●アンソニー・ホロヴィッツ著の最新刊、「死はすぐそばに」(山田蘭訳/創元推理文庫)を読む。ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズの第5弾だが、抜群のおもしろさ。よくも毎回、これだけ新味のある趣向を盛り込めるものだと感心するばかり。このシリーズ、探偵役のホーソーンと助手役で記録役でもあるホロヴィッツ(著者自身)がコンビを組むというホームズ&ワトソン以来の古典的なミステリの枠組みを借りながらも、小説としては一種のメタフィクションになっていて、そこが新しい。著者本人が物語の登場人物であるということに加えて、ミステリについてのミステリになっているという二重の自己言及性が肝。今回は高級住宅地でヘッジファンドマネージャーが殺されるのだが、隣人たち全員が被害者を嫌っており、すべての住民に殺人の動機があるという設定。さて犯人はだれかと捜査を進めるのだが、設定自体がアガサ・クリスティーの超名作を想起させる。もちろん同じ結末にはならないはず、と思いながら読み進めてゆくと……。
●軽い驚きは、小説内でいわゆる密室ミステリ的な状況が訪れたところで、著者が密室ミステリ論を述べる場面。
近年になってわたしは、最高の密室ミステリは日本から生まれていると考えるようになった。島田荘司の『斜め屋敷の犯罪』、あるいはこの分野の名手であり、八十編近くもの作品を書いている横溝正史の『本陣殺人事件』をぜひ読んでみてほしい。どちらもすばらしく精緻で鮮やかな作品だ。
まさかアンソニー・ホロヴィッツのミステリを読んでいて、島田荘司や横溝正史が出てくるとは! くらくら。「斜め屋敷の犯罪」、懐かしい。また読もうかな。
●今回はこれまでのシリーズと違って、もう終わってしまった過去の事件を、結末を知らされないまま少しずつ著者が書き進めるという趣向になっている。小説内の過去の時間軸と、著者の現在の時間軸がそれぞれ流れているわけだ。これもとても気の利いた趣向。緻密なんだけど、するすると読める。