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March 14, 2025

映画「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督)

●前から気になっていた映画「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督)をAmazon Primeで見る。役所広司主演。東京のど真ん中でトイレ清掃員をする主人公の淡々とした暮らしぶりを描いた映画なんだけど、とても美しく、味わい深く、でもいろいろと引っかかる映画でもある。主人公は風呂もない古アパートに住み、毎朝早く起床して、布団を畳み、清掃員の服を着て出かけ、缶コーヒーを飲み、車を運転し、公衆トイレを巡る。ていねいに掃除をする。昼はコンビニかなにかで買ったものを公園で食べる。夜は安いお店でお酒を一杯飲む。お風呂は銭湯に行く。読書をしながら寝る。週末はコインランドリーに行く。少しいい感じの女将のいる行きつけのスナックに顔を出す。どうやら家にはテレビもないし、スマホも持っていない(ガラケーは持っている)。でも本とカセットテープはある。洋楽好き。孤独だけど、単調な暮らしに喜びを見出している。なんだか素敵だな、って思わせる。仕事ぶりが熱心なのもいい。
●途中でこの主人公の過去が垣間見えるところがあって、どうやら本当は裕福な生まれなんだけど、実家とは縁を切ったのか過去になにかがあって、この暮らしを自ら選択している。本もフォークナーを読んでたりする。目覚ましなしで朝パッと起きて、ルーティーンを順守する感じは、なんとなく矯正施設にいたのかな、っていう印象も受ける。
●木のモチーフがなんども出てくる。夢のなかの木漏れ日、公園の木、鉢植えの木、古書店で買った幸田文の「木」、スカイツリー。
●でも、これって「おじさんファンタジー」だな~ってのも強烈に感じるんすよね。生まれは高貴だけど、今はトイレ清掃員。突然、かわいらしい姪が訪ねてきて、泊めろって言う。姪といっしょに銭湯に行く。いちばん「それはないだろ」って思ったのは、若い同僚のガールフレンドにほっぺに「チュッ」ってされる場面。あのね……。
●それと、一生懸命トイレを掃除しているんだけど、汚物も吐瀉物もまったくなくて、掃除する前からもうキレイなトイレばかり。実態はずっとおぞましい状態になっているはず。それは映画だからといえばそれまでなんだけど、解釈としては主人公の生き方を表現しているのかなとも思った。つまり「本当に向き合わなければいけない問題から目をそらして、きれいなところだけを掃除しつづける人生を選んだ男」っていう少々辛辣な表現なのかなと。