●バーミンガム市交響楽団の来日公演に向けた山田和樹記者会見の翌日、同じくサントリーホールで山田和樹指揮日本フィル。エルガーの行進曲「威風堂々」第1番、ヴォーン・ウィリアムズの「揚げひばり」(周防亮介)、エルガーの交響曲第2番というイギリス音楽プログラム。金土の二日公演で、金曜夜は少し空席があったが、土曜の公演は完売だそう。
●前半のエルガーとヴォーン・ウィリアムズはどちらも超有名曲だけど、オーケストラの定期公演ではほとんど聴くチャンスのない曲。いきなり「威風堂々」第1番でハイテンションな幕開け。きめが細かく整然としたサウンドで格調高く、推進力も十分。終盤でまさかの仕掛けが。山田和樹が指揮台に隠されていたスレイベル(鈴)を取り出し、これを高々と掲げて鳴らす(昨年末の井上道義ラストコンサートのシンバルを思い出す)。客席に向いたところでドッと沸いて手拍子が始まるかと思いきや、ぜんぜん始まらない。プロムスばりのお祭りモードを予期していなかった客席はついこれなかった。ごめん、指揮台で一人旅をさせてしまって。なんというか、「フリ」が欲しかった気も。おしまいの部分は曲が終わる前に客席を煽って拍手を引き出した。前日の記者会見で「拍手は指揮者が手を下ろしてからにしましょうみたいなアナウンスが嫌いなんですよ」と語っていたが、これはよくわかる話。状況によって、曲が終わるより早く拍手が沸き起こるほうが自然なこともあれば、完全な沈黙がふさわしい場合もあるので、一律にルールで縛るとおかしなことになる、ということなんじゃないかな。
●ヴォーン・ウィリアムズの「揚げひばり」では周防亮介が入神のソロ。これだけのソリストを招いて「揚げひばり」一曲だけという超ぜいたくプログラム。この曲、ひばりがのびのびと大空を飛翔する様子を描いた心地よい曲というシンプルなイメージで聴いてしまいがちなのだが、周防のソロは張りつめた緊張感に貫かれ、真摯な祈りの音楽といった様子。たしかにそうなのだ。40代の作曲者が志願兵となって第一次世界大戦に従軍した後で完成させた曲であるのだから、ひばりを見上げて感じる思いはそういうものであるべきだろう。さすがにソリスト・アンコールがあって、パガニーニの英国国歌「ゴッド・セイブ・ザ・キング」の主題による変奏曲。アンコールも英国テーマでそろえてくれた。キレッキレの超絶技巧が炸裂。鮮やか。客席は大喝采。
●後半はエルガーの交響曲第2番。オーケストラの音色、特に弦楽器がエルガーにふさわしい香気を放ち、端正ながらもロマン的な情感も十分。とりわけ内省的な第2楽章は見事。終楽章の満たされない想いが噴出したような音楽もすばらしい。近年に聴いた日フィルでは一二を争う感銘の深さ。この曲ってエルガーならではのノビルメンテの音楽ではあるけど、同時に悲しみとか情念とかユーモアとか諦念とか、いろんなものが混ざり合っているところに魅力を感じる。以前、サイモン・ラトルがロンドン交響楽団と来日してこの曲を演奏した際、「エルガーがもしウィーンに生まれていたら、きっとマーラーになっていた」と話していたのを思い出す。
January 20, 2025