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April 24, 2025

低音デュオ第17回演奏会 ~低音のカタログ~

●23日は杉並公会堂小ホールで低音デュオ第17回演奏会~低音のカタログ~。松平敬(バリトン、声)と橋本晋哉(チューバ、セルパン)による低音デュオで、プログラムは前半に福井とも子 doublet IV(2019)、川崎真由子「低い音の生きもの」(2023/25改訂初演)、山田奈直「内裏玉」(2025 委嘱初演)、後半に安野太郎「鏡の中」(2025 委嘱初演)、川上統 組曲「雲丹図録」(2025 委嘱初演)、野村誠「どすこい!シュトックハウゼン」(2021)。川崎真由子作品は初演時に聴いているが、改訂初演とされていた。
●動植物に由来する作品が多い。「低い音の生きもの」では声とチューバがインドサイ、コアラ、ダチョウなど低い音の生きものを描き、「内裏玉」とはサボテンの一種らしく、「雲丹図録」ではなんと全13曲で11種類ものウニを表現する。これら動植物に加えて音楽家(シュトックハウゼン)も加わるとなれば、これはさながらポストモダンの「動物の謝肉祭」。全6曲、いずれも趣向に富み、すべてを楽しんだ。印象的だったのは山田奈直「内裏玉」で、チューバに風船やホース(?)を装着し、ふたりが協力プレイする。痛快。安野太郎「鏡の中」はワレリー・ブリューソフの同名短篇を題材に、バリトンとセルパンが鏡に向き合うようにして立つ。朗読による言葉の要素と断片的な歌の要素の交替、そして声の電気的な変調から幻想的な世界を作り出す。この曲がこの日の「白鳥」か。川上統「雲丹図録」は未知の生物群のイメージを喚起させる。自分は現実のウニの種別をまったく識別できないので。曲調からすばしっこく動き回るウニすら想像する。
●桁違いのインパクトをもたらすのは野村誠「どすこい!シュトックハウゼン」。これはシュトックハウゼンが相撲について語った映像が元ネタになっている。シュトックハウゼンが四股を踏んでみせたりするのだが、その動作や語りが見事に作品化されている。事前に映像を見ておいて本当によかったと思える圧倒的なパフォーマンスで、思わず自分も四股を踏みたくなった。名作と呼ぶほかない。