が左の選手が少ないからということではあるのだが、攻撃の選手となると、左ウィングが足りないという話は聞かない。中盤の司令塔にもレフティはけっこういるイメージ。足りないのはいつも(レフティの)左サイドバックなのだ。

June 3, 2024

ステファニー・チルドレス指揮読響のドヴォルザーク他

●31日はサントリーホールでステファニー・チルドレス指揮読響。プログラムはシベリウスの交響詩「フィンランディア」、エルガーのチェロ協奏曲(鳥羽咲音)、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」。ゲストコンサートマスターに﨑谷直人。これが日本デビューとなるチルドレスはイギリス出身で、なんと25歳。しかし今や指揮台に若い女性が立っても、これといった違和感がない。世の中、変わる。さらに言えばエルガーでソリストを務めた鳥羽咲音は19歳の新星だ。
●チルドレスは長身痩躯で、遠目には若い男性にも見える。指揮ぶりは明快。とても華のある人だが、音楽作りは正攻法。読響から明るめで見通しのよいサウンドを引き出す。剛ではなく、すっきり。ドヴォルザークでは土の香りは薄く、スマートで推進力がある。陰影に富んだ第2楽章が出色。鳥羽咲音は以前にドヴォルザークのチェロ協奏曲でアグレッシブでスケールの大きな演奏を聴いたが、今回はノーブル。深い愁いを帯びた晩秋の音楽が春色に染まった感。ソリスト・アンコールがびっくりで、オーケストラのチェロ・セクションが加わって、ドヴォルザークの「わたしにかまわないで」チェロ・アンサンブル版。原曲は歌曲だけど、ドヴォルザークがチェロ協奏曲で引用したことで知られている。
●このアンコールがあって、後半が「新世界より」なんだから、いかにも協奏曲がドヴォルザークになりそうなものだが、エルガーだったのだ。別の公演でドヴォルザークを聴いているだけに、遠からず記憶が混濁してこの日がドヴォルザークだったと勘違いしそうな気がする……と、ここに書いておけば、きっと覚えていられるにちがいない。

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