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2025年3月アーカイブ

March 30, 2025

フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2025 ラインナップ記者発表会

フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2025 ラインナップ記者発表会
●少し遡って25日、ミューザ川崎の市民交流室でフェスタサマーミューザ KAWASAKI 2025 ラインナップ記者発表会。登壇者は写真左より、廣岡克隆東京交響楽団専務理事・楽団長、望月正樹日本オーケストラ連盟専務理事、オルガニストの松居直美ホールアドバイザー、福田紀彦川崎市長、ピアニストの小川典子ホールアドバイザー、ピアニスト・ヴォーカリスト・作編曲家の宮本貴奈ホールアドバイザー。こうして記者発表会に出席すると、チーフ・ホールアドバイザーだった秋山和慶さんの不在を感じずにはいられない。全18公演からなるフェスタサマーミューザ KAWASAKI 2025のラインナップが発表された。
●中心となるプロ・オーケストラの公演では、首都圏10団体に加えて今年は九州交響楽団が招かれる。首席指揮者の太田弦の指揮でショスタコーヴィチの交響曲第5番他。なにせ遠方なので、首都圏で聴ける機会は貴重。ホスト・オーケストラとも言うべき東京交響楽団は、オープニング、フィナーレ、出張サマーミューザ@しんゆり!の3公演で、それぞれジョナサン・ノット、原田慶太楼、ユベール・スダーンが指揮。ノットのオープニングコンサートで、ワーグナー~マゼール編のニーベルングの指環管弦楽曲集「言葉のない指環」が演奏されるのが楽しみ。原田慶太楼指揮のフィナーレはニールセンの「不滅」ほか、意欲的なプログラム。期待の若手指揮者たちも目をひく。都響を熊倉優、N響を松本宗利音、九響を太田弦が振る。
●オーケストラ公演以外では、今年も小川典子のこどもフェスタ2025「イッツ・ア・ピアノワールド」や、徳岡めぐみのオルガンに隠岐彩夏ら声楽陣が加わる「真夏のバッハⅩ」、宮本貴奈らの「サマーナイト・ジャズ」など。

フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2025 キービジュアル
●21回目を迎えてキービジュアルが一新された。浮世絵とクラシックを組合わせたイラスト。新キービジュアルにちなんで、期間中に浴衣で来場すると特製ステッカーがもらえるそう。

March 28, 2025

ベルチャ・クァルテットのシェーンベルク&ベートーヴェン

トッパンホール ベルチャ・クァルテット
●27日はトッパンホールへ。この日はベルチャ・クァルテットが登場。コリーナ・ベルチャ、カン・スヨン(以上ヴァイオリン)、クシシュトフ・ホジェルスキー(ヴィオラ)、アントワーヌ・レデルラン(チェロ)。プログラムは前半がシェーンベルクの弦楽四重奏曲第1番、後半がベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番。どちらも切れ目のない長大な楽曲。シェーンベルクは全体で45分程度で、規模としては「ペレアスとメリザンド」を聴くのと変わらない。後期ロマン派のスタイルと無調の中間地点みたいな作品。すさまじい熱量に圧倒される。「ペレアスとメリザンド」はストーリー性があるから場面場面をつなぎ合わせた音楽として聴けるけど、この曲で形式感や構造を手掛かりに楽しめるかというと微妙なところ。これも場面場面の音楽として聴いた気がする。
●後半、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番は前夜のエベーヌに続いて、キレッキレのエクストリーム・ベートーヴェン。切れ味の鋭さ、柔軟さ、精緻さ、パワー、表現の引き出しの多さ、推進力など、ほとんど人外魔境の域。作品の性格の違いもあるけど、前夜と比べると「遊び」を感じるのと、重い響きが効果的に用いられていたのが印象的。放心してこれで十分だとも思ったけど、アンコールがあって、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第3番の第3楽章、さらにベートーヴェンの弦楽四重奏曲第16番の第3楽章。ショスタコーヴィチは本編以上に切れ味鋭く爆発的だったのだが、これで終わるのはなんだかな……と思ったら、ベートーヴェンの第16番で平安をもたらしてくれた。
●些末なことなんだけど、オフィシャルな日本語表記が「エベーヌ弦楽四重奏団」と「ベルチャ・クァルテット」。並ぶとどっちかに統一したくなるけど、そうもいかないか。自分としては「カルテット」がいちばん自然な日本語だと思うんだけど、人気がない。Tokyo String Quartet の表記は「東京クヮルテット」だった。最近、さすがに小さい「ヮ」はあまり使われない。

March 27, 2025

エベーヌ弦楽四重奏団のベートーヴェン、トッパンホールの記者会見

●26日はトッパンホールでエベーヌ弦楽四重奏団。トッパンホールはこの日から3夜連続のカルテット祭りで、26日がエベーヌ弦楽四重奏団、27日がベルチャ・クァルテット、28日がエベーヌ弦楽四重奏団とベルチャ・クァルテットの共演による八重奏となっている。最高峰のクァルテット2団体の登場とあって、3公演とも全席完売。
●で、エベーヌ弦楽四重奏団のプログラムはベートーヴェンの弦楽四重奏曲第1番、ブリテンの「3つのディヴェルティメント」、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番(大フーガ付き)。最初のベートーヴェンからキレッキレの四重奏に圧倒される。彩度とシャープネスの目盛りを最大に振ったような鮮烈さ。しかし強靭一辺倒ではなく、ニュアンスに富んだ柔軟さもあって、表現の振幅が大きい。メンバーはピエール・コロンベ、ガブリエル・ル・マガデュール(以上ヴァイオリン)、マリー・シレム(ヴィオラ)、岡本侑也(チェロ)。事前に知ってはいたけど、あのエベーヌに日本人奏者がいる様子は、マンチェスターユナイテッドの一員に香川真司を見たくらいのインパクトがある(←たとえが古い)。響きの質という点では、ほかの3人の獰猛なくらいのアグレッシブさとはひと味違って、チェロがエレガンスと歌の要素をもたらしていたと感じる。
●ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第1番、この曲がこんなに鋭く巨大な音楽として奏でられることを作曲者は予見できただろうか。第2楽章はヨルゴス・ランティモス監督の奇怪な映画「ロブスター」のテーマ曲とでもいうべき悲哀の音楽。ブリテンの「3つのディヴェルティメント」は初演の失敗でお蔵入りになった初期作品。ウィットに富んだ曲だと思うが、1936年時点のロンドンの聴衆にはスパイシーすぎたのかもしれない。メインプログラムのベートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番は終楽章に大フーガを置いて演奏。すさまじい集中力で、壮絶。すごすぎて、軽く鬱になりそうなくらい(あまりに強烈な演奏を聴くとそういう感情がわくのは自分だけ?)。

トッパンホール 西巻正史プログラミング・ディレクター
●で、先週、21日にトッパンホールで2025/26シーズン主催公演についての発表を中心とする記者会見があった。笹野浩樹支配人の挨拶に続いて、西巻正史プログラミング・ディレクター(写真)がラインナップを紹介。フォーレ四重奏団を中心とする5夜にわたる室内楽フェスティバル、ハーゲン・クァルテットの最後の活動となりそうな全5公演の「ハーゲン プロジェクト フィナーレ」、キリル・ゲルシュタインと藤田真央のデュオ、ベルリン古楽アカデミー、アンナ・プロハスカ with ジョヴァンニ・アントニーニ指揮イル・ジャルディーノ・アルモニコなどなど、開館25周年を迎えて充実のラインナップ。
●ちなみに4月1日から、ホール名の表記が「TOPPANホール」になるそう。TOPPANのグループブランド統一の観点から変更されるという。口頭ではなにも変わらないわけだが、表記は変わるということで媒体側では気を使うところ。

March 26, 2025

ニッポンvsサウジアラビア@ワールドカップ2026 W杯アジア最終予選

ニッポン!●25日はニッポンvsサウジアラビア戦。埼玉スタジアムで開催、DAZNで観戦。今週の代表ウィークはホーム2連戦ということで、勝点の稼ぎ時。とはいえ、先日のバーレーン戦でW杯出場権を早々に獲得したため、このサウジアラビア戦は微妙な位置づけの試合になった。勝ったほうがいいことはいいが、この後、みんな所属クラブに戻ることを考えると、無理をすることはないという空気もあったかも。5-4-1で徹底して守りを固めるルナール監督のサウジアラビアに対して、ニッポンは慎重に戦ってスコアレス・ドローに終わった。
●序盤、この日トップを務めた前田大然が決定機を迎えたが、バーを惜しくも叩く。このあたりはボールもよく回っていた。相手のディフェンスラインが深かったので、後ろでは余裕を持ってボールを持てる。サウジアラビアは選手のコンディションがあまりよくなく、得意のカウンターアタックの切れ味ももうひとつ。この展開だと前半を無失点で済ませても、後半になると疲労から守備のバランスが崩れて失点するというのがよくあるパターン。が、後半のサウジはコンパクトな陣形を保って膠着状態を作り出す。がまん比べのような展開で、進むにつれてゴールの気配がなくなり、お互いに大きな見せ場を作れないまま笛。サウジくらいのレベルの相手が割り切って守りに徹すると、そうそう点は取れない。むしろ、これくらい守られても、けっこうニッポンは工夫して崩そうとしていて(鎌田の縦パスとか)、一昔前より進歩している。サウジはルナール監督の作戦が的中したように見えるけど、実のところ、むしろ勝点1を取れたのはラッキーだったんじゃないかな、とすら感じる。
●ニッポンは前の試合からかなりメンバーを変えた。GK:鈴木彩艶-DF:高井幸大、板倉滉、伊藤洋輝-MF:菅原由勢(→伊東純也)、遠藤航(→旗手怜央)、田中碧、中村敬斗-久保建英(→堂安律)、鎌田大地(→南野拓実)-FW:前田大然(→古橋亨梧)。高井幸大は川崎所属で唯一の国内組。若いけど落ち着いている。前田大然のトップはかなり効果的。左サイドはドリブラーの中村敬斗だったが、右にはサイドバック調の菅原由勢を使って少し守備のバランスをとった。菅原の鋭いクロスは魅力。ベンチにはかねてより「将来の代表候補」とみなしてきた藤田譲瑠チマも入っているのだが、選手層が厚く、なかなか出番は来ない。

March 25, 2025

アンドラーシュ・シフ&カペラ・アンドレア・バルカ

アンドラーシュ・シフ カペラ・アンドレア・バルカ
●21日はミューザ川崎でアンドラーシュ・シフ&カペラ・アンドレア・バルカのオール・バッハ・プログラム。90年代末にシフの仲間たちによって創設されたカペラ・アンドレア・バルカだが、すでに2026年をもって活動を終了することが発表されており、これが最後の来日公演。メンバーの多くはシフとともに年輪を重ねてきたベテラン奏者たちだが、一部、若い奏者も入っている。弦楽器のみの編成で、サイズは98542、かな(一部よく見えなかったので違ってたらごめん)。コントラバス2を左右に分けて配置するスタイル。みんなでシフを囲む会、みたいな雰囲気だ。室内楽的な親密なアンサンブル。
●プログラムはバッハのピアノ協奏曲(と便宜上呼ぶ)を6曲。前半に第3番、第5番、第7番、第2番、後半に第4番、第1番。6曲を半々にわけるのかと思っていたら、前半が長い。これはアンコールがあるということか。近年、バッハの協奏曲を通常のオーケストラ公演で聴く機会はほぼないので、単純に演奏を聴けるだけでもうれしいのに、これがシフと仲間たちの円熟のアンサンブルとなれば言う事なし。肩の力が抜けた、しかし弛緩のないバッハ。滋味豊かで、温かみがあり、どの曲にも音楽の愉悦があふれている。明快で端正。シフの基本スタイルは昔から変わっていないように感じる。もっとも喜びにあふれた第4番の後、峻厳な第1番で終わる。
●アンコールはなにを弾くのか、予想がつかなかった。ピアノ協奏曲にはほかに第6番(原曲はブランデンブルク協奏曲第4番)があるが、そちらは弦楽器だけでは演奏できない。あとは鍵盤楽器が活躍する協奏曲というと、ブランデンブルク協奏曲第5番が頭に浮かぶが、こちらも弦楽器だけでは無理。とすると、シフがソロでなにかバッハを弾くのか?……と思っていたら、袖からフルート奏者が登場した! なんと、ブランデンブルク協奏曲第5番第1楽章のためにフルート奏者が控えていたのだ。それまで暗譜だったシフだが、この曲では譜面を置いて演奏、若いトゥッティのヴァイオリン奏者が譜めくりを担った。シフはすごく楽しそう。
●ふたたび大喝采があり、カーテンコールをくりかえし、楽員退出後にシフのソロカーテンコール。それでも拍手が止まず、2回目のソロカーテンコール、と思いきや、シフはピアノに座った。バッハのゴルトベルク変奏曲のアリアをリピートありで。曲が終わって完璧な沈黙が訪れて、それからスタンディングオベーションに。記憶に残る一夜になった。

March 24, 2025

辻彩奈 ヴァイオリン・リサイタル

●18日は紀尾井ホールで辻彩奈のヴァイオリン・リサイタル。すぐれた若手ヴァイオリニストが次々と頭角を現しているが、ロマン派のレパートリーにおける濃密な表現に関しては際立った存在。今回のプログラムは、イザイの「悲劇的な詩」、フランクのヴァイオリン・ソナタ、ルクーのヴァイオリン・ソナタというベルギー出身の作曲家特集。フランクのヴァイオリン・ソナタ、ルクーのヴァイオリン・ソナタはともにイザイのために書かれた作品。そしてルクーの師はフランク。ルクーの曲は、夭折した作曲家の貴重な傑作ということで昔から熱心な愛好者がいたと思うのだが、自分はなかなか聴く機会がなく、こうしてライブで聴けたのは大きな収穫。豊かなパッションと確かな技巧に支えられたスケールの大きな音楽を堪能。輝かしくのびやかな音から芯のある太い音まで、しっかりと楽器を鳴らしきっている感がある。
●ルクー作品、師フランクのヴァイオリン・ソナタと共通する詩情と風貌があると思うが、フランクのソナタが64歳の年に書かれているのに対して、ルクーはわずか22歳。すごい成熟度。老成しているともいえるけど、全3楽章で30分を超える力作で、青年期のエネルギーにあふれた野心作でもある。第3楽章の高揚感がすばらしい。アンコールにイザイの「子供の夢」。すこぶるやさしい子守歌。
●ピアノはエマニュエル・シュトロッセ。と聞くと、なんだかラ・フォル・ジュルネ味があるデュオだなと思うわけだが、実際にナントのラ・フォル・ジュルネでの共演がきっかけとなって、実現したリサイタルなのだとか。
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●宣伝を。ONTOMO連載、五月女ケイ子の「ゆるクラ」第14回は前回に続いて「推し活」がテーマ。お助けマンとして参加中。今回も五月女さんの脱力イラストが味わい深い。

March 21, 2025

ニッポンvsバーレーン@ワールドカップ2026 W杯アジア最終予選

ニッポン!●今週は代表ウィーク。20日、W杯アジア最終予選のニッポンvsバーレーン戦。テレビ中継を見る。ニッポンはこれに勝てばW杯出場が決定、他会場の試合結果次第では引き分けでも出場が決まる。ここまで同グループの他チームが勝点の奪い合いをするなかで、ニッポンだけが順調に勝ち点を積み上げて独走状態に入っている。かつてない余裕のある最終予選。
●が、試合が始まってみると、バーレーンが強い。すでにアウェイで5点獲って完勝している相手なのだが、ドラガン・タライッチ監督はそのときもしっかりとニッポン対策を取ってきていた。今回も同様で、序盤からバーレーンは強度の高いプレイ。プレスが厳しく効率的で、運動量も豊富。バーレーンがボールを持ち、日本が受ける形になってしまった。選手のコンディションもニッポンを上回っている。少しニッポンの選手たちはプレイが軽いというか、体がキレていないというか。まあ、欧州組ばかりになったので、ニッポン代表はホームゲームのたびに長距離移動になるわけだが……。
●ニッポンは今回も超攻撃的な布陣。3バック。GK:鈴木彩艶-瀬古歩夢、板倉滉、伊藤洋輝-MF:遠藤航、守田英正(→田中碧)-堂安律(→伊東純也)、久保建英、南野拓実(→鎌田大地)、三笘薫(→中村敬斗)-FW:上田綺世(→町野修斗)。ディフェンスはけが人が多い関係で顔ぶれが新鮮。伊藤洋輝はバイエルン・ミュンヘンでけがから復帰して試合に出ている模様。前半は3バックからボールの出しどころがなく、ビルドアップがうまくいかない。ロングボールで前線に出す場面も目立ったが、チャンスにならず。前半9分に遠藤の幻のゴール(VARで取消し)。膠着状態の前半は0対0。
●後半頭から守田に代わって田中碧。やはり守田はコンディションに難があったか。後半18分に鎌田が入ったあたりから、ボールがスムーズに回り出す。鎌田が下がって中盤を助けたことに加えて、相手のプレイ強度が落ちてきたことも大きかったと思う。後半21分、縦パスを受けて巧みにターンした上田が、久保にスルーパス、久保はフリーの鎌田に出し、鎌田がキーパーとの一対一を制して先制ゴール。中央突破から、おしゃれシュート。後半42分、ショートコーナーからのリターンをもらった久保がペナルティエリア内の浅い角度から、キーパーのニアをぶち抜いてゴール。だれもが中にクロスを入れると思った場面で、バーレーンのキーパーは体の重心をクロスに準備して傾けたところで、逆を取られた。これはすごいゴール。ニッポン 2-0 バーレーン。すんなりとワールドカップ出場が決まった。
現在の最終予選の状況。最終予選なのにAからCまで3グループもあって、各グループ上位2チームが本大会出場権を獲得し、3位と4位は4次予選に進むことになっている。つまり便宜上最終予選とは呼んでいるけど、その先がある。本大会の参加国が32から48に増え、アジア枠は8に増えた。現在のニッポン代表が史上最強なのはまちがいないが、それはそれとして、かつてない広き門でもあるわけだ。「ドーハの悲劇」があった1994アメリカ大会ではアジア枠は2しかなかったのだから、大会自体が大きく変質している。

March 19, 2025

新刊「マンガでわかる クラシック音楽の歴史入門」(やまみちゆか著/飯尾洋一監修/KADOKAWA)

●本日3月19日、「マンガでわかる クラシック音楽の歴史入門」(やまみちゆか著/飯尾洋一監修/KADOKAWA)が発売。やまみちゆかさんのやさしいタッチのマンガで、大人から子どもまで音楽の歴史を楽しく学べる一冊。巻末には切り取ってクイズで遊べる大作曲家30名の解説カード付き。
●自分はささやかなアシスト役にすぎないが、前回の「クラシック作曲家列伝」(マール社)に続いて、ふたたびやまみちさんとのコンビが実現。今回もやまみちさんならではの学びと笑いが一体になったスタイルが生きている。なんとフルカラー、なのに価格はリーズナブル。すごい。電子版も同時発売。
●パガニーニとかベルリオーズの絵柄が好き。もう名前を目にすると反射的にやまみちさんの絵を思い出すレベル。

March 18, 2025

東京文化会館2025年度主催事業ラインアップ記者発表会

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●14日は東京文化会館の大会議室で東京文化会館2025年度主催事業ラインアップ記者発表会。野平一郎音楽監督(写真右)、戸谷嘉孝副館長(同左)、梶奈生子事業企画課長らが登壇。新年度の主催事業について、一通りの発表があった。さまざまな方向性を持った多数の公演が開かれるので、目立ったところをピックアップすると、まず第2回となる野平一郎プロデュース「フェスティヴァル・ランタンポレル」が11月に開催される。前回同様、フランスのニームのレ・ヴォルク音楽祭、およびパリのIRCAMとの連携で行われる。前回はラッヘンマンとマヌリに焦点が当てられ、それぞれ古典との組合せで演奏会が開かれたが、今回はジョージ・ベンジャミンの作品がとりあげられる。モーツァルト&ベンジャミンという組合せで、ヴィオラのキャロル・ロト=ドファン(ロト夫人)&東京文化会館チェンバーオーケストラ・メンバーの公演と、福間洸太朗のピアノ・リサイタルの2公演。ベンジャミンについて野平監督は「かつての神童。非常に音が洗練されている。これ以上洗練された音を書ける人を挙げるのは難しい」と語る。現代音楽と無声映画のコラボーレションであるIRCAMシネマ「チャップリン・ファクトリー」では、チャップリンの3作品にマルティン・マタロンの音楽が組合わせられる。
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●小ホールでの舞台公演では、演出家の岩田達宗による既存歌曲集の「歌劇化」企画の第3弾として、歌劇「ブラームス マゲローネのロマンス by ティーク」が12月に初演される。ほかに6月の「虫めづる姫君」再演など。
●東京音楽コンクールはピアノ、木管、声楽の3部門。
●子供向けを中心としたミュージック・ワークショップも多数開催。こちらは東京文化会館チャンネルの該当プレイリストを見ると、どんなものかイメージがわくと思う。
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●宣伝を。テレ朝POSTに先月開催された第33回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの取材記事を寄稿。公演の模様は3月22日の「題名のない音楽会」(テレビ朝日)で放送される。この日はいろいろな人のコメントをもらう必要があって、ゲネプロから本番、終演後のレセプションと東京オペラシティ内を駆けずり回ったのであった。

March 17, 2025

J1リーグ 第6節 マリノス対ガンバ大阪 耐えて守って初勝利

●16日、DAZNでJ1リーグのマリノス対ガンバ大阪戦を観戦。今季からスティーブ・ホーランド新監督を迎えて戦い方を大きく変えたマリノスだが、案の定、迷走している。ACLでは悪くないのだが、リーグ戦はここまで勝利なし。1敗3分。アタッキングフットボールを止めたら、失点も減ったが得点はそれ以上に減った。開幕時に3バックで行くのかと思ったらまったく機能せず、4バックに戻すことに。ホーランド監督はチェルシーやイングランド代表でアシスタントコーチ、ヘッドコーチなどを務めてきたが、トップチームの監督を務めるのはこれが初めて。イングランド国外での経験もない。失敗に終わったハリー・キューウェル元監督に続いて、経験不足の監督を招いてしまった感は否めず。第6節、ホームでのガンバ戦、これに負けたら降格争いも見えてくるし、監督解任の声も出るんじゃないかと思っていたが……なんと、勝ってしまった。マリノス 2-0 ガンバ大阪
●が、内容はまったくよくない。流れからの2得点ではあるが、中身は個人のスーパープレイ。前半20分に新戦力の遠野大弥が巧みなドリブルからここしかないというコースにシュートを叩きこむ。なにもないところからゴールを生み出した。後半30分、植中朝日がこれまたとんでもないシュートで、ペナルティエリアの外からキーパーの手の届かないところにコントロールショットを決めた。チーム力で生み出したチャンスは少ない。一方、ガンバは序盤から攻勢に出て、次々とチャンスの山を築き、24本ものシュートを打ちながら、決めきれず。マリノスのキーパー、朴一圭がビッグセーブを連発してくれたおかげ。ボール支配率はガンバが54%。マリノスはブロックを敷いて守る時間が長く、ともに新戦力の2枚のセンターバック、ジェイソン・キニョーネスとサンディ・ウォルシュがひたすらボールを跳ね返していた。屈強なセンターバックの力で守り勝つサッカーは、マリノスの伝統といえばその通りなのだが、すでにハイラインハイプレスのアタッキングフットボールが懐かしくなっている。だって、楽しさがぜんぜん違うじゃないの……。
●ちなみにサンディ・ウォルシュはインドネシア代表だが、ほかにベルギー、オランダ、アイルランド、イングランド、スイスの国籍を持っているらしい。生まれはベルギーで、ユースまではオランダ代表を選んでいたとか。こうなると国の「代表」という概念が揺らぐ。インドネシア国籍のおかげでJリーグでは提携国枠に該当し、外国籍扱いにならないはず。
●マリノスは宮市亮が右サイドバックに挑戦している。このコンバートが成功するのかどうか、まだまだなんとも言えない。
●ともあれ、リーグ戦初勝利できたのはよかった。しばらく模索が続きそう。

March 14, 2025

映画「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督)

●前から気になっていた映画「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督)をAmazon Primeで見る。役所広司主演。東京のど真ん中でトイレ清掃員をする主人公の淡々とした暮らしぶりを描いた映画なんだけど、とても美しく、味わい深く、でもいろいろと引っかかる映画でもある。主人公は風呂もない古アパートに住み、毎朝早く起床して、布団を畳み、清掃員の服を着て出かけ、缶コーヒーを飲み、車を運転し、公衆トイレを巡る。ていねいに掃除をする。昼はコンビニかなにかで買ったものを公園で食べる。夜は安いお店でお酒を一杯飲む。お風呂は銭湯に行く。読書をしながら寝る。週末はコインランドリーに行く。少しいい感じの女将のいる行きつけのスナックに顔を出す。どうやら家にはテレビもないし、スマホも持っていない(ガラケーは持っている)。でも本とカセットテープはある。洋楽好き。孤独だけど、単調な暮らしに喜びを見出している。なんだか素敵だな、って思わせる。仕事ぶりが熱心なのもいい。
●途中でこの主人公の過去が垣間見えるところがあって、どうやら本当は裕福な生まれなんだけど、実家とは縁を切ったのか過去になにかがあって、この暮らしを自ら選択している。本もフォークナーを読んでたりする。目覚ましなしで朝パッと起きて、ルーティーンを順守する感じは、なんとなく矯正施設にいたのかな、っていう印象も受ける。
●木のモチーフがなんども出てくる。夢のなかの木漏れ日、公園の木、鉢植えの木、古書店で買った幸田文の「木」、スカイツリー。
●でも、これって「おじさんファンタジー」だな~ってのも強烈に感じるんすよね。生まれは高貴だけど、今はトイレ清掃員。突然、かわいらしい姪が訪ねてきて、泊めろって言う。姪といっしょに銭湯に行く。いちばん「それはないだろ」って思ったのは、若い同僚のガールフレンドにほっぺに「チュッ」ってされる場面。あのね……。
●それと、一生懸命トイレを掃除しているんだけど、汚物も吐瀉物もまったくなくて、掃除する前からもうキレイなトイレばかり。実態はずっとおぞましい状態になっているはず。それは映画だからといえばそれまでなんだけど、解釈としては主人公の生き方を表現しているのかなとも思った。つまり「本当に向き合わなければいけない問題から目をそらして、きれいなところだけを掃除しつづける人生を選んだ男」っていう少々辛辣な表現なのかなと。

March 13, 2025

セバスティアン・ヴァイグレ指揮読響のベルク「ヴォツェック」演奏会形式

セバスティアン・ヴァイグレ 読響 「ヴォツェック」
●12日はサントリーホールでセバスティアン・ヴァイグレ指揮読響のベルク「ヴォツェック」演奏会形式。チケットは完売。ヴォツェックにサイモン・キーンリーサイド、マリーにアリソン・オークス、鼓手長にベンヤミン・ブルンス、アンドレスに伊藤達人、大尉にイェルク・シュナイダー、医者にファルク・シュトルックマン。望みうる最上の歌手陣と、磨き上げられたオーケストラによって、ヴァイグレ&読響コンビの到達点とでも言えるような記念碑的な公演になった。ステージ上には大編成のオーケストラが陣取り、精妙かつ鋭利なサウンド。休憩がなく、純然たる演奏会形式の公演ということもあり、長大な交響詩を聴いたかのような気分。
●ヴォツェック役は当初予定のマティアス・ゲルネからサイモン・キーンリーサイドに変更になったが、冷静に狂っている感じで共感可能なヴォツェック像。キーンリーサイド、ずいぶんキャリアが長いはずだが、あまり姿が変わっていない。マリー役のアリソン・オークスは同コンビによる「エレクトラ」で、題名役に負けないパワフルなクリソテミス役を歌っていたが、今回も強烈。ヴォツェックを返り討ちにしてくれそうな迫力。おしまいで出てくる子どもたちはTOKYO FM少年合唱団。みんなうますぎて驚愕。「ホップ、ホップ!」に震撼。
●「ヴォツェック」って、ダークサイドの「ばらの騎士」感がある。ワルツが奏でられ、社会階層と愛の物語で、伝統の再構築で、幕切れで子供が話を締める。
●聴いた後に無性に甘いものがほしくなるオペラ。アイスモナカ、かな。

March 12, 2025

東京都美術館 ミロ展

ミロ展
●東京都美術館で開催中のミロ展へ(3/1~7/6)。初期作品から晩年の作品までがそろった充実の大回顧展。作風の変遷が明快なので、年代別に眺めていくおもしろさがいっそう増す。初期のキュビズム、フォーヴィスムの影響が大きかった頃から、やがて具象が抽象になり、写実が記号になり、面が線になり、自然賛歌が都市の憂鬱になり、色彩の使用が限定的になり、だんだんミロがミロになってくる。最後のフロアのみ撮影可だったので、写真は後年の作品ばかりだが、上は「太陽の前の人物」(1968)。太陽はミロの主要なモチーフのひとつであるね……と言いつつ、頭に思い浮かんだのは、アスキーアートの
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だった。もう太陽が頭にしか見えないっ!

ミロ展
●こちらは「月明りで飛ぶ鳥」(1967)。月も主要なモチーフ。黄色というより橙の月。夜空は緑。
●ミロが生きた時代は戦争の時代。スペイン内戦から逃れ、第二次世界大戦から逃れ、逃げることに大きなエネルギーを費やしている。戦時の鬱々とした気分は作品からも伝わってくるが、対照的に戦後の開放感もはっきりと感じる。ミロは元気に長生きしたので、自分の名声が世界中に広まり、教科書に載るような存在になるのをしっかりと見届けることができたはず。孫のための作品が展示されているのを見るとほっとする。この孫のために描いた「エミリ・フェルナンデス・ミロのために」と、星座シリーズの3点が圧巻。
●鳥、星もよく出てくるモチーフ。武満みたい。

ミロ展
●ポスターもいくつか展示されていて、これは「バルサ FCバルセロナ75周年」(1974)。これがフットボール・クラブの歴史と伝統というものなのか。もう羨望しかない。

ミロ展
●立体作品もある。これは「逃避する少女」(1967)。着色ブロンズ。頭上に乗っているのは蛇口。造形もおもしろいが、この色彩感と来たら。赤と黄色が、とてもミロだと思うじゃないっすか。それで。
ミロ展
●「逃避する少女」のすぐ脇に、こんな消火器が置いてあるんすよ! これ、ミロでしょ!! この赤と黄色。黒の取っ手の曲線と直線のコントラスト。コンセントの造形。ぜったいミロだ! ミロの消火器だ! そんなことを思いながら、ミロ展で消火器の写真を撮っている自分。いやー、これ、わざとやってるでしょ。

ミロ展
●これはかなり大型の作品なんだけど、遠目に見ると墨絵っぽくて、東京国立近代美術館の日本画フロアにでも来たのかと錯覚するが、近くで見るとミロらしい赤や黄色、青も使われている。題は「花火 I」「花火 II」「花火 III」(1974)。ということは、白い背景が夜空で、墨のような黒が炎なのか。
●高解像度の写真はインスタで。

March 11, 2025

Trio Rizzle(トリオ・リズル)の「ゴルトベルク変奏曲」

トッパンホール Trio Rizzle(トリオ・リズル)
●10日はトッパンホールのTrio Rizzle(トリオ・リズル)へ。毛利文香のヴァイオリン、田原綾子のヴィオラ、笹沼樹のチェロによるTrio Rizzleの公演第4弾。プログラムはシェーンベルクの弦楽三重奏曲、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」(シトコヴェツキ編にもとづくTrio Rizzleバージョン)。
●シェーンベルクの弦楽三重奏曲、昨年の石上トリオに続いて、また聴くことができた。晩年期の12音技法による作品だけど、意外と聴きやすい曲という印象があるのは第1部のカッコよさ、熱さのおかげか。ロマンとパッションの音楽として聴く。きわめて明瞭な演奏。
●バッハ~シトコヴェツキ編の「ゴルトベルク変奏曲」は、84年のOrfeoレーベルの録音によって世に出た編曲。シトコヴェツキ、コセ、マイスキーのトリオで、これがリリースされたときの驚きは覚えている。当初はあまりに違和感が強烈で、この編曲は成立しないんじゃないかなと思っていたら、なんと、弦楽三重奏のためのレパートリーとしてどんどん広まって、今や完全に定着している。いつの間にか自分のなかでの違和感も収まってきて、やはり鍵盤楽器ではなく音の減衰しない弦楽器で演奏する意味は存外に大きかったのかと思い直す。で、シトコヴェツキはこれをグレン・グールドへのオマージュとして作ったわけだけど、当時は「ゴルトベルク変奏曲」といえばグールドがスタンダード。なので、作品観が現代とはぜんぜん違う。その後、チェンバロによる古楽奏者たちの録音が次々と登場し、弦楽器のレパートリーにもHIPなスタイルの演奏があふれ、ヴィブラート、フレージング、アーティキュレーション、リピートの有無など、バッハの演奏スタイルについての感覚が大きく変わった。そんな今の世代のバッハ観で、40年前のシトコヴェツキ版を再構築したのが、この日のフレッシュな「ゴルトベルク変奏曲」だったと思う。シトコヴェツキのバッハが、今のバッハに生まれ変わったという感慨に浸る。

March 10, 2025

「世界一流エンジニアの思考法」(牛尾剛)

●なんのきっかけで手にしたのかは忘れたけど、これほど頷きまくった仕事本はない。「世界一流エンジニアの思考法」(牛尾剛著/文藝春秋)の著者は米マイクロソフトのソフトウェアエンジニア。だがエンジニアに限ることなく、働く人々にとって有用な一冊だと思った。みんなが気持ちよく働くにはどうしたらよいか、という点で納得のゆくことばかり。
●とくに自分にとって響いたのは、生産性を加速するうえで重要なマインドセットとして「リスクやまちがいを快く受け入れる」というくだり。Fail Fast(早く失敗する)っていう標語がすごい。つまり、成功しようがしまいが、まずはやってみて、早くフィードバックを得て、早くまちがいを修正しようという精神。

アメリカでは、失敗や間違いで怒られることが皆無だ。失敗に気づいた後に、本社に報告すると、「フィードバックをありがとう!」と大変感謝される。(中略)
誰かが失敗したところで「あいつはダメだ」とネガティブに言っている人は見たことがない。だから、より難しいことへのチャレンジがすごく気楽にできるのだ。社内のイベントのハッカソンでもその主導者が「今日はたくさん失敗しよう!」と掛け声をかけていたのが印象的だった。

失敗しないことに最大の価値を置くと、なにもしない人が王者になってしまうんすよね。
●あと、会議。日本だと会議にしっかり準備してくるとたいてい褒められると思うんだけど、「準備」も「持ち帰り」も止めて、その場で解決するという流儀。

 インターナショナルチームを観察していると、彼らは常に「会議の場」だけで完結する。ざっくりしたアジェンダ(検討事項)はあるが、準備に時間をかけて会議に臨むことは一切しない。(中略)会議後の「宿題」や「持ち帰って検討すること」もめったにない。必要な「意思決定」は、極力その場で行う。

自分は「準備」にはあまり抵抗はないんだけど、「持ち帰り」はかなり抵抗がある。いちばん困るのは結論が先に決まっていて、責任を参加者全員に分散するためだけの会議。
●うらやましいなと思うのは、部下が「仕事を楽しんでいるか?」を確認する文化。メンバーが幸せに働けるようにするのがマネージャの役割だって言うんすよね。「チーム内ではスキルや経験に関係なく、全員が同じ責任を持っているフラットな『仲間』としてふるまう」っていうカルチャーもいいなと思った。

March 7, 2025

沖澤のどか指揮オーケストラ・アンサンブル金沢 東京定期

●6日はサントリーホールで沖澤のどか指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)。だんだん周知されてきたかもしれないけど、OEKの東京定期は18時30分開演。要注意だが、終演が早まるのはいろいろとありがたい。客席は盛況。開演前に広上淳一OEKアーティスティック・リーダーが登場して、能登の支援についての報告があった。
●かつてOEK指揮研究員を務め、事務局仕事も経験した沖澤のどかが、大きく育ってOEKの指揮台に帰還。プログラムはプロコフィエフの「古典交響曲」、モーツァルトのピアノ協奏曲第24番ハ短調(牛田智大)、オネゲルの交響曲第4番「バーゼルの喜び」。「古典交響曲」はOEKの「持ち曲」というか、さまざまな指揮者たちのもとで演奏してきた定番のレパートリー。室内オーケストラならではの軽快機敏さが特徴だが、沖澤の「古典」は一段階スケールアップした大柄な音楽。アクセントがくっきりして、管と打楽器のバランスが強めで、とても精力的な音楽になっている。モーツァルトのソロを務める牛田智大を聴いたのは久々。3年ぶりかな。すっかり立派な大人のピアニストになっていて、明快なタッチによる堂々たるモーツァルト。第1楽章のカデンツァ、古典派様式をはみだしたロマン派ヴィルトゥオーゾ寄りのスタイルだったけど、だれのものなんでしょ。バロック・ティンパニ使用。ソリスト・アンコールは、吉松隆の「ピアノ・フォリオ……消えたプレイアードによせて」。だれの曲かわからずに聴いたけど、モーツァルトの余韻の後にふさわしい清冽さ。
●後半、オネゲルの交響曲第4番「バーゼルの喜び」は快演。コンパクトな編成による透明感のあるサウンド。いろんな相反する要素がひとつになった曲で、田園的でもあり都会的でもあり、楽しげでもあり悲観的でもあり、未来を向いているようでもあり懐古的でもあるという、戦後の空気のなかで生まれた二律背反の音楽。終楽章に登場するバーゼルのお祭りのメロディは今も使われていて、下のBasler Fasnacht 2024の映像を見ると、あそこで行進曲調になるのが腑に落ちる。アンコールに芥川也寸志「トリプティーク」より第2楽章。ソリストとオーケストラのアンコールがともに日本人作品でそろえられていた。




March 6, 2025

パンゲア・トリオ・ベルリンのドヴォルザーク、ブラームス、ラヴェル

●5日は文京シビックホールの大ホールでパンゲア・トリオ・ベルリン。ベルリン・フィルの第2ヴァイオリン首席奏者のマレーネ・イトウ、同じくベルリン・フィルのチェロ奏者ウラジーミル・シンケヴィッチ、ピアノのヤニック・ラファリマナナの3人からなるトリオ。パンゲアとはすべての大陸、現在の大陸が分裂する以前にひとつになっていた超大陸の意。少し変わった名前だと思ったが、マレーネ・イトウが日本にルーツを持ち、オーストラリアで学んでいることや、ラファリマナナがパリで学んだ後にボストンに移り、今はベルリンを拠点としていることなど、それぞれの多様なルーツや拠点の変遷を考えれば、納得のネーミング。
●プログラムはラフマニノフのヴォカリーズ、ドヴォルザークのピアノ三重奏曲第4番「ドゥムキー」、ブラームスのピアノ三重奏曲第3番、ラヴェルのピアノ三重奏曲。こちらもそれぞれ異なる文化圏の作品が並んでいて、汎世界的な選曲ということか。洗練され、練り上げられた演奏。起伏に富んだドラマを描いていたとは思うのだが、なにしろ会場が2000席クラスの大ホールだったので、巨大空間の残響のなかでディテールが埋もれた感は否めない。弦のふたりはふだんから同じベルリン・フィルで弾いているわけだが、ピアノが巧みに弦と溶け合い、3人がいっしょになってひとつの絵を描く。こうして並べると、やはりラヴェル作品の独創性は際立っている。白熱する終楽章は圧巻。
●大きなホールだがお客さんはよく入っていた。プログラムノートに「楽章間での拍手はお控えください」とわざわざ書いてあって不思議な気がしたが、演奏が始まったら楽章間で逐一拍手が起きた。珍しい光景だが、ふだんあまりクラシックを聴かない人も大勢来てくれたのだから喜ばしいこと。そして、楽章間で拍手をするかしないかは、聴衆が決めればよいことだと思う。
●文京シビックホール、たまにしか来ないけど、アクセスが抜群によい。地下鉄2駅から直結という恵まれた立地。

March 5, 2025

256GBのmicroSDカードを導入する

先日モバイルPCを導入した際、SSDの記録容量が256GBのモデルを選んだ。一見、256GBでは少なそうだが、これはあくまでモバイル用のサブ機なのだから、デスクトップPCの全データを持ち歩く必要はない。写真や音源データを入れなければ、256GBでも空き容量がたっぷりある。
●で、それはそれで正しかったのだが、はたと気づいた。購入したFMV LIFEBOOKにはmicroSDカードのスロットがあるじゃないの。めったに使わないだろうけど、ここに写真や音源みたいな、でかくてふだん更新しない固定的なデータを入れておけばいいではないか。そう思って、KIOXIAの256GBのmicroSDカードを導入。こんな爪の先にのっかりそうな小さくて薄っぺらいカードに、本体の容量と同じ256GBが入るのかよ!と改めて感嘆。しかも信頼できるメーカー製でも2千円台の安さ。どうなってるの。
●不思議なことに同じようなmicroSDカードを大手家電量販店のサイトで見ると、価格が極端に違う。あれ、Amazonのほうは危ない商品だったかなと疑ったが、販売元はAmazon自身だし、ちゃんと本物と思しきKIOXIAの製品が届いた。今どき内外価格差? よくわからないが、検索したら同じような疑問を抱いている人がたくさんいることはわかった。

March 4, 2025

新国立劇場 25/26シーズンラインアップ説明会

新国立劇場 記者発表 大野和士
●遡って2月26日、新国立劇場の25/26シーズンラインアップ説明会へ。大野和士オペラ芸術監督が登壇。新シーズンの新制作はベルクの「ヴォツェック」(リチャード・ジョーンズ演出)とリヒャルト・シュトラウスの「エレクトラ」(ヨハネス・エラート演出)の2本。指揮はいずれも大野和士だが、前者は都響、後者は東フィルがピットに入る。これはどちらも楽しみ。大野監督は「どちらも新国立劇場が世界で初めて上演する舞台」と胸を張る。現状、とくにどこかの劇場との共同制作とはうたわれていないのだが、今後、そうなる可能性が十分にあることが示唆されていた。「ヴォツェック」も「エレクトラ」も名作オペラのなかでは尖がった部類の作品ではあるが、大野監督も言っていたように長さは短いので、意外と近づきやすい作品でもある。どちらも1時間半~1時間50分程度、途中休憩なしなので、ふつうのコンサートよりも早く終わるくらい。
新国立劇場 記者発表 大野和士
●一方、レパートリー上演は「ラ・ボエーム」「オルフェオとエウリディーチェ」「こうもり」「リゴレット」「ドン・ジョヴァンニ」「椿姫」「愛の妙薬」「ウェルテル」。新制作とは対照的に柔らかめというか、トラディショナルなラインナップ。「オルフェオとエウリディーチェ」は勅使川原三郎の演出で、初演時にはカウンターテナーがオルフェオ役を歌っていたが、今回はアルト歌手のサラ・ミンガルドがオルフェオ役。だいぶ印象が変わるかもしれない。園田隆一郎が指揮。「リゴレット」の題名役はウラディーミル・ストヤノフ。「ウェルテル」の題名役はチャールズ・カストロノーヴォで、シャルロット役は脇園彩。
●新制作が2本しかないのは寂しいなと思い、そのあたりを質疑応答で尋ねたところ、コロナ禍による財政難で2年にわたり各部門とも1つずつ新制作を減らす措置をとっていたが、これでノルマを果たすことになるので、その次のシーズンからは3つに戻るそう。

March 3, 2025

佐藤俊介指揮東京交響楽団のモーツァルト・マチネ

モーツァルト・マチネ ミューザ川崎
●2日はミューザ川崎のモーツァルト・マチネ。日曜日の午前11時開演ということで、なじみの薄いシリーズなのだが、この日は佐藤俊介が登場するので朝から川崎へ。やはり同業者多数。プログラムはヴァンハルの交響曲ニ短調(Bryan d1)ミスリヴェチェクのヴァイオリン協奏曲ホ長調、モーツァルトの交響曲第38番「プラハ」。昨秋に同じプログラムがオーケストラ・アンサンブル金沢で組まれたときはふつうの定期演奏会だったのだが、今回は休憩なしの短いプログラムに変身していた。休憩なしの公演としては少し長めなので、得した気分。
●弦楽器の編成はかなり小さく、5-5-4-3-2だったかな。もちろん対向配置。バロック・ティンパニ、直管のトランペットを使用、佐藤俊介はほぼヴァイオリンを弾きっぱなしでオーケストラをリード。それでもテンポも強弱も自在にコントロール。急激な加速あり減速ありタメあり、鋭いアクセント、柔らかい音色、本当に表現が多彩でスリリング。とりわけ「プラハ」は鮮烈で、もう普通のモーツァルトを聴けなくなりそう……。
●ヴァンハルもミスリヴェチェクもモーツァルトと交流があり、ともに生前は確固たる名声を築いていた作曲家。モーツァルト的な楽想が頻出するのだが、どちらがどちらに影響を与えたのか。ヴァンハルの交響曲ニ短調、第1楽章はモーツァルトの交響曲第25番を連想させる。第3楽章もモーツァルトの交響曲第40番の第3楽章に似ている。これはヴァンハルのほうが先だろう。ヴァンハルはウィーンに住んでいただけあって、ハイドン、ディッタースドルフ、モーツァルトといっしょに弦楽四重奏曲を演奏したこともある(ヴァンハルはチェロを弾いた)。モーツァルトがヴァンハルの作品を演奏したこともあったというので、距離感は近い。
●一方、ミスリヴェチェクは若き日のモーツァルトとボローニャで出会っており、モーツァルトの手紙にもミスリヴェチェクの名はなんどか出てくる。モーツァルトはミュンヘンでミスリヴェチェクのソナタを弾いたことがあり、とても軽快できれいに響く曲だと姉のナンネルに宛てて手紙で書いている。作風は近いし、実際、この日のヴァイオリン協奏曲ホ長調はとてもすばらしかった。ただ、並べて聴くと、モーツァルトの天才性が際立っていると感じることもまた事実なのだが。
●12時20分くらいに終演。暖かい日だったので、どこかに寄り道したくなるところだが、予定があったのでまっすぐ帰る。

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