●アーティゾン美術館の「空間と作品」展へ。これは抜群のおもしろさ。「作品が見てきた景色を探る」と副題が添えられていて、なんだかフワッとしたタイトルだなと思いきや、めちゃくちゃ鋭い視点で組み立てられていて、圧倒されてしまった。
●序盤に出てくるのが、ピカソの「腕を組んですわるサルタンバンク」。この美術館の収蔵品なんだけど(驚くべきことに、この展覧会のほぼすべての作品が収蔵品なのだが)、「作品が見てきた景色を探る」というだけあって、ここでは所有者という観点から作品を見つめ直す。これ、有名な話なんだろうけど、だれが所有していたか、知ってた?
●ワーオ!と思わず声が出てしまいそうになった、この解説パネルを見て。そうじゃん、ホロヴィッツだよ! 放浪する大道芸人を題材としたピカソの絵を、ホロヴィッツが収集していたというのは、なかなか興味深いことであると思うが、それにしてもこのホロヴィッツのおなじみのポーズ。この写真自体が作品のようだ。もうこのコーナーだけでもガツンとやられた気分。
●こちらは古賀春江「素朴な月夜」。かつての所有者は川端康成。床の間に飾ってあったそう。これも有名な話なんだろうけど、おふたりは一時期家も近く、親交があったとか。
●こちらはジョージ・オキーフの「オータム・リーフ II」。こちらの所有者はマイクロソフトの共同創業者ポール・アレンだった。おおー。ホロヴィッツにしても川端康成にしても、芸術家が芸術作品を所有するというパターンだったけど、こちらはIT業界のレジェンド。ポール・アレンはすごいアートコレクションを持っていて、一昨年、遺産のコレクションがオークションにかけられて、約2200億円を売り上げたというニュースがあった。
●こんなふうにアートの所有者としていろんな人物が言及されるんだけど、でもこれらはすべて現在は石橋財団の所蔵品となっているわけだ。財団法人にはゴーイングコンサーンがあるけど、個人はそうではない。いつか作品はだれかの手に渡る。美術館に飾られる絵ばかりを見ていると、絵というものはこんなふうに公共に展示されるものという思い込みができてしまうが、実はそれぞれの作品にヒストリーがあって、だれかの家に飾られていた時代があった。そこに目をつけて、この展覧会ではアートが部屋に飾られた状態でも展示されている。
●たとえば、こんなふうに(これ、手前の椅子に座れるようになってるんすよ!)。この一角だけでもいくつもの作品が飾られていて、ある意味で現実的なんだけど、一方でまったく非現実的なぜいたく空間でもある。こういう作品を家に飾るってどういうことなのかな。まったく現実味がないんだけど、でも絵には「飾る」という本来的な機能が備わっていることを思い出す。たとえそれが歴史的な大家の作品であったとしても。