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Books: 2008年9月アーカイブ

September 30, 2008

「わたしを離さないで」(カズオ・イシグロ著)

わたしを離さないで●えっ、この本、もう文庫になったのか。「わたしを離さないで」(カズオ・イシグロ著/ハヤカワepi文庫)。ブッカー賞受賞作、巷でも傑作と世評が高く、この表紙も魅力的で、読もう読もうと思いつつもグズグズしてて、ついこの前になってようやく単行本を読んだと思ったら、すぐ文庫で出た。ぐぐ。
●この小説はミステリーでは全然ないんだけど、読み始めると最初の1ページから「ん? この物語の背景はどうなってんのかな? この言葉はやはりアレを指すのかなあ」と読者を少しだけ宙ぶらりんにさせて話を進めるんすよ。だから、ミステリー仕立てでもあるとして、「ネタを割らない」っていう紹介の仕方もある。でもその一方で、フツーに文芸畑の人はあっさりネタを割って作品を語るし、割らないと作品内容について語りようもないわけで、新聞書評レベルでも堂々と割ってたような記憶がある。
●ワタシだったら、やっぱりネタは割れないなあ。何にも知らずに読むのがいちばんおもしろいから。ある特殊な状況下における若者たちの青春を描きながら、人間の生命の尊厳をテーマとした大傑作、くらいしかいえない。読後感に頭が真っ白になる。
●このステキな表紙なんだけど(もちろん物語と関係している)、もうしばらくすると「これが何の絵かわからない」という若者が読者対象になってくるんだろう。

September 4, 2008

「田舎暮らしに殺されない法」

●残暑である。公園に出かけると夏の終わりを惜しむかのようにセミがいっせいに鳴いている。これに無数の小鳥たちの鳴き声が加わる。異なるリズムと音程がこの上もなく複雑なテクスチャーを紡ぎ出す。これこそ「楽園の音楽」だ。決して人にこのようなものは創り出せない。ああ、自然ってすばらしい! 先日見た映画「画家と庭師とカンパーニュ」で描かれていた、フランスの田園地帯の素朴な生活がどんなに豊かに見えたことか。隣の家も見えないような山の中の家で、家庭菜園なんか作ったりして……おお、田舎暮らし、羨ましいぞっ!
●と、ワタシはすっかりと田舎暮らしに憧れてしまった。そこでさっそく以下の本を読むことにした、自分の目を覚ますために。
田舎暮らしに殺されない法●「田舎暮らしに殺されない法」(丸山健二著)。田舎暮らし歴40年の著者が、田舎暮らしに憧れる都市生活者がいかに軽率であり、甘えた幻想を抱いているかということを、手厳しく教えてくれる。なんて親切な本なんだろう。たとえば「自然が美しい」とは「生活環境が厳しい」と同義である、とか。なんでも料金を払えばサービスが受けられる都会と違って、田舎は日常生活の繰り返しにも多大な労力を費やす必要がある。癒しの光景なんてのんびり言ってられるのは旅行者だけだ。仕事はないから収入もない。リタイアしてから移住するなんて言ってるけど、田舎では体力もいる。都会は物騒だと思っているかもしれないが、実は田舎とは犯罪の巣窟である。助けを求めても頼りになるのは自分だけ。人間関係も難しい。移住して田舎の人々と心の触れ合いができた!なんて喜んでいるうちはまだまだで、金言かもしれんと思うのはこれ。「『付き合わずに嫌われる』ほうが底が浅く、『付き合ってから嫌われる』ほうが数倍も根が深い」。
●こういった考えればすぐにわかるようなことを、どうして田舎移住希望者の人々は見落とすのか。それはずばり「自立の精神の欠如」によると著者は看破する。以下引用。

 親に依存し、学歴に依存し、職場に依存し、社会に依存し、国家に依存し、家庭に依存し、酒に依存し、経済的繁栄の時代に依存しながらくぐり抜けてきた数十年のあいだに、自立の機会をことごとく失い、単に自分に課せられた勉強や仕事を通してのみ知り得る現実の厳しさだけを認識しているばかりで、本当のあなたは、自身からも世間からも逃げて逃げて逃げまくってきたのではないでしょうか。(中略)
 そうでなければ、田舎への移住をそこまで安易に、そこまで能天気に、そこまで発作的にとらえるはずがありません。

●この調子で延々と続く(笑)。気分爽快になれる。いかに己が怠惰な存在であるかもよくわかる(知ってたけど)。フランスの田園地帯のことなどすっかり忘れて、今日もがんばって働かなきゃ、って気分になれる。
●ちなみに実はワタシは海と太陽も好きである。真っ青な空と海、照りつける太陽、水平線を眺めながら浜辺でぼうっとする。これほど贅沢なことはない。沖縄とか、いいよなあ。憧れる。次は「沖縄移住に潜む恐るべき罠」とか、そんな本を読んで被虐の楽しみに耽りたい。

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