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November 8, 2024

ミューザ川崎でアンドリス・ネルソンス指揮ウィーン・フィル

●7日はミューザ川崎でアンドリス・ネルソンス指揮ウィーン・フィル。ウィーン・フィル来日ツアーの初日。といっても先方は10月下旬から韓国、中国と巡っていて、ずっとツアーが続いている。この日のプログラムはムソルグスキー~ショスタコーヴィチ編のオペラ「ホヴァンシチナ」第1幕への前奏曲「モスクワ河の夜明け」、ショスタコーヴィチの交響曲第9番、ドヴォルザークの交響曲第7番というスラヴ・プロ。昨年は巨漢だったネルソンスが、見ちがえるほどスリムになって登場。身体の動きにキレがあって、音楽にもそれが反映されているように感じるのは、視覚による錯覚なのかどうか。指揮台に丸椅子が置かれていたが使われず。そういえばネルソンスが最初にウィーン・フィルといっしょに来日したときは、まだ痩身の新鋭だった。それが2010年で、ドヴォルザークの「新世界より」を聴いた記憶があるので、今回は14年ぶりの続編というか、伏線回収みたいな感。
●前半、ショスタコーヴィチが抜群の楽しさ。この曲、基本的には独ソ戦を受けての大規模な戦勝交響曲、さらには「第九」的な記念碑的大作……といった周囲の期待を完膚なきまでに裏切ったパロディ的交響曲として聴いているけど、同時に歴史的な文脈を離れて聴けばウィーン古典派交響曲のパロディともみなせる。それをパロディの対象の本家ともいえるウィーン・フィルの演奏で聴けるのが今回の肝。第1楽章、ひときわコミカルな曲想で、しばしばグロテスクにも感じられるところなのに、こんなに端正で優美なサウンドで再現されてしまうと、パロディのパロディみたいな錯綜感が生まれるのが吉。第4楽章のファゴットのソロ、これほど甘美でソリスティックな演奏は、作曲家の想定外にちがいない。フィナーレの歪んだ軍隊行進曲もアイロニーや意地悪さよりも明るさ、爽快さを感じる。
●後半のドヴォルザークの交響曲第7番は、ライブでは意外と聴くチャンスが少ないので、ウィーン・フィルの演奏で聴けてうれしい。第1楽章、いくぶん抑制的な印象があったけど、最後は白熱して豊麗なドヴォルザークに。弦楽器はコントラバスを下手側に並べる対向配置。明るく華やか。第2楽章、こんな曲だったっけ……と聴き惚れる。カーテンコールはあまりくりかえさずに、早めにアンコールへ。ヨーゼフ・シュトラウスのワルツ「わが人生は愛と喜び」という意外な選曲。さらに続けて、ヨハン・シュトラウス2世の「トリッチ・トラッチ・ポルカ」。これは嵐のような爆速で。曲が曲なので、アンコールは本編からがらりと雰囲気が変わる。元気いっぱいの開放感。楽員退出後、すぐにネルソンスが登場してソロカーテンコールに。
●昨秋のウィーン・フィルはソヒエフと来日していたが、そのソヒエフは現在ミュンヘン・フィルと来日中。で、昨秋はネルソンスはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団と来日していた。トップレベルになるとふさわしい人は限られてくるということか。