Books: 2004年5月アーカイブ

May 20, 2004

「KGBの世界都市ガイド」

KGBの世界都市ガイド●前から気になっていた「KGBの世界都市ガイド」(晶文社)をようやく読んだ。旧ソ連のKGB職員、つまりスパイが書いた各国都市案内っていう体裁なんだけど、まあスパイ日記みたいなもので、そりゃもう抜群のおもしろさなんである。ロンドン、ベルリン、ワシントン、東京、リオ・デ・ジャネイロ……。それぞれ都市ごとに書き手は違ってるんだが、共通項はいくつかある。旧ソ連のスパイのみなさんは、みな知性と教養、ユーモアとウィットに富んでいる。実質、裏外交官みたいなもので、人をひきつけることが仕事の第一歩だから。これガキの頃に読むと、「大きくなったらソ連のスパイになりたい」と思う、きっと。
●本書では、例外なくスパイは赴任地の文化に魅せられる。ではロンドンでリュビーモフ大佐の告白を。

 イギリスに対する禁断の情熱は身震いするほどで、このたわむれの恋はほとんど背徳の感じすらした。そのとき、イギリスの方へ韻を踏んだ鉛の弾丸が飛んできた。わたしは淫蕩にふけるソーホーの居酒屋、山高帽をかぶり、お定まりの傘を持ったうんざりするような聖職者たち、礼儀正しすぎる猫かぶりのレディたちを意地悪い詩で笑いとばした。

 イケてます、リュビーモフ大佐。あと、みなさん逸話好きっすね。拷問博物館に立ち寄って、恐ろしげな蝋人形を見てこうおっしゃる。

 それでも過去には善も存在した。死刑囚をラドゲイトから絞首台が心地好く配置されたハイド・パークまでの長い道を連れていき、途中ではより陽気に吊られるようにパブでたっぷり飲ませた。そのうえ、市民は男女を問わずに誰でも犠牲者と結婚を希望すれば死刑囚を解放することができた。
 処刑の運命にあったイギリス女性が、見物の群集の中の男から受けた申し込みを、あんな出来損ないと二人きりの生活よりも絞首台を選ぶわと言って拒絶したというケースが有名である。

●しんみりするような「いい話」もあって、「東京」の章など、涙なしには読めない。ワタシゃこれ読んで、もしKGBのスパイからエージェントになってくれと頼まれたら、喜んで打倒米帝のために協力したいと思った。もうソ連なんて存在してないけど。

May 18, 2004

「トンデモ科学の見破りかた」

トンデモ科学の見破りかた「トンデモ科学の見破りかた -もしかしたら本当かもしれない9つの奇説」(ロバート・アーリック著/草思社)を読んだ。似非科学のインチキを暴くような本はいくらでもあると思うのだが、この本の視点はありふれた啓蒙書とはちょっと違っていて、「一見、インチキのように思えるけども、ちゃんと確かめてみると本当かもしれないので検討してみる」というスタンスである。わかりきったインチキ糾弾はおもしろくもなんともないが、インチキ臭い奇説に一面の真実ありって話はおもしろい。検証方法はまっとうな自然科学、統計学の手法に依拠したものである。
●で、その検証の対象となるテーマが「銃を普及させれば犯罪率は低下する?」といった身近な(?)ものから、「未来へも過去へも時間旅行は可能?」というスケール大きすぎるものまで様々なのだが、ワタシは十分に楽しめた。特に一つ、腰を抜かしそうなくらい驚かされた「真実かもしれないトンデモ」があったのだが、どれかは言わない。ネタバレになるので。
●一つだけ残念な点。章立ての順番が違っていたらもっとおもしろかった。序盤が退屈なのである。「とっておきのネタ」は後にとっておくよりも、一番頭に置いて、グワシッ!と読者をつかんだほうがいいと思うがなあ、書籍の場合。

May 11, 2004

「西瓜糖の日々」/暗いニュース

西瓜糖の日々●リチャード・ブローティガンの「西瓜糖の日々」(河出文庫)。若者は今これ持ち歩くとカッコよさげです(ウソ、たぶん)。
●アイデス(iDEATH)という死んだような静的な世界がある。そこには穏やかなコミューンがあって、主人公は名前も必要としない。世界の大部分は「西瓜(スイカ)糖」でできているという淡さ。同じ世界の中にインボイル(inBoil)という異質な世界がある。ここには野卑な飲んだくれがいて、暴力がある。両者が微かに対立し、アイデスが残る。これ、どんな風に受け取られているんだろう。これはハッピーエンドではなく、アイデスという静かな世界の残酷さ、救われなさを描いたものとして読んだ。アイデスへの羨望を感じるがゆえに。

 ここの太陽のことは、おもしろい。毎日、違った色で輝くのだ。(中略)灰色の日に採られた灰色の西瓜の種子を灰色の日に蒔くと、灰色の西瓜がとれる。そういうふうにやる。
 じっさい、じつに簡単だ。日々の色彩と、西瓜の色の関係は次のとおり--
 月曜日 赤い西瓜
 火曜日 黄金色の西瓜
 水曜日 灰色の西瓜
 木曜日 黒色の、無音の西瓜
 金曜日 白い西瓜
 土曜日 青い西瓜
 日曜日 褐色の西瓜
 きょうは灰色の西瓜の日だ。わたしは明日がいちばん好きだ。黒色の、無音の西瓜の日。その西瓜を切っても音がしない、食べると、とても甘い。
 そういう西瓜は音を立てないものを作るのにとてもいい。以前に、黒い、無音の西瓜で時計を作る男がいたが、かれの時計は音を立てなかった。 (ブローティガン「西瓜糖の日々」より)

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●社会や世界との隔たりを感じさせられるニュースばかりだと、ホント、自分ヤバすぎって気になるっすよね。京都府警が Winny 開発者を著作権違反幇助容疑で逮捕。ワタシには開発者が逮捕される理由がまったくわからない。

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