●21日はミューザ川崎でアンドラーシュ・シフ&カペラ・アンドレア・バルカのオール・バッハ・プログラム。90年代末にシフの仲間たちによって創設されたカペラ・アンドレア・バルカだが、すでに2026年をもって活動を終了することが発表されており、これが最後の来日公演。メンバーの多くはシフとともに年輪を重ねてきたベテラン奏者たちだが、一部、若い奏者も入っている。弦楽器のみの編成で、サイズは98542、かな(一部よく見えなかったので違ってたらごめん)。コントラバス2を左右に分けて配置するスタイル。みんなでシフを囲む会、みたいな雰囲気だ。室内楽的な親密なアンサンブル。
●プログラムはバッハのピアノ協奏曲(と便宜上呼ぶ)を6曲。前半に第3番、第5番、第7番、第2番、後半に第4番、第1番。6曲を半々にわけるのかと思っていたら、前半が長い。これはアンコールがあるということか。近年、バッハの協奏曲を通常のオーケストラ公演で聴く機会はほぼないので、単純に演奏を聴けるだけでもうれしいのに、これがシフと仲間たちの円熟のアンサンブルとなれば言う事なし。肩の力が抜けた、しかし弛緩のないバッハ。滋味豊かで、温かみがあり、どの曲にも音楽の愉悦があふれている。明快で端正。シフの基本スタイルは昔から変わっていないように感じる。もっとも喜びにあふれた第4番の後、峻厳な第1番で終わる。
●アンコールはなにを弾くのか、予想がつかなかった。ピアノ協奏曲にはほかに第6番(原曲はブランデンブルク協奏曲第4番)があるが、そちらは弦楽器だけでは演奏できない。あとは鍵盤楽器が活躍する協奏曲というと、ブランデンブルク協奏曲第5番が頭に浮かぶが、こちらも弦楽器だけでは無理。とすると、シフがソロでなにかバッハを弾くのか?……と思っていたら、袖からフルート奏者が登場した! なんと、ブランデンブルク協奏曲第5番第1楽章のためにフルート奏者が控えていたのだ。それまで暗譜だったシフだが、この曲では譜面を置いて演奏、若いトゥッティのヴァイオリン奏者が譜めくりを担った。シフはすごく楽しそう。
●ふたたび大喝采があり、カーテンコールをくりかえし、楽員退出後にシフのソロカーテンコール。それでも拍手が止まず、2回目のソロカーテンコール、と思いきや、シフはピアノに座った。バッハのゴルトベルク変奏曲のアリアをリピートありで。曲が終わって完璧な沈黙が訪れて、それからスタンディングオベーションに。記憶に残る一夜になった。
March 25, 2025