●「取るに足りない殺人」がおもしろかったので、引き続きジム・トンプスンの名作(といわれているらしい)「ポップ1280」を読む。「このミス」2001年海外編第1位っていうくらいなので、今話題にするズレ具合もなんだが、いやあ、なんて傑作なんだ。これも「邪悪な精神」と「凡庸な欲望」に共感しながら読んでいくと、最後にとんでもない話になっていて大変なことである。
●カルロス・クライバー久々の正規盤、「田園」をお聴きになった方は、ぜひ「ヲレサマ レコメンド」の該当スレッドに感想を書き込んでやってください。あ、ワタシはまだ買ってないっす。(11/18)
Books: 2003年11月アーカイブ
「ポップ1280」
「憎しみの連鎖」
●スチュアート・カミンスキーの「憎しみの連鎖」(扶桑社ミステリー文庫)を読んだ。シカゴのユダヤ人老刑事エイブ・リーバーマンを主人公とした警察小説で、シリーズ5作目(たぶん)。ワタシはこのシリーズの大ファンで、新刊を見たら必ず買うことにしていたのだが、1月に発売されたらしい本書を完全に見落としていた。小さな(つうかフツーの)書店だと扶桑社ミステリー文庫は置いていないところも多いっすからね。「読みたい読者」と「売りたい出版社」の間を結ぶ糸は細すぎる。
●で、期待通り、すばらしく傑作。大体毎回テーマになるのは現代アメリカの人種問題と家族の問題。今回はイスラム対ユダヤという対立を軸に、アフリカ系、ラテン系、アジア系など様々な人種が交叉するシカゴの街に起きる犯罪と、それに立ち向かう警察を描く……ってところはそれほど読みどころでもなくて、楽しめるのは奥行きのある人間ドラマの部分。主人公もその相棒の刑事もタフガイなんだけど孫がいる程度には老いているってところがミソで、「人間歳をとっても枯れるばかりじゃなくて、いろんな問題抱えながら毎日やっとこさ生きているんだなあ」って感じが味わい深いんである。登場する大人はしっかりと成熟していて、若者はちゃんと青臭く描かれている。そこがいい。シリーズまるごと強くオススメ。(11/12)
「取るに足りない殺人」
●ジム・トンプスンの「取るに足りない殺人」(扶桑社)を読んだ。今年9月の新刊だが、原著は1950年、つまり半世紀も昔のミステリーなんである。ワタシは全然ミステリー・ファンじゃないので、まったく事情には疎いんだけど、遅れて訳された古典なんでしょう。
●で、これはとてもおもしろかった。悪を悪とも思わない主人公による保険金詐欺を描いた犯罪小説、といってしまうとあんまりおもしろそうじゃないが、登場人物の描写が非常に優れている。邪悪な人間と凡庸な人間の嫌らしさがよく出ていて、この邪悪さや凡庸さがワタシたちの自身の邪悪さや凡庸さと同じものであり、ただ拡大されているだけだという感じがよく伝わってくる。底意地の悪いユーモアもちょっぴりあって、ワタシは好きだ。邪悪な精神と凡庸な欲望ってのは、フツーの人ならだれだって否定できない身に抱えた罠っすからね。そのあたりの救いのなさかげんがいい感じ。
●細かいところでは、はやっていない町の映画館を経営することになって、どうやってそれを繁盛させるかっていう話があって、これなんかもちょっと気が利いている。狡猾な悪知恵なんすけどね。
●読みやすいので、構えて読む必要はなし。ジム・トンプスンは一通り読んでみようかなあ。(11/05)