●7日は東京文化会館でライアン・ウィグルスワース指揮都響で、シェーンベルクの5つの管弦楽曲(1909年版)、武満徹の「アステリズム」(ピアノ:北村朋幹)、ホルストの組曲「惑星」(女声合唱:栗友会合唱団)というプログラム。ホルストの「惑星」に影響を与えたシェーンベルク作品の間に、武満徹の「星群」を意味する題の曲を挟んでいる。こういうプログラムは楽しいに決まっているのだ。いいオーケストラが演奏すれば「惑星」は確実に楽しいし、これにシェーンベルクや武満で奥行きをもたらすのは妙案。この流れだと、最初のシェーンベルクからすでに星々のきらめきを連想してしまう。武満徹「アステリズム」のために北村朋幹を招くぜいたくさ。輝くような硬質な響き。クライマックスでは大音響が広大な文化会館の空間を満たした。音響を全身に浴びるこの感覚は録音では体験できない。客席の喝采に応えて、ウィグルスワースは武満のスコアを高く掲げた。
●後半のホルスト「惑星」は豪快にオーケストラを鳴らした一大スペクタクル。しかし力づくではなくシャープで澄明なサウンド。バリバリと勢いよく進む。1918年に初演されたこの曲が、天文学的な関心ではなく、占星術への傾倒から生まれていることは、自分でもなんども書いている。が、あくまでそれは作曲者のイメージだ。アポロ計画の時代に少年期を過ごした自分にとって、この曲は空想上の宇宙の旅以外のなにものでもない。作曲年代を考えればむしろ予言的といっていいほど。よく言われるようにこの組曲は実際の惑星の並びと違って火星、金星、水星と始まるわけだけど、地球を出発点とした惑星探査と考えれば最初に火星に向かうことに違和感はない。まずは比較的地球に近い環境の火星に向かい、それから金星、水星へと向かう。おそらく数年単位で内惑星を巡った後、探査機は外惑星に向かうが、ここからぐっと星間距離が長くなる。スイングバイ等をうまく活用できたとしても、外惑星をすべて巡るのは数十年、もしかすると百年を超える旅になるかもしれない。「木星」は長い長い旅路の果てにようやく到着した歓喜と郷愁の音楽。そして「木星」「土星」の曲想は巨大惑星にふさわしく、この組曲でもっともスケールが大きい。だが「天王星」「海王星」になるとあまりに太陽が遠く、極寒の世界はそれぞれの曲調にも表れている。海王星の後、探査機は現実のボイジャーと同じように太陽系を脱出し、慣性飛行を続ける。そこは行けども行けどもなにもない虚無の空間で、何万年かけて進んでも無が続くにちがいない。それを表現するのが女声合唱のフェイドアウト。惑星探査の曲であればアンチクライマックスの音楽になるのは必然だ。
October 8, 2024