●24日はミューザ川崎でサイモン・ラトル指揮バイエルン放送交響楽団。全席完売。前回はロンドン交響楽団の音楽監督として来日していたラトルが、バイエルン放送交響楽団の首席指揮者として来日。ベルリン・フィルの後のキャリアがこんなふうに続くとは。プログラムはベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番(チョ・ソンジン)、ブルックナーの交響曲第9番(コールス校訂版/3楽章)。チョ・ソンジンを聴いたのはかなり久しぶりだけど、ショパン・コンクールの優勝以後、大ピアニストへの道を着々と歩んでいるのだなと実感。風格と機敏さを兼ね備えたベートーヴェンで、彫りの深い表現だけど、決してロマンに傾かない。澄明な音色や繊細な弱音表現に加えて、確たるダイナミズム。オーケストラの編成は小ぶりだが音に厚みがあり、強靭でシャープ。ピアノと指揮とオーケストラがひとつになって音楽を紡ぎ出しているといった様子。ソリスト・アンコールは意外というか、納得というか、ウィーン時代初期のベートーヴェンの師であるハイドンのピアノ・ソナタ第53番ホ短調(第34番 Hob. XVI:34)の第3楽章。この曲、少しシューベルトっぽい(順序は逆だけど)。
●ブルックナーではバイエルン放送交響楽団が底力を発揮。豊かで重厚な響きがあまりにすばらしくて聴き惚れてしまう。オーケストラ芸術の最高峰といいたくなる水準。厚みがあっても、ラトルのブルックナーは推進力があり、もっさり感ゼロ。凛々しいブルックナーで、深遠ぶらないのが吉。ラトルは以前、ベルリン・フィルでこの曲の第4楽章補筆完成版をとりあげていたけど、今回は第3楽章のみ。とはいえ、もはやこの曲の第3楽章を聴いて、「平安の内に終わった」と感じることは難しい。終結部の前の不協和な叫びは壮絶。この混沌はその先に続くべき楽章の存在を強く求めている。演奏が終わると、満席のミューザに完璧な静寂が訪れた。ラトルが腕を下ろしてから大喝采に。カーテンコールで出てきたラトルが「えっと、このままじゃナンなんで、第4楽章補筆完成版をアンコールでやっちゃいます!」って言わないかな~と妄想したが、もちろんそんなことはありえない。現実のラトルは聴衆とホールを称えるような仕草をくりかえした。団員退出後も拍手は止まず、ラトルのソロ・カーテンコールに。忘れがたい一夜。
November 25, 2024