Books: 2005年8月アーカイブ

August 10, 2005

クチュクチュバーン(吉村萬壱)

クチュクチュバーン●本屋さんに行ったら、「クチュクチュバーン」(吉村萬壱/文春文庫)が文庫化されているのを見かけた。何年か前の文學界新人賞受賞作。これ、読んだ? ワタシは単行本のほうで読んだのだが、近年これほど強烈な小説はなかった。なにしろ一切の説明もなく、あらゆる人間が次々とさまざまな異形の怪物に変異していくという不条理な話で、ある者は蜘蛛人間、ある者はシマウマ男、ある者は犬人間と化す。救いも希望もない、震え上がるようなおぞましき世界が現出するのだ。遠慮して割と平和な光景を引用しておくけど。

 この地域の外れに処理施設はあり、前山はここに収監された。来る日も来る日も、見たこともないような人間が送られてきた。化け物たちは五十体ずつ部屋に監禁して餓死させた。大概食い合いが始まり、何体かは最後まで生きている。それを拘束して頭をハンマーで叩き割り、すぐさま解体にかかる。

●いや、単に気持ち悪いっていうんじゃなくて、人間の剥き出しの欲望ってこんなに醜悪だから、平和な日常なんて一枚めくればこれっくらい絶望的なんだよっていう話、きっと。

August 2, 2005

ピアノ調律師(ゴフスタイン)

ピアノ調律師●ピアノのリサイタルでは、ヒーロー/ヒロインはピアニストである。が、だからといってピアノを学ぶ子供がピアニストに憧れるかというとそうとも限らない。たとえば、さまざまな器具を用いてピアノの音を一変させる調律師が、魔術的で神秘的な存在として、ピアニスト以上に輝いて見えることだってあるだろう。
●絵本作家M.B.ゴフスタインの最新刊は「ピアノ調律師」(すえもりブックス)。大人のための絵本、というかもはや絵よりも言葉の比重が大きくなり、ちょっとした短篇小説くらいの読み応えがある。主人公である老ピアノ調律師は孫娘にピアノを教えているが、少女が目を輝かせるのは調律の瞬間である。ピアノ調律師の古い友人である世界的なピアニストが言う。

 わたしがあの子の年の頃には、もうロシアの王妃さまの前で演奏していたんだよ。ルーベン、君の小さな孫娘も、わたしと同じように才能があるかもしれない。だけど、世界中の何よりもピアニストになりたい、と思うのでなければ、そうはなれないと思うよ。あの子はピアノ調律師になりたい、とそう言っていたじゃないか。

 子供は自分が何者であるかを知っている。大人になると自分が何者かを探しはじめる。

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