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November 28, 2024

フェスティヴァル・ランタンポレル レ・ヴォルク弦楽三重奏団 et 上野由恵 ベートーヴェン&マヌリ

フェスティヴァル・ランタンポレル●27日は東京文化会館の小ホールへ。野平一郎東京文化会館音楽監督のプロデュースにより立ち上げられた新しいプロジェクト「フェスティヴァル・ランタンポレル」の一公演。このプロジェクトのコンセプトは現代と古典のクロスオーバー。現代音楽の公演は聴衆がすっかり固定的になっているし、古典の公演は同じレパートリーの反復になりがちということで、両者を横断するような音楽祭を開きたいというのが趣旨。同様の狙いを持つフランスのニームのレ・ヴォルク音楽祭、およびIRCAMとの連携で、11月27日から12月1日まで開催される。今回は「ベートーヴェン&フィリップ・マヌリ」と「シューベルト&ヘルムート・ラッヘンマン」という組合せが軸。
●で、この日は「ベートーヴェン&フィリップ・マヌリ」。前半がマヌリの「パルティータI ヴィオラとエレクトロニクスのための」、後半がマヌリの「Silo アルトフルートとヴィオラのための」と「ジェスチャー 弦楽三重奏のための8楽章」、ベートーヴェンの弦楽三重奏曲ハ短調Op.9-3。演奏はレ・ヴォルク弦楽三重奏団(ヴァイオリン:オード・ペラン=デュロー、ヴィオラ:キャロル・ロト=ドファン、チェロ:ロビン・マイケル)、アルトフルートの上野由恵、前半のエレクトロニクスが今井慎太郎、サウンド・ミキシングがフィリップ・マヌリ本人。まあ、こういうマヌリ中心のプログラムなので、客席の雰囲気は現代音楽の公演そのものって感じではあるが、おそらくこの日がもっとも現代音楽寄りで、ほかの日はもう少し古典寄りの客席になるはず。
●前半の「パルティータI ヴィオラとエレクトロニクスのための」は45分くらいある長大な作品。ヴィオラの独奏に対して、これをエレクトロニクスで増幅、変調したサウンドが重なり、追随する。全体は9つの部分からなるというのだが切れ目は明確ではなく、文脈が希薄で、周期的な拍もないので聴きづらいタイプの作品ではあるのだが、部分部分あるいは瞬間瞬間の響きのおもしろさがあるのでそこまで長さは感じない。しばしば瞑想的で、エレクトロニクスにはエレクトロニクスの詩情があるということも感じる。
●後半は弦楽三重奏という編成が描くマヌリとベートーヴェンのコントラストが鮮やか。マヌリの「ジェスチャー」は抑制的な身振りの小曲が集まったミクロコスモス的な曲集。この後、奏者がそれぞれピリオド楽器に持ち替えてベートーヴェンを演奏したのだが、ベートーヴェンが始まったとたんにがらりと世界が変わる。それまでは巨大なキャンバスを使って自由にあちこちに絵を描いていたのが、ギュッとカンバスのサイズが小さくなって、そこにみっちり稠密な絵が描かれていて、密度が爆発的に高まっているみたいな感じだ。本来なら自分にとってずっとなじみ深いはずのベートーヴェンが異質な世界のように感じられるのがおもしろいところ。アンコールでふたたびマヌリの「ジェスチャー」の終楽章。キレッキレ。
●冒頭でこの音楽祭のナビゲーター役を務める沼野雄司さんのトークがあった。後半途中では沼野さんと野平さんのトークも。これがあるとないでは大違いで、現代作品を多くの人に聴いてもらうには必須なんじゃないかな。沼野さんのトークは明快かつ親切で、大いに助けになった。こういったトークに必要なのは曲目解説ではなく、事前に「目線を与える」ってことなんだなと納得。