●26日は新国立劇場へ。この日、午後に来シーズンのラインナップについて記者発表会があった。で、夜は同劇場「カルメン」があったので、丸一日、初台で過ごすことに。間の時間帯はおもにデスクワーク。新調したモバイルPCがさっそく役立った。記者発表会の様子についてはまた後日書くけど、新演出はベルクの「ヴォツェック」とリヒャルト・シュトラウスの「エレクトラ」。ざっくりした印象を一言でいえば、新演出はハード、再演はソフト。ゴリッとふわっ。
●で、夜はアレックス・オリエ演出によるビゼー「カルメン」。これは演出がとてもよくできている。21年に初演されたプロダクションだが、そのときはコロナ禍による制約がいろいろとあって(キスシーンNGとか)、100%の状態ではなかった。それが今回、演出家も来日して万全の形に。結果として、再演なのに初演よりも解像度が高いというか、情報量が多いプロダクションになっていた。舞台設定は現代の日本。兵隊たちは日本の制服を着た警官だ。ドン・ホセは私服なので刑事なのかな。兵隊の行進をまねする子どもたちは、いかにも日本の学校らしい制服を着ている。舞台上にはロックコンサートで使われているような鉄パイプで組み立てられたステージが設置されている。タバコ工場は出てこない。カルメンは女工ではなく、バンドのボーカリストなのだ。歌詞はそのままなので、多少、齟齬が生じる部分も出てくるが、そこは許容範囲。新味があって説得力もある。設定を置き換えて現代的な物語になっているが、音楽を捻じ曲げるようなものではないので、広く受け入れられる演出。「カルメン」初見の人でもぜんぜんオッケー。衣裳もすばらしい。
●第4幕の闘牛場の場面、レッドカーペットが敷かれて、そこにいろんなセレブっぽい人たちが次々とあらわれて喝采を受ける。これはスマート。今どき、馬の作り物に乗って順番に闘牛士たちが出てくるわけにもいかない。エスカミーリョはちゃんと闘牛士の扮装で歩いて出てくる。ラストシーン、凶行に及んだホセのもとに観衆が集まってくるのではなく、だれも来ない。孤独。こうしてみると、凶悪ストーカー以外の何者でもないホセ……。
●歌手陣はカルメンがサマンサ・ハンキー。歌唱は濃厚で重く、自分のカルメンのイメージからは遠いのだが、体当たり的な演技は立派。ホセはアタラ・アヤン。声も演技も役柄にふさわしい。エスカミーリョにルーカス・ゴリンスキー。ミカエラの伊藤晴が好演。いちばん拍手をもらっていたのでは。ガエタノ・デスピノーサが東響を指揮。ときに予想外に加速したり、ためが入ったりして自在。軽快というよりは重め。
●客席に20代と思しき若者たちをたくさん見かけた。
●カルメンは自由な女。そう自分でも言ってるけど、まったく自由に見えないんすよね。密売の悪事を働くにしても男たちのプランのなかで端役を務めるだけ。自律性がない。全世界が故郷って歌ってるけど、別の言い方をすれば、どこにも故郷がない。だって、ジプシーだし。その崖っぷち感が、ホセみたいな気質の男にはこたえられないんだと思う。
February 27, 2025