●今さらながら、ヨルゴス・ランティモス監督の怪作、映画「ロブスター」の話を。この映画では、結婚が義務付けられており、独身者は身柄を拘束されてホテルに押し込まれ、そこで45日以内にパートナーを見つけなれば動物に変えられてしまうという不条理な世界が描かれる。どの動物になるかは自分で選べる。で、妻に捨てられた主人公(コリン・ファレル)が選んだのがロブスター。かなりシニカルかつブラックなテイストで、後味が悪すぎて人に勧めようとは思わない。ただ、よくできている。
●で、この映画にはやたらと弦楽四重奏曲が出てくる。ベートーヴェン、ショスタコーヴィチ、ストラヴィンスキー、シュニトケ、ブリテンあたり。とくに映画のテーマ曲ともいえるほど執拗に登場するのが、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第1番の第2楽章と、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番の第4楽章。たぶん、この選曲には意味があって、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第1番の第2楽章はシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の一場面に触発されて書かれたという話がある。この映画で恋愛を強要されていた主人公はうまくいかず、やがてホテルを脱走して森の中で暮らす独身者たちのコミュニティに加わる。コミュニティには恋愛禁止の掟があるのだが、皮肉にもそこで恋が芽生える。この許されざるカップルというテーマが「ロミオとジュリエット」につながるのだろう。そして、恋人同士は他人にはわからないが、自分たちだけが理解可能なジェスチャーでコミュニケーションを図る。体制に悟られないように真意を表現する。まさにソ連共産党体制下のショスタコーヴィチの世界だ。
●でも、本当にイヤ~な感じの映画で、おしまいの場面はとても観ていられない。若い頃だったら喜んで観たかもしれないが。
April 8, 2025