●12日はサントリーホールでアンドリス・ネルソンス指揮ウィーン・フィル。プログラムはプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番(五嶋みどり)とマーラーの交響曲第5番。演奏会の冒頭でフロシャウアー楽団長がネルソンスと通訳を伴って登場し、小澤征爾追悼のメッセージを述べた。1966年にザルツブルク音楽祭で初めて共演し、ウィーン国立歌劇場では音楽監督を務めたマエストロへの思いを込めて、これよりバッハのアリアを演奏するので、演奏後は拍手を控えて黙祷を捧げたいとの旨。通称「G線上のアリア」が演奏され、その後、拍手なしで全員起立して黙祷。これがまさにウィーン・フィルという弦の響きで、聴き惚れてしまった。本編のプロコフィエフでは五嶋みどりが入神のソロ。全身を使って祈るように音楽を紡ぎ出す。瞑想的な終結部がオーケストラと一体となって絶美。ソリストアンコールとして、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番より第1曲プレリュードを軽快に。プロコフィエフの協奏曲のスケルツォ楽章とつながっているような気がする、無窮動風のところが。
●後半、マーラーの交響曲第5番はネルソンスのマーラーでもあり、ウィーン・フィルのマーラーでもあり。冒頭からテンポが遅く一歩一歩踏みしめるように進む。先日のソヒエフのブルックナーほどではないにしても、重く巨大な音楽。この曲、大昔にマゼールとウィーン・フィルが来日公演で演奏して、そのFM放送のエアチェック音源が自分の刷り込みになってしまっているのだが、あの華麗さとはまったく違って、ネルソンスが描き出すのは苦悩に満ち、運命に抗う魂のマーラー。第1楽章と第2楽章はもともと闘争的な音楽だが、第3楽章も舞踊性は希薄で重力強め。アダージェットは官能的な愛の音楽というよりは、むしろ儚い喪失の音楽に聞こえる。それでも終楽章は荘厳壮麗なフィナーレになる。嵐のような激情の奔流をウィーン・フィルの豊麗な響きが上書きして、輝かしい結末に至る。大喝采とカーテンコールの後、ネルソンスのソロ・カーテンコールに。
●先日の川崎公演では指揮台に丸椅子があったが、この日は指揮台の脇に置かれていた。使用されず。ネルソンスがスリムであることにもう驚かない。会場ではウィーン・フィル来日記念グッズが販売されていた。トートバッグとかTシャツとか。どれどれ、フロシャウアー楽団長のアクスタはあるかな~(ありません)。
November 14, 2024