●今週は「第九」ウィーク。18日はNHKホールでファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団によるベートーヴェンの交響曲第9番。この日は一曲のみのプログラムなので遅刻しないように早めに行く。会場もNHKホールだとしっかり確認(先月、うっかりまちがえて遅刻しそうになった)。テレビ中継あり。
●コンサートマスターに篠崎史紀、その隣に郷古廉のそろい踏み。第1楽章冒頭から気迫のこもった音が出てくる。ルイージは速めのテンポを基調にぐいぐいとオーケストラを引っ張る。第2楽章も同様で集中力が高く、引きしまった「第九」。第3楽章に入ると空気が一変して、開放的で清澄な音楽に。第4楽章ではソプラノのヘンリエッテ・ボンデ・ハンセン、メゾ・ソプラノの藤村実穂子、テノールのステュアート・スケルトン、バス・バリトンのトマス・トマソンの独唱陣が登場。合唱は新国立歌劇場合唱団。100名近くいたと思うが、NHKホールだとそう大勢には見えない。推進力があり、熱気にあふれたフィナーレを築く。力強い幕切れからすぐに盛大なブラボーの声があがり、大喝采に。
●前日の読響から二晩続けて、新国立劇場合唱団の「第九」を聴いたことになる。この日の合唱指揮は冨平恭平。前日の合唱指揮は水戸博之。人数もだいぶ違う。
●今年、N響の「第九」は6公演あり、5公演がNHKホール、1公演がサントリーホールで開催される。N響だけでも2万人近くの人が「第九」を聴くことになる。これはものすごいこと。
●「運命」と「田園」のように、ベートーヴェンは交響曲を2曲セットで構想する傾向がある。「第九」にしても、当初、ロンドン・フィルハーモニック協会はベートーヴェンに2曲の新作交響曲の作曲と渡英を依頼しているので、第9番と第10番がセットで書かれてロンドンで初演される歴史線がありえたわけだ。そんなことから「失われた交響曲第10番」というテーマはしばしばフィクションの世界の題材になる。以前にも紹介したがリチャード・クルーガーの Beethoven's Tenth (ベートーヴェンの「第十」/未訳)では、ベートーヴェンの交響曲第10番「ウィリアム・テル」の楽譜を巡る真贋論争がくりひろげられるという。ベートーヴェンの行動記録が乏しい1814年夏の2か月に、耳の治療のために密かにチューリッヒを訪れ、そこで交響曲第10番「ウィリアム・テル」を作曲した記録が見つかるという設定。これはなかなかおもしろいアイディアではないだろうか。つまり「第九」がシラーの「歓喜の歌」なのだから、「第十」はシラーの「ウィリアム・テル」でシラー2部作になる、というわけだ。今年は新国立劇場でロッシーニ「ウィリアム・テル」の原語日本初演があったので思い出した。Beethoven's Tenth、どこかで翻訳してくれないだろうか。
December 19, 2024