●街に出れば世の中すでに年賀状だのクリスマスだの気が早いなと思うわけだが、来月は12月、大々的にモーツァルト・イヤーである本年においてもやってくる、ベートーヴェン「第九」強化月間。
●で、その12月に公開される映画「敬愛なるベートーヴェン」(アニエスカ・ホランド監督)の試写を見てきた。これは映画館で予告編を見かけたときから気にはなっていたんである。ベートーヴェン役はエド・ハリス。すばらしくベートーヴェンになっている。「第九」を指揮したり、ちらりとピアノやヴァイオリンを弾いたりするのだが、千秋先輩どころではなく、竹中ミルヒー直人をも超える。ていうか、それ以上に外見がスゴい、ベトベンすぎて。恐るべし。そして相手役となる作曲家志望の若い女性コピスト(写譜師)役にダイアン・クルーガー。
●「ちょっと待ったぁ!」とここで声がかかるかもしれない。なんだ、その作曲家志望の若い女性コピストってのは、と。予告編でもわかるけど、「第九」の初演時に、彼女が耳の聞こえなくなったベートーヴェンのアシスタントをしてくれるのだ。史実にはそんな女性は登場しないし、「第九」初演時にベートーヴェンに代わって指揮をしたのはウムラウフだ。だから「なんか、ヘンなロマンスが入ってくるとヤだな、まさかこの人が不滅の恋人じゃないだろねえ」と不安に思われるかもしれないが、大丈夫、そんなアドベンチャーな映画じゃないから。
●むしろ女性コピストという架空の登場人物を導入したこと以外は、意外とオーソドックスな作りになっていて、伝記映画って言ってもいいくらいである。もしかしたら並の伝記よりも抑制されたタッチでベートーヴェンを描いている。ベートーヴェンに新たな人物像を付与しようなんていう企みは一切なくて、古典的な人物像で映画化しようっていう意欲を感じた。こうなると「女性コピストって設定は要らないんじゃないか」と一瞬思わなくもないが、この人が物語上何者であるかというはの自分なりに納得したので無問題。
●「第九」前後の話なので、出てくる音楽のほとんどが後期作品っていうのが吉。映画の冒頭だって、いきなり「大フーガ」なんすよ。弦楽四重奏曲第14番とか第15番とかソナタ32番とか。映画の中での演奏シーンは実際に演奏しているようだが、音声はほぼ既存のメジャー音源を重ねている。「第九」のサウンドトラックはハイティンク指揮コンセルトヘボウ管。
November 15, 2006