●8日は東京文化会館小ホールでピエール=ロラン・エマールのリサイタル。全席完売。Music Program TOKYO プラチナ・シリーズの一公演。エマール得意のミクロコスモス無双といったプログラムで、今回はリゲティの合間にベートーヴェンやドビュッシー、ショパンらが挟まれるというサンドイッチ仕様。つまりパンがリゲティ、具がベートーヴェン、ドビュッシー、ショパンだ。前半のパンはリゲティの「ムジカ・リチェルカータ」。第1曲から第11曲の合間に、具としてベートーヴェンの「11のバガテル」あるいは「7つのバガテル」からのいずれかが挟まれる。「ムジカ・リチェルカータ」は第1曲はほぼラのみの曲で、進むにつれて漸次的に使用する音の数が増えていき、最後に「フレスコバルディへのオマージュ」へたどり着くというストーリーがあるが、それをあえてベートーヴェンが遮る。が、具に相当する曲はパンにマッチするように音型やムードなどなんらかの共通項なり連続性なりが意識された曲が選ばれているらしく、だんだんとパンと具がひとつの味覚に調和してくる。
●後半はパンがリゲティの練習曲、具がショパン、ドビュッシーの練習曲。こちらはリゲティの曲に連続性はないわけで、「悲しい鳩」「妨げられた打鍵」「金属」「ワルシャワの秋」「開放弦」「悪魔の階段」が選ばれていた。エマールは今回も太くて鋭い強靭なタッチだが、以前にも増して気迫を前面に出した演奏ぶりで、「ワルシャワの秋」は壮絶。暗く巨大な音のドラマ。おしまいのリゲティ「悪魔の階段」もカッコよかった。アンコールはリゲティの「3つのバガテル」。これはジョン・ケージ「4分33秒」のパロディってことなのかな。ほぼ無音音楽で3楽章構成(とはっきりわかるように楽譜をめくり、曲想を示す軽いゼスチャーも付ける)。サイン会もあったので、これで立ち上がるお客さんも多かったが、もう一曲、リゲティの練習曲「ファンファーレ」。予定通り、ほぼ21時に終演。全曲、楽譜を置いての演奏で、後半は譜めくりあり。
●色とりどりの小品がひとつにまとめられているのに、色褪せもしなければ型崩れもしない。それがエマールの洗浄力。匂いも汗も落ちて、すっきり。
October 9, 2024