●知らないことばかりでびっくりしたのが、「スカウト目線の現代サッカー事情 イングランドで見た『ダイヤの原石』の探し方」(田丸雄己著/光文社新書)。著者はイングランドとスコットランドでスカウトの仕事を経験している。スカウトというと、引退した選手が務める仕事という印象を持っていたが、そのバックボーンはさまざまで、著者にプロ選手経験はない。そして、スカウトという仕事の規模は想像をはるかに超えて大きい。プレミアリーグのクラブならどこでもアカデミーに50人近く、トップチームに20人くらいはスカウトがいるし、ビッグクラブならそれ以上だとか。プレミアだけでなく、2部や3部のクラブも大勢のスカウトを雇っていて、著者が一時期所属していた8部のクラブでさえ、ファーストチームに7人のスカウトがいたという(!)。ちなみにイングランドは4部までがプロ、5部以下はセミプロ・アマチュアという区分。育成年代から大人の試合まで、ありとあらゆる試合にスカウトがやってきて、レポートを書いているという感じ。
●すごいと思ったのはスカウトの仕事を巡る競争率。「プレミアリーグであれば、ボランティアスカウトと呼ばれる無給のスカウトでも一つのポジションに500人くらいの応募がある。パートタイムやフルタイムとなればそれ以上だ」。チームに所属していないフリーランスのスカウトもいる。大学にスカウト学部があったりするが、そこから仕事を得るのは容易ではなさそう。「イングランドではスカウトを目指す99%の人が、スカウトを始めて最初の数年(長いと10年以上)はお金をもらえるポジションにつくことができない」。なりたい人が多すぎると、無給のポジションができてしまうのはどこの世界も同じかもしれない。
●あと、インパクトのあった言葉は「Jリーグはすでにレッドオーシャン」。ええっ。
●ひとつおもしろいなと思ったのは、左サイドバック問題について。
筆者がイングランドに来た2019年からずっとタレントが枯渇しているポジションがある。左サイドバックだ。この4年間、ロンドン中のスタジアムやグラウンドで他のクラブのスカウトと話をしてきたが、左サイドバックはいつでもどのクラブでも追っていた印象だ。 "We are looking for a left-back...." がもはやスカウトの会話の枕詞かのような時期もあった。
な、なんと。このブログで何度か話題にしているように、ニッポン代表はオフト時代からずーーっと左サイドバックの選手層が薄くて苦労しているのだが、イングランドでもまったく同じ問題があったとは。右サイドバックは次々とタレントが出てくるけど、左サイドバックはいつも足りない。利き足が左の選手が少ないからということではあるのだが、攻撃の選手となると、左ウィングが足りないという話は聞かない。中盤の司令塔にもレフティはけっこういるイメージ。足りないのはいつも(レフティの)左サイドバックなのだ。