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September 19, 2024

大井浩明ピアノリサイタル クセナキス「エオンタ」他

●18日は豊洲シビックセンターホールで大井浩明ピアノリサイタル。このホール、たぶん初めて来たけど、豊洲文化センターという江東区の建物のなかにある300席ほどのホールで、客席側に傾斜がしっかりあってなかなかよい。ピアノはファツィオリ。この日の公演は日本・ギリシア文化観光年2024記念事業と銘打たれ、クセナキスを中心としたプログラム。最初にフィニッシーのピアノ協奏曲第4番(ピアノ独奏曲)が演奏され、以降はすべてクセナキスで「6つのギリシア民謡集」「ヘルマ」「エヴリアリ」、休憩をはさんで「靄」「ラヴェル頌」、最後にピアノと金管五重奏のための「エオンタ」。「エオンタ」ではトランペットに高橋敦と服部孝也、トロンボーンに小田桐寛之、伊藤雄太、菅貴登、指揮は大井駿。演出補佐を金剛流シテ方の田中敏文が務める。
●超絶的な難曲の嵐なのだが、とりわけ最初のフィニッシーが血も涙もないウルトラモダンな曲調で、この後にクセナキスを聴くとほっとするほど。初期作品「6つのギリシア民謡集」はバルトークが農村で採集してきた民謡みたいな顔をして始まるのだが、最後は民謡主題を留めながらもモダンなスタイルに変容する。「ヘルマ」と「エヴリアリ」は名曲の趣。「ヘルマ」を形作る集合論的なロジックは知覚できないが、きらめくような無機的な音響の連続から詩情が立ち昇る。久々に聴いた「エヴリアリ」に祝祭性を感じる。全体に、突き抜けるような強靭な打鍵が爽快。
●圧巻はおしまいの「エオンタ」。ピアノを下手に置き、金管五重奏が上手に陣取り、中央に指揮者が立つ配置なのだが、奏者は全員、能のような所作でしずしずと摺り足で登場。来日したクセナキスが能を鑑賞した直後に着想された作品ということから、能の所作を取り入れた模様。金管五重奏は最初は中央で奏し、以後、舞台上手やピアノ脇などに動き回り、視覚的なインパクトも大。明快な指揮があっても全員の同期は至難にちがいなく、アクセル全開で突っ込むコーナリングのようなスリリングさがあるのだが、ユーモアの要素も感じる。苛烈で荒々しい曲想が続いて曲を閉じつつも、後味はさわやか。予想外に晴れやかな気分に浸る。