●古い本だが、「死のシンフォニー」(トマス・ハウザー著/創元推理文庫)を読んだ。IIZUKA T'sさんのブログで知ったミステリー。先日のフェルメール贋作関連エントリー(その1、2)と、関係してるようなしてないような話。
●原題はBeethoven Conspiracy(ベートーヴェンの陰謀)。ニューヨークに住むある若い女性ヴィオラ奏者のもとを、謎の男がパート譜を持って訪れる。「大金を支払うので、この曲を練習して、渡欧して演奏してほしい、ただし本件については一切口外しないでくれ」という。弾いてみるとまったく知らない曲であるが、この曲調はもしかしてベートーヴェン? でも未知のベートーヴェン作品があるとは思えないし……。ミステリなので殺人が起きる。刑事が事件を追う。
●クラシック音楽ファンにとってはとても楽しめる小説だ。未知のベートーヴェン(?)作品を巡って犯罪が企まれるという着想がいい。刑事が事件解決の鍵はベートーヴェンにあると推理して、捜査のために図書館で楽聖の生涯を調べるという趣向も吉(ややムリめだけど)。ただしクラシック好き以外にとってもおもしろい小説かどうかはよくわからない。作品が少し古くて、今だったら編集者にこの2倍くらいの厚さにふくらませてくれって言われるんじゃないだろか。文庫で300ページにも満たない。
●マルCが84年で、初版87年、今は品切か絶版。なので古本でしか手に入らない。少し前なら、こういう本を狙って買うなんてことはできそうもなかったわけだが、今ならamazonのマーケットプレイスに出品している古書店(や個人)からあっけないほど簡単に買える。場合によっちゃ、持ってる本でも書棚から探すより古本を発注するほうが手っ取り早かったりして。こういう便利さが、「絶版本を救え!」的な本への愛情から生まれたわけじゃなくて、効率的に大量に商品を売ろうというオンラインショップのシステムによって付随的に実現しちゃってるのがスゴい。
Books: 2007年11月アーカイブ
November 12, 2007
死のシンフォニー (トマス・ハウザー著)
November 1, 2007
クラシックでわかる世界史(西原稔著)
●新しい出版社アルテスパブリッシングの「村上春樹にご用心」(内田樹著)に続く第2弾は、「クラシックでわかる世界史」(西原稔著)。クラシック者は大雑把な音楽史年表みたいなものはなんとなく頭に浮かべられるし、物事はこんな順番で進み、発展したという音楽史観をその人なりに抱いていると思うんだけど、ついつい歴史を音楽の世界の中だけで完結させがちだったりする。音楽の世界の一歩外を出たときのヨコの関係がイマイチ見えない。でも音楽史を動かす原動力は芸術家の創作意欲ばかりじゃなくて、その外側にある社会の枠組み、政治や経済、宗教によるところが大きいわけで、まだ読み始めたところなんだけど、この本は世界史と音楽史をあちこちの重要ポイントでピタッと連結させてくれそうなんである。たとえばウィーン時代のベートーヴェンのパトロンというと、ボヘミアとかハンガリー、ロシアなどに領地を構える貴族たちやオーストリアの財界人たちが多く、ハプスブルク家皇帝の名前が挙がらない。どうしてそうなったのか。ってことがすっきりと腑に落ちる。オススメ。