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Books: 2011年7月アーカイブ

July 14, 2011

「ラヴェル その素顔と音楽論」その3 ~ ララ!

●品切状態の本をさらにしつこく紹介する(笑)。「ラヴェル その素顔と音楽論」(マニュエル・ロザンタール著/マルセル・マルナ編/春秋社)。ラヴェルの譜面台に置いてあった楽譜。R・シュトラウスの「ドン・ファン」、リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」は前にも挙げたけど、ほかにはサン=サーンスのピアノ協奏曲第5番がいつも置いてあった、と。ラヴェルはロザンタールにこう言った。

「まさに、この一曲の中にすべてがあるんだ。こんなにも少ない素材で、ここまで完璧な結果を出せるんだからね」。

サン=サーンス:ピアノ協奏曲全集(パスカル・ロジェ)サン=サーンスのピアノ協奏曲はワタシも好きだが、普通だったら第2番ト短調か、あるいは第4番ハ短調を選びそうなものを、第5番ヘ長調とは意外。この曲、「エジプト風」の愛称の由来になっている第2楽章以降が、かなり気恥ずかしいタイプの曲で身悶えしてしまうんだが、まさかの第5番。ラヴェルも曲の悪趣味は認めていたようで、オーケストレーションの職人的な質の高さ、創意工夫を評価していたらしい……。
●ロザンタールがプッチーニを悪く言ったら、ラヴェルが「トスカ」全曲を弾いてくれたというエピソードもおもしろい。
●あと、ラヴェルの愛称。友人たちの多くは彼を「ララ」と呼んでいたという。こういう愛称の付け方がフランス語でどの程度フツーなのか、ワタシにはぜんぜんわからないんだけど、なんだかかわいい。プーランクは「ププール」で、著者によれば「プーランクにはなんともお似合いだ」となる。なんでラヴェルがララなの? プーランクはププじゃないの? ジェルメーヌ・タイユフェールは「メメーヌ」なんだって(笑)。ララもププールもオッサンの愛称としてはかわいすぎる。

July 12, 2011

「ラヴェル その素顔と音楽論」その2 ~ モテないラヴェル

ラヴェル その素顔と音楽論●先日ご紹介した「ラヴェル その素顔と音楽論」(マニュエル・ロザンタール著/マルセル・マルナ編/春秋社)について、さらに。古い本で品切中のようだが、ならばなおさら。
●「ボレロ」についてラヴェルとトスカニーニが対決したという話はあちこちで目にしたことがあるだろう。トスカニーニのテンポが速すぎたので、ラヴェルがなぜそんなテンポで振るのかと問いただすと、トスカニーニは横柄に「あなたのテンポで演奏したら決して成功しません」と答えた、というようなエピソード。著者ロザンタールによれば、それは「でっちあげ」なんである。事実はむしろ逆で、ロザンタールがラヴェルに「もっとゆっくり演奏してほしいと言ったのですか」と尋ねると、ラヴェルは「もちろん違うよ。あの晩、トスカニーニは、このうえもなくすばらしい手さばきで、『ボレロ』を演奏したんだからね。あんなふうに演奏するなんて誰にもできない」と大指揮者を絶賛したという。
●いや、だからといって通説がまちがいだ、けしからん、とは思わないっすよ。ロザンタールが真実を書いているとどうしてわかる?(ワタシは信じるけど)。大作曲家について、身近な人々の証言(さらにいえば本人の証言)が無条件に信じられることなんてまれなこと。「真実はどうか」なんて探ってもしょうがなく、むしろ「なぜその話をみんなが選択的に信じるのか?」のほうがおもしろい。
ラヴェル●この本が教えてくれることはたくさんある。「ボレロ」で彼の世界的なキャリアがはじまったというのだが、それはつまり人生最後の10年の話であって、おおむね彼は名声や栄華という点ではずいぶん控え目な人生を生きていたということになる。彼は主流派とはいえなかった。経済的にも成功していたとはいいがたい(大ヒットしたオペラもないし、演奏家として大活躍していたともいえないので)。1928年にアメリカ・ツアーを成功させて、「初めてお金を銀行に預けにいく」といって有頂天になったラヴェルに対し、著者は「無理もないだろう。フランスでは、ラヴェルはろくに収入がなかったのだから!」と書いている。数年後、ラヴェルを病魔が襲い、彼の体の自由が利かなくなってから、著者はラヴェルに代わって署名をしていたが、ラヴェルが受け取った金額は当時の生活費にほど遠かった、おそらく弟の援助で暮らしていたのだろう、生活はつましかった、というのだ。ワタシが抱いていた「ダンディで、クールなラヴェル」像からはかなり遠い姿だ。
●しかもラヴェルはあんなにおシャレさんなのに(身だしなみも、作品も)、女性にはモテてなかったというのも衝撃的だ。というか、ゲイみたいな印象も受けるが、それも違うらしい。プロフェッショナルな女性とは大っぴらに、そして盛んに楽しんでいた。が、「ラヴェルが女性との愛情という面ではぱっとせず、さみしい生涯を送ったことは認めなければならない」。本当だろうか。なぜモテない? 謎だ。

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