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March 11, 2025

Trio Rizzle(トリオ・リズル)の「ゴルトベルク変奏曲」

トッパンホール Trio Rizzle(トリオ・リズル)
●10日はトッパンホールのTrio Rizzle(トリオ・リズル)へ。毛利文香のヴァイオリン、田原綾子のヴィオラ、笹沼樹のチェロによるTrio Rizzleの公演第4弾。プログラムはシェーンベルクの弦楽三重奏曲、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」(シトコヴェツキ編にもとづくTrio Rizzleバージョン)。
●シェーンベルクの弦楽三重奏曲、昨年の石上トリオに続いて、また聴くことができた。晩年期の12音技法による作品だけど、意外と聴きやすい曲という印象があるのは第1部のカッコよさ、熱さのおかげか。ロマンとパッションの音楽として聴く。きわめて明瞭な演奏。
●バッハ~シトコヴェツキ編の「ゴルトベルク変奏曲」は、84年のOrfeoレーベルの録音によって世に出た編曲。シトコヴェツキ、コセ、マイスキーのトリオで、これがリリースされたときの驚きは覚えている。当初はあまりに違和感が強烈で、この編曲は成立しないんじゃないかなと思っていたら、なんと、弦楽三重奏のためのレパートリーとしてどんどん広まって、今や完全に定着している。いつの間にか自分のなかでの違和感も収まってきて、やはり鍵盤楽器ではなく音の減衰しない弦楽器で演奏する意味は存外に大きかったのかと思い直す。で、シトコヴェツキはこれをグレン・グールドへのオマージュとして作ったわけだけど、当時は「ゴルトベルク変奏曲」といえばグールドがスタンダード。なので、作品観が現代とはぜんぜん違う。その後、チェンバロによる古楽奏者たちの録音が次々と登場し、弦楽器のレパートリーにもHIPなスタイルの演奏があふれ、ヴィブラート、フレージング、アーティキュレーション、リピートの有無など、バッハの演奏スタイルについての感覚が大きく変わった。そんな今の世代のバッハ観で、40年前のシトコヴェツキ版を再構築したのが、この日のフレッシュな「ゴルトベルク変奏曲」だったと思う。シトコヴェツキのバッハが、今のバッハに生まれ変わったという感慨に浸る。

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