●3日はサントリーホールで鈴木優人指揮読響。前半がベリオのシンフォニア、後半がモーツァルトのレクイエム(鈴木優人補筆校訂版)で、ベルリンRIAS室内合唱団、ジョアン・ラン(ソプラノ)、オリヴィア・フェアミューレン(メゾ・ソプラノ)、ニック・プリッチャード(テノール)、ドミニク・ヴェルナー(バス)が招かれるというデラックスなプログラム。きわめて濃密な一夜。ベリオは来年が生誕100年、モーツァルトは2日後が命日だったので、ダブル「一足早い」プロでもある。
●ベリオのシンフォニア、録音では早くに出会った曲だけど、ライブでは聴いたことがあったかどうか……。実際に聴いてみてずいぶん印象が改まった。全5楽章からなり、真ん中の第3楽章が多数の楽曲を引用した高密度コラージュ楽章。前半、いろんなテキストの引用があるが(ソリストはベルリンRIAS室内合唱団メンバー)、もともと言葉がわからないし、きっとわかっても聴きとれないし意味も理解できない。第3楽章になるとマーラー「復活」第3楽章というはっきりした下敷きのうえで、次々といろんな曲の断片があらわれて、同様にかなりのところは聴きとれないし、即座に意味を考える余裕もない。わかりやすいのはドビュッシー「海」、ラヴェル「ラ・ヴァルス」、ベルリオーズ「幻想交響曲」、ストラヴィンスキー「春の祭典」といったところだが(たまたまなのかフランス系の音楽ばかりだけど)、ほかにもいっぱいある。近接的に眺めると引用の集積だけど、遠目に見るとひとつの作品としての形が浮かび上がってくる。そういう意味では絵画的かも。ざっくり大雑把に感じたのは、前半は豊麗な歌の音楽、後半は熱を帯びたスリリングな音楽。とくにおしまいの部分、宙に消える一点に向かって驀進する感じは得難い体験。客席は大喝采。カーテンコールで音響の有馬純寿さんも呼ばれてステージに上がる。
●後半はぐっと音像がコンパクトになってモーツァルトのレクイエム。すっきりと清新な管弦楽にベルリンRIAS室内合唱団の柔らかく温かみのある声が重なる。合唱団は33名かな。声が芳醇というか、色が濃い。鈴木優人補筆校訂版は従来からのジュスマイヤー版をベースにしつつ、随所に違いがある模様。ジュスマイヤー版に存在しないのは、「ラクリモーサ」の後の「アーメン・フーガ」。これは1962年に発見されたモーツァルトのスケッチをもとにしたフーガ。このスケッチを使う例はこれまでの補筆例にもあったとは思うが、モーツァルトの主題がけっこう特徴的で、虚ろというか漂泊するような雰囲気があって全曲のなかでアクセントになっている。ジュスマイヤー版に慣れてしまうと「ラクリモーサ」のおわりからサッと駆け抜けるように「ドミネ・イエス」に入るものと思い込んでしまうが、ここにフーガが入ると一区切りできる。もともと高いフーガ密度がいちだんと高まって、堅牢さを感じる。演奏終了後、盛大な喝采に続いて独唱陣も合唱に加わって、モーツァルト「アヴェ・ヴェルム・コルプス」。ぜいたくなアンコール。
December 4, 2024