●毎年12月上旬はコンサートラッシュになりがち。これは12月後半のオーケストラ公演が「第九」一色になるため、それ以外の通常公演が前倒し気味になることによる「年末進行」なんだと思っている。
●で、9日は東京オペラシティでパーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィル。パーヴォはこの楽団の芸術監督に就任して20周年を迎えたのだとか。今の時代にこの継続性は立派というほかない。しかも、継続的に来日公演を行ってくれて、毎回が新鮮。今回のプログラムは前半がシューベルトのイタリア風序曲(第2番)D591、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲(樫本大進)、後半がモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」。本来ならヒラリー・ハーンがソリストを務める予定だったが、体調不良により樫本大進が代役として登場。ヒラリー・ハーンを聴けなかったのは残念すぎるが、しかし代役に樫本大進はびっくり。ブレーメンの室内オーケストラの来日公演に、ベルリン・フィルのコンサートマスターがソリストとして出演しているわけだ。
●シューベルトのイタリア風序曲、イタリア風というかロッシーニ風なわけだが、陰キャが陽キャを装ったようなところがあって、陽気で軽快なのにたまにシューベルトの地が垣間見える雰囲気が楽しい。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲では樫本大進が堂々たるソロ。輝かしく、流麗。オーケストラはHIPなスタイルで、ゴツゴツした手触りがあり、組合せの妙味。アンコールにバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番よりラルゴ。
●後半が「ジュピター」のみなので、前半が重いプログラムだと思っていたら、この「ジュピター」がすごかった。パーヴォらしい引き締まったサウンドでぐいぐいと進むのだが、練り上げられた解釈で随所に仕掛けが満載。小編成ならではの機動力があり、管楽器の各パートがとてもよく聞こえる。最大の聴きどころ、終楽章のコーダでは高解像度の混沌が祝祭性を生み出す。実のところ、「ジュピター」は演奏頻度が高いわりに満足できる演奏にはめったに出会えないのだが、この日の演奏はこれまで記憶にないほどスリリングで、高揚感にあふれていた。
●アンコールにこのコンビの定番、シベリウスの「悲しきワルツ」。とことん磨き上げられた十八番。超絶ピアニッシモを駆使しながら幻想の世界へ誘う。客席の反応もよかったのだが、なぜかソロ・カーテンコールにならず。
December 11, 2024