●「ゴッドファーザー」「ある愛の詩」「ローズマリーの赤ちゃん」らで知られるパラマウントの伝説的な映画プロデューサー、ロバート・エヴァンズの自伝映画「くたばれ!ハリウッド」を観た。劇場で見たかったのだが、見逃してWOWOW鑑賞。が、なんだか想像していたものと全然違う。主に昔のフィルムをつなげた映像に延々と頭から最後まで一人称ナレーションがかぶさっているという低予算映画で、ワタシはてっきり波乱万丈のエヴァンズの人生をドラマ化しているのかと思ったら、単なるドキュメンタリーではないですか。まるで成功した年寄りの長い自分語りにつき合わされているようなもので、居心地の悪さといったらない。あー、劇場で見逃しててよかった。
●で、この映画に落胆したのは期待が大きすぎたせいもあって、実は先に読んでいた原作の「くたばれ!ハリウッド」(ロバート・エヴァンズ著/文春文庫)は猛烈におもしろかったんである。型破りな人物が才能やらハッタリやら機転やらを利かせて成り上がったりドン底に突き落とされたりする姿を、とても率直に綴っている。ユーモアの質も高く、抱腹絶倒のエピソード多数(ナボコフの新作の映画化権をコロンビアにさらわれる話とか可笑しすぎる)。おまけに当事者ならではの映画関係トリビアも満載。ロバート・エヴァンズ時代の映画に疎いワタシですら夢中になって読んだくらいで、映画ファンだったら無限に楽しめると思う。オススメ、原作だけ。
Books: 2004年10月アーカイブ
October 19, 2004
「くたばれ!ハリウッド」
October 8, 2004
気になる部分(岸本佐知子)
●先日、当欄にニコルソン・ベイカーの「中二階」についてのエントリーを載せた。で、そのニコルソン・ベイカー作品の翻訳者である岸本佐知子のエッセイ「気になる部分」(白水社)を読んだのだが、これがもうムチャクチャに可笑しいんである。翻訳についてのエッセイではなく、日常にひそむ「気になる部分」をマイナー者の視点で観察したもので、その鋭さとヘンさ具合がすばらしい。翻訳小説読んで作者を「なんてこりゃ変わった人なんだろう」と思うことはいくらでもあるだろうが、その翻訳者の本を読んで「この人のほうがもっとスゴいかもしれない」と思える体験はめったにない。
●たとえば最近、巷で聞く「ポジティブ・シンキング」とやら。これを元来ネガティブな人間がやれば早死にするだけだと看破し、積極的なネガティブ・シンキングを勧める。
いらい私は、心ゆくまでひがんだり、くよくよしたりすることに決め、あまつさえこれを一つの趣味にまで高めていったのである。(中略)
私のお気に入りのガミネタの一つは、<飲食店で邪険にされた思い出>のパターンである。特に新宿のTというおでん屋、ここの夫婦はなぜか私を目の敵にしており、私の注文は必ずといっていいほど聞こえないふりをするか忘れるかし、ある竹輪麩を「ない」と偽ったりするのである。(中略)<自分だけ仲間はずれにされた>もよく効くネタだ。何か月かに一回定期的に開かれる食事会に呼ばれていたのだが、半年ほど連絡がなかったので、メンバーの一人に「あの会、最近どうしちゃったんだろうね?」と訊いたところ、口ごもり、目を逸らされた。私抜きでちゃんとやっていたのである。他に<旅先でボラれた><自分の並ぶ列が必ず一番遅い>なども定番である。そうやって、その時の気分に応じて好みのネタをセレクトし、心ゆくまでひがみエクスタシーを味わったあとは、すっきりとした気分で安眠でき、朝の目覚めもさわやかで、体調もすこぶるいい。(「私の健康法」~「気になる部分」より)
●すっごく頭のいい方なんだと思ったです。脱力しつつオススメ。