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2024年8月アーカイブ

August 30, 2024

サントリーホール サマーフェスティバル 2024 アーヴィン・アルディッティがひらく オーケストラ・プログラム

●29日はサントリーホールサマーフェスティバル2024のザ・プロデューサー・シリーズ「アーヴィン・アルディッティがひらく」オーケストラ・プログラム。アルディッティ弦楽四重奏団とブラッド・ラブマン指揮東京都交響楽団が出演。先週のフィリップ・マヌリ オーケストラ・ポートレートは東響だったけど、今回は同じ指揮者で都響。プログラムは前半が細川俊夫「フルス(河)~私はあなたに流れ込む河になる」(2014)、クセナキスの「トゥオラケムス Tuorakemsu」(1990)、後半がクセナキス「ドクス・オーク」(1991)、フィリップ・マヌリの「メランコリア・フィグーレン」(2013)。細川作品とマヌリ作品が弦楽四重奏とオーケストラのための作品。弦楽四重奏+オーケストラという組合せ、いかにも重複的で、オーケストラの弦楽セクション自体が弦楽四重奏を内包しているんだから約分できないのかとつい思ってしまうが、両者の響きの同質性を逆手に取ってシームレスな響きの遠近法を作り出せるのかもしれないし、作り出せないのかもしれない(どっちなんだ)。
●楽しかったのはクセナキスの両曲。「トゥオラケムス Tuorakemsu」は武満徹60歳を祝った作品で、曲名をぱっと見てToru Takemitsuのアナグラムになっているのかなと思いきや、なっていない。曲目解説によればToru Takemitsuの文字をギリシャ語風にしたアナグラムなのだとか。90人の奏者を要する3分ほどの短い曲。一種のファンファーレだろうが、東洋的な響きが思いのほか前面に出ていて、クセナキスとジャポニズムの不思議な合体技。後半の「ドクス・オーク」はアーヴィン・アルディッティがソリストを務めるヴァイオリン協奏曲スタイルの作品。渾身のソロとキレのあるオーケストラの対話。発話的なフレーズの応酬が続くのだが、こういう音楽を聴くと、つい日本語のセリフを当てはめながら聴いてみたくなる。たとえば、オーケストラ「お腹、空いてないのー?」、独奏「ハ・ラ・ペ・コ、だよー」みたいな。マヌリ作品、先週は豊饒な響きの海みたいな曲だったが、今回は弦楽四重奏とオーケストラのための曲ということもあり、もっとミクロコスモス的で、7つの多様なセクションからなる。細川、マヌリともに作曲者臨席。
●きわめてゆっくりと進む台風が九州を北上し、日本列島は広範囲で大雨。「遠隔豪雨」という言葉を知る。ひどい水害がないことを願う。

August 29, 2024

松本市美術館 コレクション展「草間彌生 魂のおきどころ」他

松本市美術館
●25日、松本まで往復して正味1時間の「ジャンニ・スキッキ」だけではもったいないので、すぐそばの松本市美術館へ。なんと、7年ぶり。企画展とコレクション展があり、現在の企画展は「北欧の神秘 ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画」。これは同じ展示を東京のSOMPO美術館ですでに見ているので、コレクション展をじっくりと見ることに。

草間彌生 大いなる巨大な南瓜
コレクション展の目玉は特集展示「草間彌生 魂のおきどころ」。美術館の正面から郷土出身のアーティストである草間彌生の巨大彫刻「幻の華」が出迎えてくれているのだが、中にも立派なコレクションがある。写真は「大いなる巨大な南瓜」(2017)。もっと近年の作品もあり、作者が現在95歳だと知って驚く。カラフルな色づかいが強烈で、心がざわざわする。50年代、60年代の絵画もよい。一方、インスタレーションは技術的な仕掛けの部分に時の流れを感じる。草間彌生以外の地元ゆかりの作家たちによるコレクションも予想以上に見ごたえがあって充実。

草間彌生 大いなる巨大な南瓜 裏側
●「大いなる巨大な南瓜」を反対側からもう一枚。まあ、反対側から見てもそう変わらないわけである、カボチャだし。ヘタの部分の向きが違うなって思うけど。
●小澤征爾を追悼する無料展示もあって、賑わっていた。

August 28, 2024

「バリ山行」(松永K三蔵)

●松本往復のあずさでたっぷり時間があったので、ハイカーたちが大勢いる車内にふさわしい一冊を読んでみた、第171回芥川賞受賞作、「バリ山行」(松永K三蔵著/講談社)。これは傑作。帯に「純文山岳小説」とあるが、もっと言えば「低山ハイキング小説」であり、「藪漕ぎ小説」でもある。本格登山の世界ではなく、里山みたいなところであえて難度の高い道や、道なき道を行くのがバリ山行なのだとか(バリエーションルート、略してバリ)。勤め先の仲間たちと一般的なハイキングルートを楽しんでいた主人公が、あるとき職場で孤立する同僚が毎週末ひとりでバリ山行に挑んでいることを知る。ふたりは行動をともにする機会を得る。
●低山ハイキングでも定められたルートから一歩外れれば、命がけの危険がありうることは、よくわかる。みんなが通るルートから外れるなど、恐怖以外のなにものでもない。うっかり変な道に入って迷い、暗くなったりでもしたら身動きが取れなくなる。あるいは降りれるけどもう登れない場所とか、逆に登れるけど降りるのは無理な場所とか、いっくらでもあるわけで、自分の感覚からするとバリルートなんて勘弁してくれって感じなのだが、そんな山の世界をこれほどの解像度で描けるとは。山の描写がことごとくよい。感嘆するばかり。
●山小説であると同時にこれは会社員小説でもあって、職場にもみんなでいっしょに進むハイキングルートもあれば、藪漕ぎみたいなまったく先の見えない孤独なルートもある。そこをぐさりと抉ってくる。どちらを進むのかという選択はだれしも迫られるはず。会社って、ほんと、こういう場所だよなと思う。

August 27, 2024

セイジ・オザワ松本フェスティバル OMFオペラ プッチーニ「ジャンニ・スキッキ」

松本駅
●25日は先週に続いてふたたび松本へ。今回は日帰りで、セイジ・オザワ松本フェスティバルのOMFオペラ、プッチーニ「ジャンニ・スキッキ」(デイヴィッド・ニース演出)へ。会場はまつもと市民芸術館。こちらは駅から歩いてすぐなのでアクセスが楽。若い小澤征爾音楽塾オーケストラを、村上寿昭が指揮。もともとは沖澤のどかが指揮する公演だったが、ネルソンス降板の余波で指揮者が変更になった。町英和のジャンニ・スキッキ、藤井玲南のラウレッタ、澤原行正のリヌッチオ、牧野真由美のツィータ、髙畠伸吾のゲラルド、平野和のシモーネら、練れたチームワークでプッチーニの貴重なコメディを軽やかに。遺言改竄の場面で、スキッキが強欲にも自分を相続人に指名する場面では、しっかりと客席から笑いが起きた。やはりこうではなくては。
●デイヴィッド・ニースによる演出は以前にも観ているが、明るく洗練されており、安心して喜劇を楽しめるもの。このオペラって、「トスカ」がローマのご当地オペラであるのと同じように、フィレンツェご当地オペラでもあるのだね、初演はニューヨークだけど。
●本編に先立って、オーケストラの楽器紹介があった。これは以前にも見たけど、とても秀逸。通り一遍の紹介ではなく、たとえばトロンボーンの紹介で3人並んでピタゴラスイッチを演奏するなど(なにが起きるか、元ネタを知ってる人なら予想がつく)、それぞれ趣向が凝らされている。同一演目による「子どものためのオペラ」を前提としたものだとは思うが、若い団員たちが元気いっぱいにノリノリでやっているのがすばらしい。みんなを楽しい気分にできるのは立派なもの。若さが武器になるのはこういう場面だ。
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●たまたま夏休みの諏訪と、セイジ・オザワ松本フェスティバルの2公演が続いたため、3週連続、週末にあずさに乗った。チケットレスになって便利になったが、新幹線とちがって在来線チケットレス特急券はSUICAとの紐づけがない。最初、これにすごく戸惑った。えっ、えきねっとで購入したチケットと自分のSUICAが紐づいていないのに、SUICAで乗れちゃうの? なんで? でもよく考えてみると、在来線は新幹線とちがってあらゆる改札から乗れちゃうわけで、紐づけたところで改札側でその情報を拾えないってことなのか。

August 26, 2024

サントリーホール サマーフェスティバル 2024 フィリップ・マヌリ オーケストラ・ポートレート

●23日はサントリーホール サマーフェスティバル。テーマ作曲家フィリップ・マヌリのオーケストラ・ポートレート。演奏はブラッド・ラブマン指揮東京交響楽団。舞台転換の都合もあってか、2回休憩が入るという構成で、ドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」、ブーレーズの「ノタシオン」、休憩その1、フランチェスカ・ヴェルネッリの「チューン・アンド・リチューンII」(2019~20)、ドビュッシー~マヌリ編の「夢」(1883/2010~11)、休憩その2、マヌリ「プレザンス」(2023~24、世界初演 サントリーホール委嘱)。マヌリ臨席。もう72歳とは。
●最初のドビュッシーが東響らしくない色彩感を欠いた演奏で謎だったが、最初の休憩後からはぐっと精彩に富んだ響きに。ヴェルネッリは未知の作曲家。「チューン・アンド・リチューンII」は、事前に読んだプログラムノートによれば、微視的な時間と巨視的な時間との連続性みたいなものに焦点を当てているということだったのだが、わかるようなわからないような。パルスの連続と変容。ピアニストが活躍。「夢」はドビュッシーがパリ音楽院在学中に書いた管弦楽組曲第1番の一曲で、失われていた作品が近年発見されたもの。4手連弾版とオーケストラ版があるが、「夢」はオーケストラ版が欠けており、これをマヌリが編曲したのだとか。柔らかく美麗。新たなレパートリーとして定着してもおかしくない。
●二度目の休憩の後はマヌリの新作。オーケストラの各楽器群を指揮者を中心に左右対称にアーチ型に配置する。分厚い響きの雲のなかであちこちで閃光が明滅するかのような印象を受ける。残響の豊かなホール、しかも2階席からの距離で聴くとなれば個々の楽器の音は定位はぼやけ、凝った配置がもたらす効果は控えめかとは思ったが、洗練された音響美を堪能。「パルジファル」的な荘厳さも。曲の後半で左右それぞれのグループからフルートやトランペットら数名が離脱し、ステージから降りて客席両脇に陣取り、最後は退出する。思わせぶりなジェスチャー。

August 23, 2024

ガルシア=マルケス「百年の孤独」再読 その5 クラヴィコード

●(承前)少し間があいたが、ガルシア=マルケス「百年の孤独」(新潮文庫)の再読メモを続ける。物語も終盤に入ったところで、一族をずっと見てきた老齢のウルスラが言う。

時は少しも流れず、ただ堂々巡りをしているだけであることを改めて知り、身震いした。

ブエンディア一族で同じ名前がくりかえされているが、くりかえされているのは名前だけではない。前にも述べたように、反復的な時の流れはこの物語の中心的なテーマだ。
●一方で、一族の外からやってきた登場人物は、しばしば異質な文化をブエンディア家にもたらす。たとえば、フェルナンダ。没落した名家に生まれたフェルナンダはアウレリャノ・セグンドと結婚し、自分の家の風習を強引に持ち込む。やがて生まれた長女はレナータ・レメディオス(メメ)と名付けられる。メメは尼僧たちの学校に通わされ、クラヴィコード(クラビコード)を習う。
●えっ、クラヴィコード? ここはびっくりする場面だ。クラヴィコードといえばバッハやその息子らも愛好した昔の打弦鍵盤楽器。音量が小さく、コンサート用の楽器ではなく、もっぱら家庭用の楽器として言及されるが、19世紀になると忘れられ、その後、20世紀の古楽復興運動により甦る。一般的にはそんな認識だろう。復興したと言っても、録音では聴けても、演奏会で聴くチャンスはなかなかない。そんな楽器が1967年出版の「百年の孤独」に出てくる。メメはなにを弾いたのか。

 やがてメメは勉学を終えた。一人前のクラビコード奏者であるむねを証明する免状が本物だということは、卒業を祝うと同時に喪の終わりを告げるために催されたパーティの席上で、十七世紀の民謡ふうの曲を実に巧みに演奏したことで示された。

これがどんな曲なのかはわからないが、当然、バッハなどを弾くはずはない。検索で見つけたサイト、CLAVICORDIOS HECHOS EN AMÉRICA LATINA を眺めると、どうやら南米各国ではさまざまなクラヴィコードが製作されており、ヨーロッパとはまた違ったクラヴィコード文化が花開いていたようである。ちなみに、このサイトにはチェンバロ奏者のラファエル・プヤーナ(コロンビア出身だ)が所蔵する楽器も載っている。
●もっとも、メメがクラヴィコードを弾くのは音楽への情熱からではまったくなく、単に頑迷な母フェルナンダの不興を買わないためであって、従順な態度の奥にはどす黒い憎悪が隠されている。これに母親は気づいていない。メメはマウリシオ・バビロニアと密かに恋に落ち、ある事件をきっかけに、老衰で世を去るまで二度と口をきかなくなる。(つづく

●おまけ。La Hacienda - Latin American Music On Clavichord (Federico Hernández)

August 22, 2024

読響サマーフェスティバル2024「三大協奏曲」

読響サマーフェスティバル2024「三大協奏曲」●21日は東京芸術劇場で読響サマーフェスティバル2024「三大協奏曲」。夏の恒例企画で、すぐれた若手奏者3人を一度に聴ける貴重な機会。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲(中野りな)、ドヴォルザークのチェロ協奏曲(佐藤桂菜)、休憩をはさんで、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番(進藤実優)。指揮は大井剛史。客席は盛況。協奏曲が3曲もあるので、18時30分開演と早めの設定になっているのが超絶ありがたし(帰宅が遅くなるのが嫌な気持ちが、だんだんわかるようになってきた)。
●ヴァイオリンの中野りな、チェロの佐藤桂菜、ピアノの進藤実優、それぞれ若くてひたすら眩しい才能たちがそろった。圧巻は中野りな。以前にも聴いたことがある奏者だが、完成度の高さは随一。きっと洗練された端正な演奏になるのかなと思っていたら、予想以上に白熱するメンデルスゾーンで、音楽に生気がみなぎっていた。楽器もよく鳴り、輝かしい。オーケストラとの共演という点でも経験値を感じる。進藤実優のチャイコフスキーは作品への想いがつまった熱演。筆圧の強い音楽。第2楽章に新味を感じる。
●大井剛史指揮読響はソリストを引きたてつつも、鳴らすべきところは雄大に鳴らし、起伏に富んだ表現。ソリスト中心の企画ながら、オーケストラを聴く醍醐味をしっかり堪能させてくれたのはさすが。
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●昨日書き忘れたけど、8月21日は当サイトの誕生日。1995年に始まったので、29周年を迎えた。

August 21, 2024

松本その3 バスで行く美ヶ原高原ハイキング

美ヶ原高原 ハイキング
セイジ・オザワ松本フェスティバルの翌日は、松本駅からバスで美ヶ原高原へ。せっかく松本に来たのだからハイキングもくっつけたいと毎回いろいろ画策しているのだが、美ヶ原高原には2年前も行った。が、諸事情により滞在時間が異様に短かったので、今回は時間をとって再チャレンジ。松本駅から直行バスで一気に標高2000メートルの美ヶ原自然保護センターへ。美ヶ原高原ハイキングマップを頼りに歩く。四方八方遮るもののない絶景が広がる。空が近いというか、雲が低いというか。別世界だ。そして涼しい。
美ヶ原高原 牧場
●牧場はとにかく広い。ずーっと先までこんな調子で続く。牛もたくさんいる。
美ヶ原高原 牛
●あ、牛さんだ。牛さん、こんにちは。
美ヶ原高原 牛
●歩いていると、牛に次ぐ牛で、牛の写真を撮りまくることになる。牛写真集でも出すのかっていう勢いで牛を撮る。
美ヶ原高原 牛
●みんな気持ちよさそうだ。牛は安らかに草を食み(それは羊だ)。
美ヶ原高原 ハイキング
●バスで往復するので起点と終点は同じ美ヶ原自然保護センター。復路は往路と同じ道を帰る。復路をのんびり1時間以上歩いた後、王ヶ頭あたりから撮ったのが上の写真。右のほうに山のなかで少しグレーになっているところが見えるが、あれがバス停のある駐車場だ。えっ、まだそんなに歩くの?と思うじゃないすか。
美ヶ原高原 売店
●でも歩いてみると、あっさり着く。これはハイキングあるある。ヒトの歩行能力を舐めてはいけない。
●こういうハイキングはなるべく簡単で、かつ体力的にも無理のないコースであることが絶対条件。今回は美ヶ原自然保護センターから王ヶ鼻に向かい、そこから王ヶ頭を経て、美ヶ原牧場を進み、山本小屋ふる里館まで行って、そこからUターンした。ふる里館から牛伏山に行くかどうか迷ったが、そこは自重。さらに先まで行くと美ヶ原高原美術館があるのだが、そこまで行くと、おそらく時間的に帰りのバスに間に合わない。現状ではバスで美ヶ原高原美術館に行くのは困難(行くだけなら行けるけど、行っただけになって鑑賞する時間と体力がない)。
●以下、注意事項。簡単な散策コースだが、王ヶ鼻近辺だけは足元に注意しながら慎重に。それと美ヶ原自然保護センターと王ヶ頭を結ぶ小道があるが、ここは歩きづらくて神経を使うので、使わなくてもいいかも。前回はここを往復したし、今回も復路に使ったのだが少し後悔。遠回りだが王ヶ鼻に向かう道を使って降りたほうが快適だったはず。
●それとバスは一日に二便しかない。ふつうにハイキングをするなら、行きは8:15松本駅出発(9:35着)、帰りは16:00美ヶ原自然保護センター出発の一択。現地滞在時間は6時間25分になる。体力的にそんなに長時間行動できないし、うっかり帰りのバスを逃すと下山する手段がなくなってしまうので(タクシーを呼ぶ?)、考え方としては帰りのバスの1時間以上前に美ヶ原自然保護センターに到着して、売店でアイスを食べながら休憩する作戦。とくにこの日は日中に地上の気温がぐんぐん上昇する予報だったこともあり、遅くなると雷が心配だったので、早めに切り上げるのが吉かなと。
●なお、バスは今年から予約制に変わったが、予約は直前でも取れそうな雰囲気。バスが埋まったらタクシーも使うみたいな臨機応変な仕組みになっているっぽい感じで、復路はバス、バス、タクシーの3台体制になっていた。まあ、「バスの定員が埋まったので下山できません」なんて言われたら途方に暮れてしまうわけで、そうはならないようになっている、と信じたい。

August 20, 2024

松本その2 サンプロアルウィンで松本山雅vs相模原

松本山雅 サンプロアルウィン
●17日、キッセイ文化ホールでセイジ・オザワ 松本フェスティバルの沖澤のどか指揮サイトウ・キネン・オーケストラを聴いた後、サンプロアルウィンでJ3リーグの松本山雅FCvsSC相模原を観戦。演奏会が17時頃終演、サッカーが19時キックオフ。十分に移動時間があるはず。恒例の全員カーテンコール1回目で退出してシャトルバス乗り場へ。松本駅に着いたら、コンビニで食べ物を速攻で買い、すぐに松本バスターミナルに行き、サンプロアルウィン行きのシャトルバスに乗る。シャトルバスからシャトルバスを乗り継いで、まずまずの時間に到着。
●前回このスタジアムに来たのは2012年なので、なんと、12年ぶりだ。専用競技場なので観戦環境は最高。山が見えるのもすばらしい。当時、松本山雅はJ2にいた。その前年、JFL(当時は3部リーグ)から昇格したのだ。もっと遡れば2009年に松本山雅が地域リーグからJFLに昇格したことをこのブログで話題にしている。その後、松本山雅は反町監督を迎えて、やがてJ1に昇格し、そこからJ2へ、さらにJ3へと降格した。つまり最初に知った時点から、4部→3部→2部→1部→2部→3部とダイナミックに変遷してきているクラブなのだ。こんなクラブはなかなかない。一貫してサポーターは熱心で、J3中位にいる今でもその印象は変わらない。
●現在の監督は霜田正浩。理想を高く掲げるけれど、なかなか勝てない監督でもある。リーグ屈指の個の力がないと、アタッキングフットボールは失点の山を築きやすい。対戦相手の相模原は逆に守備の堅いチーム。山雅がボールをにぎる展開になった。序盤に山雅は失点するが、前半のうちに逆転。後半に追いつかれるも、終了直前の後半50分、鮮やかなカウンターから村越が決めて勝ち越して3対2。ドラマティックな展開で勝利した。技術の高い選手が多い。JFLの試合をたくさん見ている自分からすると、J3にここまで差をつけられたのかという驚きがあった。J3もできたばかりの頃はJFLと似たようなものだったけど(もともと同じJFLから分かれたので)、この試合を見ると山雅も相模原も相当レベルが高い。とくに攻撃。これだけのスペクタクルを目にできるとは。山雅は攻から守への切り替えに少し課題があるかなとは思ったけど、見ていて楽しいサッカー。
松本山雅 サンプロアルウィン 花火
●ハーフタイムに花火が打ち上げられた。
●山雅の先発に安永玲央がいた。お父さんは元マリノスの安永聡太郎。ストライカーだった父とちがって、ボランチでプレイ。ルックスがよい。ビルドアップ時にバックラインからもうひとつボールを預けてもらえないなとは思ったが、精度の高いクロスでアシストを決めて勝利に貢献した。

August 19, 2024

沖澤のどか指揮サイトウ・キネン・オーケストラ ~ セイジ・オザワ松本フェスティバル

キッセイ文化ホール
●17日はあずさに乗って松本へ。セイジ・オザワ 松本フェスティバルで、沖澤のどか指揮サイトウ・キネン・オーケストラによるブラームスの交響曲第1番と第2番。本来ならアンドリス・ネルソンスが指揮するはずだったが健康上の理由により降板、代わって沖澤のどかが指揮することに(別プロの第3番と第4番はそれぞれ下野竜也とラデク・バボラークの指揮になった)。ブラームスの交響曲第1番、冒頭の一音から気迫のこもったすごい音が出てきた。代役だということを完全に忘れて聴く一体感あふれるブラームス。造型も音色もこれぞブラームスという音楽。濃密でしなやか。特に第1番は、サイトウ・キネンのブラームスでもあり、おそらく小澤征爾のブラームスでもあって、2月に世を去った総監督への献奏のような趣も強く感じる。
●第2番の自然賛歌的な音楽は夏の松本にぴったりだろう。こちらも慣れ親しんだブラームスの音楽そのものだが、作品の性格もあり前半よりは開放感があって、第4楽章は期待通り壮麗なフィナーレに。コンサートマスターは第1番が豊嶋泰嗣、第2番が矢部達哉。オーケストラのなかでバボラークがホルンを吹くのを聴いたのは久しぶり。やはり異次元。トランペットのタルケヴィと並ぶ元ベルリン・フィル勢。
●今回のセイジ・オザワ松本フェスティバルは、まだ総監督として小澤征爾の名が掲げられている。これまでどんな著名な指揮者が招かれようが、音楽祭の顔は小澤征爾以外にあり得なかったわけだけど、これからはどうなるんだろう。音楽祭の顔が必須というわけでもないので、特定の監督を定めずに、属人性のない「松本の音楽祭」になっていくのか、どうか。
●写真は開演前のキッセイ文化ホール。人が写っていないが、もちろん本当は賑わっていた。Google Pixelの消しゴムマジックで消しているのだ。似た機能は前からPhotoshopにもあったが、これはアプリの自動判別でワンタッチで消している。

August 16, 2024

台風と指揮者変更

●本日はこれから非常に強い台風7号がやってくるということで、東海道新幹線が終日運休。首都圏ではほかにも計画運休がいくつか。近年、計画運休が増えてきた。上陸はしないようだが、それでも危険なほど強烈な台風なのだろう。
●中央本線は大丈夫なのかと、気をもんでいる人も多いのでは。本日夜と明日17日午後にセイジ・オザワ松本フェスティバルのサイトウ・キネン・オーケストラの公演(Bプロ)がある。本来ならアンドリス・ネルソンスが指揮をする予定だったが、健康上の理由により降板、代わって沖澤のどかが指揮することに。曲はブラームスの1番と2番。また、21日と22日の公演(Cプロ)は下野竜也とラデク・バボラークが一曲ずつを指揮することになった。下野竜也がブラームスの3番、バボラークが4番。3人の指揮者でブラームスの4曲の交響曲を分け合う。
●で、変更はこれだけにとどまらず、25日のオペラ、小澤征爾音楽塾オーケストラによるプッチーニ「ジャンニ・スキッキ」の指揮者が、沖澤のどかから村上寿昭に変更された。なかなか予定通りにはいかないもの。
●ともあれ、明日は松本に向かう予定。キッセイ文化ホールからサンプロアルウィンへのはしごを目論んでいるのだが、どうなることやら。

August 15, 2024

NAGAREYAMA国際室内楽音楽祭2024 開催発表記者会見

NAGAREYAMA国際室内楽音楽祭 開催発表記者会見
●遡って5日、NAGAREYAMA国際室内楽音楽祭の開催発表記者会見が開かれたので、リモートで参加。千葉県の流山市といえば、近年、子育て世代に大人気のエリアで、人口増加率の高さがニュースで話題になる街。その流山でスターツおおたかの森ホールが開催するのが、NAGAREYAMA国際室内楽音楽祭。同市在住のピアニスト、パスカル・ドゥヴァイヨン&村田理夏子夫妻(写真)が音楽監督を務める。スターツおおたかの森ホールは2019年4月に開館した客席数494のホール。音響設計監修は永田音響設計が務めている。つくばエクスプレス/東武アーバンパークライン流山おおたかの森駅北口直結という好立地。
●音楽祭の開催期間は11月2日(土)から4日(月・休)までの3日間4公演。パスカル・ドゥヴァイヨンと村田理夏子のおふたりに加えて、ヴァイオリンのフィリップ・グラファンと東亮汰、ヴィオラのキム・サンジン、チェロの趙静、フルートの高木綾子、クラリネットのチャールズ・ナイディックらが参加。ナビゲーターを加羽沢美濃が務める。ドヴォルザークのピアノ三重奏曲第4番「ドゥムキー」、フォーレのピアノ四重奏曲第1番、ブラームスのクラリネット五重奏曲といった本格的なプログラムが中心だが、プーランク「子象ババールの物語」(山口由美のナレーション)他のファミリー・コンサートも一公演あり。土地柄からして納得。
●流山に住むドゥヴァイヨンは街の印象を「公園も緑も多く、とても住みやすい街。ゆっくり住める住環境だが、東京が近い。子どもが多くて活気があり、生き生きしてる印象」と語る。市長をリサイタルに招待した際、日本で室内楽の音楽祭を開く夢があると話したら、ちょうど新しいホールができるからという話になって、いろんな偶然が重なり音楽祭の実現につながったという。
●ドゥヴァイヨン「客席との仲間意識を大切にしたい。フランスでも一か月くらいのフェスティバルを開いていたが、アーティストとお客さんとの間に家族的な雰囲気が生まれてきて、すばらしかった」「ひとりスターを呼んで、一回弾いたら帰ってしまうようなものは避けたかった。同じメンバーがずっといることで、できることがある。音楽家には役者みたいなところがあり、同じ人でも日によってぜんぜん違う顔を見せたりする。これも音楽祭の楽しみのひとつ」

NAGAREYAMA国際室内楽音楽祭2024(スターツおおたかの森ホール)
https://starts-otakanomorihall.com/event/nicmf2024.html

August 14, 2024

夏休み2024 諏訪湖

諏訪湖
●3日間の夏休みをとって、諏訪湖へ。3年連続。今回も天候に恵まれた。東京とは平均4度くらい気温が低い感じ。午後の時間帯は30度を超えて暑くなったが、午前中や夕方なら快適に屋外で過ごせる。子どもの頃の夏って、こんな感じじゃなかったっけ……。湖があって、湖畔の散歩やサイクリングが気持ちいい。そして、人が少なく、どこも広々している。

ハーモ美術館
●レンタサイクルのお店が増えていた。電動アシスト付き自転車で湖畔のサイクリング専用道を走る。公共交通機関が弱いので、自転車が役立つ。昨年同様、今年もハーモ美術館に行くために自転車を借りた。このハーモ美術館、建築物としても魅力があり、収蔵品も充実している。アンリ・ルソーやグランマ・モーゼスら素朴派を中心とした常設展示に加え、スペインにフォーカスした企画展「ピカソ、ミロ、ダリ」も。
●夜は湖畔でサマーナイト花火が毎晩行われており、約10分間の花火を楽しめる。これとは別に8月15日に大規模な花火大会が開かれ、そちらはすごい人出になるらしいのだが、10分間のサマーナイト花火はまったく混雑がなく、好きな場所にレジャーシートを敷いて、寝転がることができる。断然、こっちがいい。混雑は回避したい。
●今回も市民の憩いの場、すわっこランドに入り浸る。ここにはプールと温泉がある。プールは2つ。屋内がレイクビューの25メートル、屋外がマウンテンビューの50メートル。景色がすごい。泳ぎは不得手だが、かろうじて50メートルを止まらずに泳げることを確認する。おしゃれ成分ゼロの公営プール。
●運転できないので、市内の移動はバスが頼り。たいていバスは1時間に1本か、2本あったらラッキーくらいの感覚。完全にクルマ社会のようで、バスは小型で、利用者も少ない。バスについては、スマホアプリの信州ナビが必須。
●あとは駅前のスーパー、ツルヤがよい。オリジナル食品が強力。

August 13, 2024

ダニエル・ハーディング指揮東京都交響楽団のマーラー

ダニエル・ハーディング指揮東京都交響楽団
●9日はサントリーホールでダニエル・ハーディング指揮東京都交響楽団。来日の多いハーディングだが、都響とはこれが初共演。チケットは完売。プログラムはベルクの7つの初期の歌(ニカ・ゴリッチのソプラノ)、マーラーの交響曲第1番「巨人」。ベルクは初期作品で1905年から1908年にかけての作曲、マーラーは最終稿の初演が1896年。両者の距離は案外近い。ニカ・ゴリッチは温かみのある声。長い曲ではないので、もう少し聴きたくなる。マーラー「巨人」はハーディング得意のレパートリー。若い頃からいろんなオーケストラでこの曲をとりあげている。都響もマーラー・オーケストラといってもいいくらいにマーラー演奏の伝統を持っていると思うが、ハーディング印がしっかり刻印された「巨人」に。どこのオーケストラでも自分の「巨人」が再現できる十八番といった様子。細部まで意匠が凝らされているが決して神経質ではなく、むしろ全体としては直線的に驀進する劇的なマーラーで、客席はかなり湧いた。ハーディングのソロカーテンコールあり。
●第1楽章の途中で地震があった。最初、四方からザワザワザワザワという音が響いて、なんの音かまったくわからず(一瞬、演出なのかと思ったくらい)、しばらくすると客席が揺れ出した。どうやらあれは緊急地震速報だったらしい(自分の周りではだれも鳴っていなかった)。前日に宮崎県で震度6弱の揺れがあり、南海トラフ地震の想定震源域では大規模地震が発生する可能性が相対的に高まっているという警告が出されたばかり。公演中なので、震源がどこかを知る方法がない。九州も気になるが、正月以来ずっと能登も気にかかっている。震源が遠方にもかかわらず東京が揺れた場合は大地震の恐れがあるので、演奏中も気になってしかたがなかった。公演後、あわててスマホで気象情報を確認すると、震源は神奈川県西部で最大震度5弱。マグニチュードは5.3と特別大きくはなく、南海トラフとは無関係だった。
●大地震ではなかったので安堵したが、311以来、ハーディングと地震のジンクスがここまで続いていることには驚かずにいられない(思い出すのは、311前日のハーディングの新日本フィルMusic Partner就任記者発表)。すべて偶然であることはわかっているのだが、それにしても。

August 9, 2024

アーティゾン美術館 「空間と作品」展

アーティゾン美術館の「空間と作品」展へ。これは抜群のおもしろさ。「作品が見てきた景色を探る」と副題が添えられていて、なんだかフワッとしたタイトルだなと思いきや、めちゃくちゃ鋭い視点で組み立てられていて、圧倒されてしまった。
ピカソ 腕を組んですわるサルタンバンク
●序盤に出てくるのが、ピカソの「腕を組んですわるサルタンバンク」。この美術館の収蔵品なんだけど(驚くべきことに、この展覧会のほぼすべての作品が収蔵品なのだが)、「作品が見てきた景色を探る」というだけあって、ここでは所有者という観点から作品を見つめ直す。これ、有名な話なんだろうけど、だれが所有していたか、知ってた?
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●ワーオ!と思わず声が出てしまいそうになった、この解説パネルを見て。そうじゃん、ホロヴィッツだよ! 放浪する大道芸人を題材としたピカソの絵を、ホロヴィッツが収集していたというのは、なかなか興味深いことであると思うが、それにしてもこのホロヴィッツのおなじみのポーズ。この写真自体が作品のようだ。もうこのコーナーだけでもガツンとやられた気分。

古賀春江「素朴な月夜」
●こちらは古賀春江「素朴な月夜」。かつての所有者は川端康成。床の間に飾ってあったそう。これも有名な話なんだろうけど、おふたりは一時期家も近く、親交があったとか。

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●こちらはジョージ・オキーフの「オータム・リーフ II」。こちらの所有者はマイクロソフトの共同創業者ポール・アレンだった。おおー。ホロヴィッツにしても川端康成にしても、芸術家が芸術作品を所有するというパターンだったけど、こちらはIT業界のレジェンド。ポール・アレンはすごいアートコレクションを持っていて、一昨年、遺産のコレクションがオークションにかけられて、約2200億円を売り上げたというニュースがあった。
●こんなふうにアートの所有者としていろんな人物が言及されるんだけど、でもこれらはすべて現在は石橋財団の所蔵品となっているわけだ。財団法人にはゴーイングコンサーンがあるけど、個人はそうではない。いつか作品はだれかの手に渡る。美術館に飾られる絵ばかりを見ていると、絵というものはこんなふうに公共に展示されるものという思い込みができてしまうが、実はそれぞれの作品にヒストリーがあって、だれかの家に飾られていた時代があった。そこに目をつけて、この展覧会ではアートが部屋に飾られた状態でも展示されている。
アーティゾン美術館 空間と作品
●たとえば、こんなふうに(これ、手前の椅子に座れるようになってるんすよ!)。この一角だけでもいくつもの作品が飾られていて、ある意味で現実的なんだけど、一方でまったく非現実的なぜいたく空間でもある。こういう作品を家に飾るってどういうことなのかな。まったく現実味がないんだけど、でも絵には「飾る」という本来的な機能が備わっていることを思い出す。たとえそれが歴史的な大家の作品であったとしても。

August 8, 2024

モバイルバッテリーを新調する

●最近は外出時に必ずカバンにモバイルバッテリーをしのばせるようになった。スマホのアプリがやたらと電池を消費するようになったからでもあるし、各種チケット類が電子化されてスマホの電池切れのダメージが以前よりずっと大きくなったせいでもある。が、モバイルバッテリーというものは長持ちするものではない。その性質上、ほぼ常にフル充電の状態にあるので劣化しやすいのと、あまり古くなると安全面で心配になる。何種類かサイズや容量の違うものを併用しているが、いちばん古いものを破棄し、新たにひとつ導入することにした。
●信頼性が必要なので対象となるメーカーは限られる。今、いちばん評判がよいのは、おそらくこれ。Anker Power Bank (10000mAh/22.5W) 。コンパクトサイズで、小さくて薄い、そして付属ケーブルがストラップとして一体化している。別にストラップがほしいわけではなく、ケーブルがかさばらないのが利点。容量も十分、重さは約200g。これで決まりかなと最初は思った。
●でも、実は10000mAhのモバイルバッテリーは比較的新しい商品をすでに持っているので、もっと容量が少なくてもいいので、さらに軽いものはないかと考えた。最近、スマホの電池が大容量化しているので、10000mAhよりも下の商品ラインナップはあまり充実していない。悩んだ末に購入したのが、エレコムの少し前の機種で、DE-C37-5000WHという5000mAh/12Wのモバイルバッテリー。これは本当にコンパクトで、重量はわずか110g。容量が小さいがふだん使いであれば足りる。長時間の外出時のみ10000mAhを持ち歩き、日常的にはこちらの5000mAhを使う。この重量ならカバンに入れていることを忘れてしまう。満足だ。
●……と言いながら自分に突っ込んでおくと、カバンに入っているモバイルバッテリーの重量が200gだろうが110gだろうが、それは意味のある違いなのか。その90gの差をお前は知覚できるのかと自らに問いたい。

August 7, 2024

トッパンホール ランチタイムコンサート サマースペシャル

●演奏会や記者会見が立て込んでいるが、遡って2日の昼はトッパンホールのランチタイムコンサートへ。サマースペシャルと銘打ち、ヴァイオリンの小川恭子、大塚百合菜、ヴィオラの石原悠企、チェロの築地杏里(元クァルテット・インテグラ)、ピアノの北村明日人といった期待の若手たちが集う。12時15分開演の公演で、休憩なしの短いプログラム。ブラームスのピアノのための6つの小品op118とシューマンのピアノ五重奏曲。どちらも奇跡の名曲。ブラームス晩年の118は作曲者の孤独や諦念と深く結びついた作品、ではあるのだが、若い奏者が弾くとぜんぜん違った聞こえ方になることを知る。一方、シューマンには輝かしい高揚感があふれている。成熟度はともかくとして、個々の奏者の力量が高く、新鮮。
●トッパンホールに行くにはいろいろなルートがある。公式サイトの案内では飯田橋駅、江戸川駅、後楽園駅からそれぞれ徒歩で13分、8分、10分。自分がいつも使うのは神楽坂駅からの坂道徒歩ルート。しかし、この猛暑の真っ昼間に歩くのはどうかと思い、都営バスを使えばいいではないかと思いつく。が、思いついただけで、結局いつものように神楽坂から歩いてしまった。歩いてみれば、そこまで酷い暑さではなかった。
●遠からず気温が40度を超えるようになった際は、空調服を着て出歩くようになるのかも。

August 6, 2024

フェスタサマーミューザKAWASAKI 2024 佐渡裕指揮PACオーケストラ

サマーミューザ 佐渡裕 PACオーケストラ
●5日はミューザ川崎でフェスタサマーミューザKAWASAKI。首都圏のオーケストラが競演する音楽祭だが、今年はゲスト枠として兵庫から佐渡裕指揮PACオーケストラが招かれた。兵庫芸術文化センター管弦楽団、通称PACオーケストラ。首都圏ではなじみが薄いかもしれないが、地元での人気ぶりはすさまじく、なんと定期公演が常に同一プログラム3公演で、各2000席が完売する。定期公演で同一プログラムを同一会場で3公演開いているオーケストラは東京にもない。佐渡裕芸術監督が率いるこの楽団はアカデミーオーケストラとしての性格を持っていて、オーディションで選ばれた若い奏者が3年期限で在籍する。メンバーは国際色豊か。ここを卒業して、日本あるいは世界各地のプロオーケストラで活躍する例も多い。この日のコンサートマスターは田野倉雅秋。要所には実績のあるプレーヤーも加わている模様。
●で、この日のプログラムは前半がアルチュニアンのトランペット協奏曲とベルシュテッドの「ナポリ~トランペットのためのナポリ民謡の変奏曲」で、ソリストのセリーナ・オットが大活躍。後半はがらっと雰囲気が変わってシェーンベルクの交響詩「ペレアスとメリザンド」。これは兵庫での定期公演のプログラムをそのまま持ってきている。なので、PACオケはシェーンベルクの「ペレアスとメリザンド」を定期で3回、サマーミューザで1回、計4回も演奏しているわけだ。いやー、本当にすごい。特大編成で、しかも人気の高いとはいえない曲を、これだけ多くの人に聴いてもらえるとは。楽団の底力を感じる。さすがにアウェイの川崎まで満席にはならないが、健闘。
●この日の公演については別の場所で書くことになっているのだが、備忘録的に記しておくと、感心したのはシェーンベルクの交響詩「ペレアスとメリザンド」を演奏する前に、佐渡さんが各登場人物や情景をあらわすライトモチーフを演奏付きで紹介してくれたこと。これはすごくいい。この曲の場合(切れ目なく40分以上続く)、事前の理解がある程度ないと聴く側は迷子になってしまいがちで、これほど有用なガイドはないだろう。曲を知っているお客さんにとっても、「ああ、ペレアスの動機ってこんなんだったよなー」って思い出せるのはありがたいこと。ホスピタリティを感じる。
●前にも書いたけど、「ペレアスとメリザンド」って、やたらと物が落ちる。メリザンドは最初のゴローとの出会いで王冠を落とすし、ペレアスと遊んでいて指輪を落とす。塔の上からは長い髪を垂らす。メリザンドの動機も下行する。位置エネルギーが哀しみに変換される物語。
●なんと、アンコールが2曲もあった。大編成ゴージャスサウンドでハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」のワルツ、さらには「すみれの花咲く頃」という曲を、佐渡裕のピアニカソロ付きで。曲の途中でサプライズでピアニカが出てきた。まさかシェーンベルクの「ペレアスとメリザンド」の後にアンコールがあるとは思わなかったが、最後は開放的な気分で終わろうっていうことなのかな。一理あるけど、びっくり。

August 5, 2024

パリ・オリンピック2024 男子サッカー準々決勝 ニッポンU23対スペインU23

ニッポン!●オリンピック男子サッカー、3戦全勝で準々決勝に進んだニッポンU23だが、対戦相手がまさかのスペインU23。スペインはオーバーエイジ枠も使って本気でメダルを獲りに来ている。試合は驚くほどハイレベルの戦いだった。試合の入りはニッポンのペースだと思ったが、次第にスペインがボールをつなぎ出し、前半11分、フェルミン・ロペスが鮮やかなミドルシュートで先制。ここで相手とのレベル差を感じて下を向くのがこれまでのニッポンだったが、ここから互角に渡り合ったところに凄みを感じた。ニッポンの足元の技術が高く、スペインが思うようにボールを奪えない。前半40分、藤田譲瑠チマが素早く縦バスを細谷真大に入れると、細谷は相手ディフェンスを背負った状態から強引に反転してグランダーのシュートをゴールに突き刺した。完全にワールドクラスのスーパーゴールだったと思う。
●が、これがVARで取り消されたんすよね。完璧なゴールだけど、どうやらボールを受けたときの細谷の踵(!)がオフサイドポジションだったって言うんだけど……。あの、長年サッカーを見てきたけど、ポストプレイで相手のディフェンスを背負った選手の踵がオフサイドになったことって、今までに見たことある? いやー、ないでしょ。だって、意味がないもの。オフサイドは待ち伏せ攻撃を防ぐためのルール。ディフェンスを背中に背負ってる選手をオフサイドにする合理的な意味がまったくない。でも、審判はルールを厳密に解釈したのであって、なにも悪くはない。これはVARというテクノロジーに、サッカーのルールが追い付いていない。正確にルールを適用した結果、サッカーのいちばんエキサイティングなシーンが無効になっているわけで、こんなに白ける話はない。
●その後も、セットプレイから細谷は決定機にバーを叩くなどツキがない。オフサイドでゴールが取り消された直後は、むしろ手ごたえを感じてプレイしており、前半は内容でスペインに勝っていたと思う。が、後半はスペインがピッチを広く使ってニッポンのプレスを交わし、ボールを回すと、次第にニッポンの出足が鈍くなり、失点を重ねてしまった。ニッポンU23 0-3 スペインU23
●ニッポンのメンバーはGK:小久保玲央ブライアン-DF:関根大輝、高井幸大、木村誠二、大畑歩夢-MF:藤田譲瑠チマ-山本理仁(→荒木遼太郎)、三戸舜介(→植中朝日)-FW:山田楓喜(→藤尾翔太)、細谷真大、斉藤光毅(→佐藤恵允)。監督は大岩剛。
●細谷の幻のゴールは、本来なら伝説として語り継がれるべきプレイだった。勝敗よりも、伝説が無効になったことが悔しい。本質的にサッカー観戦とは伝説の探求なのだから。

August 2, 2024

宮田大&横溝耕一が贈る 室内楽フェスティバル AGIO vol.2 記者懇親会

宮田大 横溝耕一
●7月26日、浜離宮朝日ホールのロビーで「宮田大&横溝耕一が贈る 室内楽フェスティバル AGIO vol.2」記者懇親会に参加。Bunkamuraオーチャードホールと浜離宮朝日ホールの共同企画による室内楽の音楽祭で、開催は12月13日(金)から15日(日)までの3日間。6公演が浜離宮朝日ホールで開催される。音楽祭の発起人であるチェロの宮田大(写真左)とヴィオラ&ヴァイオリンの横溝耕一(右)が登壇。
●横溝「第2回の開催をうれしく思っている。この音楽祭は長年の夢。多くの音楽祭は地方都市の開催でオーケストラがメインだが、東京で若く優秀な奏者たちが集まる場がほしいとずっと思っていた。今年はさらにパワーアップしたメンバーが集まるので、昨年以上に盛り上げたい」
●宮田「トップオブトップのアーティストたちが集まってくれた。リハーサルの段階から楽しみ。奏者間の音楽の化学反応を楽しんでほしい。クラシック音楽の真髄を聴いてもらいたいと思っている」
●メンバーが豪華。宮田大と横溝耕一に加えて、ヴァイオリンに木嶋真優、三浦文彰、郷古廉、戸原直、ヴィオラに鈴木康浩、チェロに辻本玲、清水詩織、水野優也ら、名手がそろう。シェーンベルクの弦楽六重奏「浄められた夜」、シューベルトの弦楽五重奏曲 、ブラームスのピアノ四重奏曲第1番といった本格派のプログラムが中心だが、0歳から入場できるファミリーコンサートでサン=サーンス「動物の謝肉祭」も。

August 1, 2024

フェスタサマーミューザKAWASAKI 2024 沖澤のどか指揮読響

フェスタサマーミューザ 沖澤のどか 読響
●31日、ふたたび川崎へ。フェスタサマーミューザKAWASAKIで沖澤のどか指揮読響。なんと、こちらも完売の人気ぶり。プログラムはリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」、リストのピアノ協奏曲第2番(阪田知樹)、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」(大木麻理)。交響詩の分野においてリストの衣鉢を継いだシュトラウスと、リストに捧げられたサン=サーンスの傑作という、リストをキーパーソンとした好プログラム。開演前に沖澤のどかと阪田知樹のトークが予定されていたが、風邪で喉が不調ということで阪田知樹と読響楽員によるトークに変更。トークの内容もさることながら、阪田さんが司会役までこなしていて立派すぎる。
●「ドン・ファン」、冒頭からビシッと締まった音が出てきた。オーボエは元東響の荒木奏美。サマーミューザの里帰り感。リストのピアノ協奏曲第2番は阪田知樹が本領発揮。トークでもっとも好きなロマン派協奏曲のひとつと話していたが、パワーもキレもあり、音色はきらびやか。オーケストラも存分に鳴らして豪壮。先日のモーツァルトもよかったけど、やはりリストがよく似合っている。そして、リストは第2番がいいと改めて実感。アンコールは一転して繊細華麗。フォーレの歌曲「ネル」を阪田自身の編曲で。淡いノスタルジーを漂わせる旋律が華やかな技巧で彩られる。名技性とポエジーが両立しているのが彼の魅力。この曲って、パーシー・グレインジャーによるピアノ編曲もあるっすよね。
●後半のサン=サーンス「オルガン付き」は緊密でダイナミック。読響の剛のサウンドを生かしつつ、歯切れよく推進力があり、抒情性も豊か。オルガンが聴きものの曲ではあるが、スペクタクル志向にならず、あくまで交響曲としての構築感が大切にされていたという印象。トークで読響のみなさんが沖澤さんのリハーサルが効率的で指示が的確だと話していたが、音からもオーケストラの士気の高さを感じる。
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●パリオリンピックの男子サッカー第3戦、選手6人を入れ替えたニッポンU23は、イスラエルU23相手に試合終了直前の細谷のゴールで1-0で勝利。追加召集の植中(マリノス)が途中出場。これで3連勝でグループ1位で決勝トーナメントに進出したのはいいのだが、準々決勝でいきなりスペインU23と対戦することになってしまった。これはターンオーバーで控え組を出したスペインが、第3戦でエジプトに破れて2位通過になってしまったため。決勝で当たるべき相手だったが、はたして。

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