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December 10, 2024

パトリツィア・コパチンスカヤ&カメラータ・ベルン

●8日は彩の国さいたま芸術劇場音楽ホールでパトリツィア・コパチンスカヤ&カメラータ・ベルン。久々の与野本町。プログラムはパトコップ(=コパチンスカヤ)の「怒り」(2012)、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ニ短調、シューベルトの弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」(コパチンスカヤ編/弦楽オーケストラ版)。期待通り、コパチンスカヤ色が全開になったエキサイティングな公演だった。一曲目はコパチンスカヤ自身の作品で「怒り」。作曲家名がパトリツィア・コパチンスカヤの愛称ということなのか「パトコップ」と記されているのは、どういうキャラ設定なんだろう。叫びや感情の爆発を写し取ったような曲想に、発話的あるいは対話的な部分が挟まれる。ふっと宙に消えるように終わると、そのまま続けてメンデルスゾーンへ。この展開は劇的。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲といっても有名なホ短調ではなく、弦楽器だけで演奏できるニ短調。冒頭部分から疾風怒濤期のハイドンを連想させる。目まぐるしい感情の変転はエマヌエル・バッハ的とも。コパチンスカヤもカメラータ・ベルンも鋭く峻烈で、メンデルスゾーンを再創造するかのよう。
●たぶん、この曲、有名な「メンコン」のほうだと思い込んで足を運んだ人もいたはずで、相当びっくりしたのでは。「メンコン」と区別するためになにか愛称が必要だと思う。たとえば、発見者にちなんでヴァイオリン協奏曲「メニューイン」と呼ぶとか?
●後半のシューベルト「死と乙女」はコパチンスカヤを含めて弦楽器4-4-3-2-1の編成。これも壮絶。奏者全員が一丸となってメガ・コパチンスカヤ化している。ノンヴィブラートをベースとした乾いた音色で、切れ込み鋭く、ダイナミクスの幅が大きい。激烈なアッチェレランドもあれば、消え入るような最弱音も駆使する奔放自在のシューベルト。第4楽章でコパチンスカヤの楽器の弦が切れたようで、即座に隣の奏者と楽器を交換して弾き続けた。楽器を交換された奏者はしばらくその場にたたずみ、頃合いを見て袖に下がって、最終盤に復帰、ふたたびコパチンスカヤと楽器を交換。ただでさえスリリングな演奏に、別のスリルが加わった。
●客席の大喝采と歓声にこたえて、アンコールにバルトークのルーマニア民俗舞曲より。爆発的な盛り上がりで、本来ならこれでおしまいだったと思うのだが、この日はNHKの収録が入っていた。コパチンスカヤが登場して、NHKのために「死と乙女」の終楽章をもう一回演奏するけどいいかなー的なアナウンスをして、もう一度。これが「撮り直し」っぽくならないように、ふたたび渾身の演奏をしてくれたのだが、客席側の雰囲気はだいぶリラックスしたムードになっていたかも。アクシデントのおかげでアンコールを2曲も聴けたのはお得。