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Books: 2006年6月アーカイブ

June 8, 2006

虹を掴む(川淵三郎著)

虹を掴む●「うーん、これってビジネス書ノリの自伝なのかなあ、それともサッカー本なのかなあ」と一抹の不安を覚えつつ手に。「虹を掴む」(川淵三郎著/講談社)。が、読みはじめたらもう止まらない。Jリーグ創設よりずっと前からワールドカップ2006を迎える現在まで、日本サッカー界のもっとも「当事者」って呼ぶにふさわしい人が書いているんだから、「ええっ、そうだったの!?」「あのウワサは本当だったんだ」みたいな発見が無数にある(もちろん暴露本にあらず)。
●川淵キャプテンは元日本代表とか代表監督だったとかいっても、それはまだ企業が福利厚生のためにサッカー部を作ってた頃の話。選手も監督もみんなアマチュア、サッカー界を離れたら企業人。古河電工でフツーにサラリーマンやってて、出世して、いよいよ本社の営業部長にでも、ってときに子会社に出向になっちゃう。失望。それがきっかけでサラリーマンを辞めて、サッカー界に復帰し、Jリーグ創設にかかわる。大企業で営業の仕事してた人が、ジーコを代表監督に招聘することになったわけだから、もう人の未来ってのはホントにわからない。
●どこ読んでもおもしろいんだけど、個人的にはやっぱりフリューゲルスとマリノスの合併問題のあたり。フリューゲルスのサポーターは、合併を許してしまった川淵チェアマン(当時)に対して今だってあまりいい印象は持ってないだろう。ワタシらマリノス・ファンだっていつまでもFの字の十字架を背負い続けなきゃいけない。ファン視点ってのは「夢」だから、あれでみんな怒ったし、傷ついた。
●じゃあチェアマン視点に立てばなにが見えるかっていうと、バブル経済崩壊に苦しむ佐藤工業、全日空、日産自動車、「一抜けた」と言いたくてしょうがない他のJクラブ母体企業の人々、そして「フリューゲルス」の名前をくれるならお金を出すといってきたある企業。つまり見えるのは「仕事」。社会人なら同じ立場に立ったときに自分になにができたか的なことはチラリとくらいは想像するんじゃないだろか。ワタシは仕事のできる人、仕事に情熱を注げる人を無条件で尊敬する。
●J創設当時のノリとかもわかって楽しいっすよ。松下電器が米ユニバーサルを買収した頃だったから(ああ、バブルだ)、チーム名を「大阪ジョーズ」にいったん決めてたと(笑)。瀬戸内海にサメが出没する事件が起きてこれはマズいっていうんで「ガンバ大阪」に変更したそうだけど、ジョーズってあり得んと思うでしょ。でもあり得たんすよ、みんなでチアホーン吹いて浮かれてた狂躁のあの時代には。

June 6, 2006

「族長の秋」(ガルシア・マルケス) 騾馬の群れの悲鳴と谷底に落下するピアノのためのデュオ

族長の秋●ガルシア・マルケスの「族長の秋」(集英社)を再読中。「百年の孤独」と並ぶガルシア・マルケスの代表作。ラテン・アメリカの架空の国における大統領を描く。テーマは「愛の欠如」(ってのに最初に読んだときはピンと来てなかったのだが)。この物語に登場する印象的な音楽シーンは二つある。一つは、毎夜繰り広げられる死の拷問に覆いかぶさる大音響のブルックナーの交響曲。もう一つは「騾馬の群れの悲鳴と谷底に落下するピアノのためのデュオ」。
●大統領は権力を掌握すると、旧来の恥ずべき悪習を一掃しようと考えた。たとえばコーヒー農園の仮装パーティのために、騾馬たちがグランドピアノを背負って断崖絶壁の道を辿るなんてのは止めさせようと、高地に鉄道を建設した。なぜか。

つまり、彼は奈落の底でめちゃくちゃに壊れている三十台のグランドピアノの惨状を、やはりその目で見ていたのだ。このグランドピアノのことは外国でも話題になり、大いに書き立てられたけれど、その真相を知っている者は彼ひとりであった。たまたま窓から外を見たまさにその瞬間に、最後尾の騾馬が足をすべらせ、ほかの仲間を巻き添えにして谷底へ落ちていったのだ。したがって、転落していく騾馬の群れの恐怖の悲鳴と、その道連れになり、虚空に侘しい音をいつまでも響かせながら、谷底へと落下していくピアノの音楽を聞いた者は、彼以外にはいなかったのだ。

●このインパクトはシュトックハウゼンのヘリコプター弦楽四重奏曲を超えるな。いや、実在してないんだけど。

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