amazon
July 29, 2024

フェスタサマーミューザKAWASAKI 2024 東京交響楽団 オープニングコンサート

summermuza2024opening.jpg
●27日はフェスタサマーミューザKAWASAKI 2024の東京交響楽団 オープニングコンサートへ。チケットは完売。音楽監督ジョナサン・ノットが登場し、昨年に続いてチャイコフスキーの交響曲を2曲。交響曲第2番「ウクライナ」(初稿版)と交響曲第6番「悲愴」。チャイコフスキー自体、ノットのレパートリーとしてはかなり珍しいが、おまけに交響曲第2番がめったに演奏されない初稿だった。この初稿と一般的な改訂稿、比べてみると、初稿のほうがずっとおもしろい。改訂稿はすっきりとしているが、もともと粗削りに魅力のある曲から粗い部分をそぎ落とした結果、肝心の味が薄くなっているというか。今後、初稿が標準的に選択されるようになってもおかしくないと思う……が、それ以前にこの曲自体がほとんど演奏されていないわけだが。
●ノットが昨年やろうとしていたのは、慣習にとらわれないチャイコフスキーの再発見で、基本ラインは「金管楽器の咆哮で血をたぎらせない抒情的なチャイコフスキー」だったと思う。楽器間のバランスやダイナミクス、テンポ操作などを一から見直して作るといった方向性。で、前半の「ウクライナ」は、昨年に比べると少し穏当というか、ノーマル寄りのチャイコフスキー。その分、チャイコフスキーを聴く興奮を味わえたともいえる。その点、後半の「悲愴」のほうがノットの狙いは生かされていたのでは。大袈裟なジェスチャーを控えたところで見えてくる詩情や推進性があって、ほとんどノーブル。第3楽章のおしまいは晴れやか。ここで拍手が来るかも!と思ったけど、一瞬出そうで出なかった。惜しい。心のなかで拍手。
●「悲愴」のヒーローはファゴットだと思う。曲の冒頭でファゴットが主役になるのは「悲愴」と「春の祭典」。で、「悲愴」の場合は第1楽章のppppppの最弱音のところで、下行するクラリネットをファゴットが受け継ぐ。スコア上はそうなっているにもかかわらず、これをバスクラリネットで代わりに演奏する慣習がある。ノットはスコア通りにファゴットに吹かせた。冒頭のソロがフリで、ここがウケだと思うので、やっぱりファゴットが演奏するのが本来のあり方なのだろう。結果として、ここでファゴットに事故が起きて、逆説的に慣習の正当性を証明してしまったわけだけど、それでもそういうリスキーな場所なんだと受け入れたい。演奏が終わった後、ノットはまっさきにファゴットを立たせた。
●長く続いたノットと東京交響楽団の黄金コンビだけど、26年3月に音楽監督を退任することが発表されている。「悲愴」終楽章は惜別の辞のように感じる。この終楽章も、おしまいのところは前へ前へと進む音楽って気がする。ノットのソロカーテンコールあり。