●13日、ペルー出身のノーベル文学賞受賞作家、マリオ・バルガス・リョサ逝去。89歳。ガルシア・マルケスらと並んでラテンアメリカ文学の中心的な作家だったが(このふたりが殴り合いのケンカをしたというエピソードがある)、日本語では「表記の揺れ」に悩まされっぱなしの作家で、バルガス・リョサ、バルガス=リョサ、バルガス・ジョサの間でずっと揺れたまま落ち着くことがなかった。おまけに代表作「都会と犬ども」(著者名はバルガス=リョサ)が、光文社古典新訳文庫で刊行された際に「街と犬たち」(著者名はバルガス・ジョサ)になってしまった。検索エンジンに堂々と背を向けている。ちなみに訃報では朝日も読売も共同もBBCも「都会と犬ども」の表記だった。
●でも「街と犬たち」の新訳は本当にすばらしいし、小説としては最高の部類なので、これはぜひ広く読まれてほしい。シンプルに青春小説としておもしろいうえに、巧緻な仕掛けがあり、重層的な読み方が可能。
●ゴーギャンとその祖母フローラの物語「楽園への道」、ペルー沿岸部の町と原始生活が残るアマゾン奥地を舞台にした「緑の家」、都会を捨てアマゾンの未開部族の語り部として生きる青年を描いた「密林の語り部」も傑作。が、本の厚みに怯んでしまい「世界終末戦争」は未読なのだ。読もう読もうと思いつつ読めなかったのだが、岩波文庫編集部が夏に「世界終末戦争」を刊行するとXで発表しているではないか。夏の読書感想文は「世界終末戦争」で決まり!
●関連する過去記事
「街と犬たち」(バルガス・ジョサ/寺尾隆吉訳/光文社古典新訳文庫)=「都会と犬ども」の新訳
「街と犬たち」(バルガス・ジョサ/寺尾隆吉訳/光文社古典新訳文庫) その2
「街と犬たち」(バルガス・ジョサ/寺尾隆吉訳/光文社古典新訳文庫) その3
「緑の家」(バルガス=リョサ著)