●12日は東京オペラシティでアレクサンダー・ガジェヴのピアノリサイタル。客席は盛況、若い女性が多め。開演時にガジェヴのメッセージが流れ、2年前の同じ会場でのリサイタルと同様、照明を落として真っ暗にして2分間の沈黙を経てから演奏が始まった。「世界観」をまず聴衆と共有しようというのがガジェヴの流儀。
●プログラムもおもしろい。コリリアーノの「オスティナートによる幻想曲」、ベートーヴェン(リスト編)交響曲第7番より第2楽章アレグレット、リストの「詩的で宗教的な調べ」より「葬送曲」、スクリャービンの練習曲より7曲、休憩をはさんでスクリャービンのピアノ・ソナタ第9番「黒ミサ」、ショパンの24の前奏曲より6曲、ベートーヴェン「エロイカの主題による変奏曲とフーガ」。全体でひとつの作品になっているかのようなプログラムで、冒頭のコリリアーノ作品はベートーヴェンの交響曲第7番第2楽章が題材になっている。反復的な曲想からベートーヴェンがうっすらと浮かび上がり、最後には堂々と引用される。これにリスト編曲のベートーヴェンが続いて、影と実体のような関係を描き、さらにリストの「葬送曲」で哀悼のムードを明確に打ち出して、大きな流れを作り出す。続くスクリャービンの練習曲集では最後に情熱的な嬰ニ短調op8-12。
●ここまでの悲劇的なムードに比べると、後半のショパンはほっと一息つくところ。スクリャービンの「黒ミサ」とおしまいのベートーヴェン「エロイカの主題による変奏曲とフーガ」が描くコントラストが白眉。一瞬にして空気が変わり、ベートーヴェンの眩いばかりの古典性が場を支配する。なんという力強さ、明快さ。この日のプログラムでもっとも古い作品が、もっとも輝かしく、色褪せることのない鮮やかさを誇っていた。
●アンコールはショパンを4曲。3曲目の「英雄ポロネーズ」で客席を沸かせ、もうこれで終わりかなと思ったらマズルカop68-2でしんみりと幕。スタンディングオベーション多数。
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●EURO2024決勝はスペインが納得の優勝。その話題はまた明日に。
July 16, 2024